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「不安定な時代に住宅ローンはリスク」は本当か…不動産コンサルが考える持ち家vs.賃貸の損得勘定

  • 2023.4.2

持ち家と賃貸、どちらが賢い選択なのか。不動産コンサルタントの午堂登紀雄さんは「経済的な損得を考えると、持ち家が最もお得」だという。

※本稿は、午堂登紀雄『人生の正解をつくるお金のセンス 17歳までに知っておきたい「使う」「貯める」「稼ぐ」「守る」「増やす」の考え方』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

不動産業者のイメージ
※写真はイメージです

・登場人物
【慶太】しっかり者の17歳、現在高校2年生。バスケ部と弁論部をかけもちしている二刀流。高1の頃はパパの真似をしてアプリを開発・販売していたこともあり、将来は起業を目指している。
【パパ】慶太のパパにして、会社経営者。家計はすべてパパが握っている。将来は慶太も和泉も起業してほしいと考え、お金の面で困らないよう、いろいろ伝授に余念がない。

【穣一】パパの姉の子で、現在25歳の会社員。パパからは甥、慶太からは従妹にあたる。根はマジメで、パパのことを尊敬しており、よく相談に乗ってもらっている。

家は賃貸の方が楽でいい?

【穣一】前にメールした、家を買うかどうかって話の続き、いいですか?

【慶太】なになに? なんの話?

【穣一】家は、買うのと借りるのとではどちらがトクかなあと思いまして。

【パパ】そうだねえ、まず何をもってトクと考えるかだね。あとは家に何を求めるか。そういえば、穣一くんは入社3年目だっけ。だったら、今後異動や転勤、あるいは転職や結婚などの可能性もあるから、いまは賃貸のほうがラクかもね。

【穣一】でも、家賃がもったいないなあと。

【パパ】まあ、その気持ちはわかる。だから、別に買ってもいいんだよ。ただし、もし勤務地が変わって引っ越しすることになったら、その部屋を賃貸に出すだろう? それには、部屋のクリーニングやリフォームをして、賃貸仲介の会社に家賃などの条件を査定してもらって、どこの会社にお願いするか決め、募集図面を作ってもらって、入居者を募集してもらう、という手間が必要になる。

【穣一】聞いただけでもめんどくさそうです……。

持ち家でも気軽に引っ越せばいい

【パパ】これが賃貸なら、管理会社に退去日を連絡して、退去の立ち合いをすれば、ササっと出ていける。非常にラクだ。面倒なら賃貸がいい。

【穣一】「家を買ったら身動きが取れなくなる」って聞きますけど、そういうことなんですね。

【パパ】それはむしろ、心理的なものだと思うけどね。日本人は“終の棲家”みたいな発想が強いから、家を買ったらかんたんには引っ越しできないような気がするだけさ。でも、家も「自分の人生を豊かにするための道具」だと考えれば、必要なら気軽に引っ越せばいいと思うんだけど。それに、経済的な損得を考えれば、持ち家が最もトクになるんだよ。穣一くんは勤続3年だから、そろそろ住宅ローンも組めるだろうしね。

【穣一】僕の同僚は、一生賃貸だって言ってます。この不安定な時代に高額の住宅ローンを抱えるなんて、ハイリスクだと。

【パパ】雇用や収入が不安定な人ならね。たしかに、いつウツになったりして休職するかわからないという不安もあるだろう。でも、たとえば家賃が月10万円なら年間120万円、2年ごとの更新料が月1カ月分とすれば、10年で1300万円。30年で3900万円。

モダンなマンションの外観
※写真はイメージです
住宅ローンは老後の住居費の“前払い”

【穣一】そんな金額に! 家賃で家買えちゃいますよね。

【パパ】1人ならもっと小さな物件でいいけれど、結婚して子どもが増えれば広い家が必要だから、家賃ももっとかかるかもしれない。けれども、これらは垂れ流されるだけで、何も残らない。

【穣一】やっぱりもったいない……。

【パパ】特に効いてくるのが老後だ。もし生涯賃貸なら、年金や貯金の中から家賃を払わないといけない。田舎ならともかく、都市部だとけっこうキツイんじゃないかな。一方、持ち家なら、住宅ローンを完済すれば、住居費はほとんどかからない。もちろん、毎年の固定資産税はかかるし、古くなれば修繕費もかかるけれども、修繕は時期も内容も自分で選べるし。

【穣一】住宅ローンを抱えるのも不安ですけど、老後も不安はありますね……。

【パパ】やはり老後に住居費が少ないとか、何かあっても住む場所は確保できるのは、心理的にも安心だと思うよ。そう考えれば、住宅ローンは、老後の住居費の前払いみたいな感じだね。

資産価値という視点で住まいを選ぶ

【穣一】でも、持ち家は負債になると言われますよね。

【パパ】それは、負債になるような家を買うか、資産になるような家を買うかの問題であって、自動的に「持ち家=負債」となるわけじゃない。家の資産価値は「貸せる」と「売れる」で決まる。たとえば、都心の便利な場所なら、借りたい人、買いたい人はいるだろう?

【穣一】それはそうですね。

【パパ】逆に、不便な場所なら、借りたい人も買いたい人も少ない。だから、住宅ローンの返済額を下回る家賃でしか借り手が見つからないとか、住宅ローンの残債を下回る値段じゃないと売れない。そういう場合に、持ち家が負債になる。引っ越さないといけなくなったとき、貸しても足が出るから負担になるし、売っても残債が残ってやはり負担になるからだ。だからその逆、ローン返済額を上回る家賃で貸せる物件、残債を上回る値段で売れそうな物件を買えば、それは資産となる。

新築でも郊外なら“負債”になるリスクが高い

【穣一】でも、都心の物件は値段が高くて手が出せませんよね……。僕のいまの収入じゃ無理だよなあ。

【パパ】その場合は、中古物件を買ってリフォームするという方法もある。マンションなら、外見は古びていても、内装は新築同様にできる。戸建てでも、フルリフォームすれば新築と見分けがつかないぐらいにできるよ。

【穣一】でも、やっぱり新築に憧れますよね~。

【パパ】そういう人は多いね。だから、自分の年収で住宅ローンを組める金額の中から新築物件を選ぼうとする。すると、郊外とか駅から遠い物件となる。それが資産価値の低下となって、負債になることがあるというわけだ。特に、郊外・バス便のような物件だと、35年の住宅ローンを払い終えたときには、資産価値はほとんどなくなってしまう可能性が高いんだ」

郊外の住宅地
※写真はイメージです
住宅ローンはいくつも組める

【穣一】そういえば、先月結婚した職場の先輩の新居に行ったんですが、駅から徒歩20分以上かかってしんどかったです。先輩は毎日自転車で通っているそうです。雨の日は奥さんが車で送迎してくれるらしいですが、僕にはしんどいなあ。

【パパ】まあ、家に何を求めるか、優先順位は人それぞれだからね。とにかく広い家に住みたい場合は、ほかの条件を妥協してもそうしたほうが満足度が高いってことだろうね。

【パパ】もちろん、たとえば異動も転勤もない、転職もするつもりもない、という人だっているだろう。そんなふうに終の棲家として生涯そこに住み続けるなら、貸すことも売ることもないから、資産価値なんてどうでもいいことだけどね。でも、いまの家に住めなくなる状況が来る可能性があるなら、「貸せるか?」か「売れるか?」という視点での住まい選びは必要だと思うよ。

グレーのソファーが置かれた居心地の良いリビングルーム
※写真はイメージです

【穣一】僕の会社は全国に営業所があるので転勤はあると思うんですが、結婚するとある程度は希望を聞いてくれるそうです。

【パパ】そういえば、転勤のたびに住宅ローンを組んで家を買う人もいるよね。東京で買って、大阪に転勤になったら東京の家は貸して大阪で家を買い、福岡に転勤になって大阪の家も人に貸して福岡で家を買うとか。マイホームは合計3件だけど、2件からは家賃収入があるから負担も軽減される、みたいな。

【穣一】えっ! 住宅ローンって、何度も組めるんですか?

勤務地が都心ならその近くに家を買うべし

【パパ】もちろん。住宅ローンは自分が住む家を買うためのローンだけど、正当な理由があれば可能だよ。たとえば、独身でワンルームマンションを住宅ローンで買ったけど、結婚で1LDKを住宅ローンで買い、子どもができたから2LDKや3LDKを買うといった場合だ。転勤もそうだけど、結婚したり子どもができたりすれば、より広い家が必要になるだろう? だから、そういう銀行が納得する理由があれば、住宅ローンで買った家を人に貸しても咎められないし、返済中でも再び住宅ローンが組める。銀行にもよるけれど。

【穣一】知りませんでした!

【パパ】ただし、複数の住宅ローンを組むのは、それなりに年収が高くないと難しいけどね。まあ、前の家の家賃収入を考慮してくれる可能性もあるけど。

【パパ】もし家を買うなら、いまの会社の近くがいいんじゃないか? 東京の都心だろう? 値段も高いけど資産価値も高いし、通勤時間ももったいないから短縮できるし。

【穣一】そうですね。仕事で遅くなってもすぐ帰宅できて休めるし、朝もギリギリまで寝ていられるし。都心ならいろんなイベントに参加できて、人との出会いも多いですよね。最近は減りましたが、上司や同僚と飲みに行くのも楽ですし。

賃貸には資産価値は関係ない

【慶太】オレも、大学に受かったら学校のそばに住もうかなあ。

【パパ】慶太の場合は判断が難しいな。

【慶太】どうして?

午堂登紀雄『人生の正解をつくるお金のセンス 17歳までに知っておきたい「使う」「貯める」「稼ぐ」「守る」「増やす」の考え方』(技術評論社)
午堂登紀雄『人生の正解をつくるお金のセンス 17歳までに知っておきたい「使う」「貯める」「稼ぐ」「守る」「増やす」の考え方』(技術評論社)

【パパ】慶太は、勉強はもちろんだけど、起業したり旅行したり、いろいろやりたいことがあるんだろう? 留学もしたいって言ってたよね。つまり、学業以外にもいろいろお金がかかる。だから、家賃で出費が大きければ、ほかに使えるべきお金が少なくなってしまうんじゃないか?

【慶太】たしかに……。

【パパ】穣一くんは、いまは会社の仕事に没頭するのが最も優先順位が高く、ほかにお金を使うべきところはあまりないだろうから、多少住宅ローンの返済が多くても問題はないと思う。それに、穣一くんの場合は持ち家になるから資産性が重要だけど、慶太は賃貸だから資産価値は関係ないし。

【慶太】でも、さっき通学時間がもったいないって言ってたじゃない。

引っ越しの直前か直後の何も置かれていない部屋
※写真はイメージです
通勤時間による疲労は侮れない

【パパ】会社員の場合は、どうしても朝晩の通勤ラッシュに巻き込まれるからね。もちろん、混雑した車内でもスマホで情報収集ぐらいはできるし、オーディオブックで勉強もできる。とはいえ、やはりその疲労は大きい。それに、穣一くんが言っていたとおり、仕事で遅くなっても速攻で寝られるから、十分な睡眠時間を確保できて心身ともに疲れが取れる。一方、大学は授業を選べるから、通学時間をずらすことができる。ピークを外せば疲労は少ないし、座席に座ってパソコンを開いていろんなことができるだろう?

【慶太】じゃあ、大学の寮かな。

【パパ】寮があって入れるなら、それもアリだね。食事が出る寮もあるし。あとは、プライバシーが確保されているかどうかかな。個室ならいいけど、復数人のシェアでルームメイトが騒がしいヤツだったら困るだろう。

【慶太】あー、それ重要かも。

午堂 登紀雄(ごどう・ときお)
米国公認会計士
1971年岡山県生まれ。中央大学経済学部卒業後、会計事務所、コンビ二エンスストアチェーン本部を経て、戦略系経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして勤務。現在は起業家兼個人投資家としての活動に加え、講演や執筆活動もおこなっている。『33歳で資産3億円をつくった私の方法』(三笠書房)、『いい人をやめれば人生はうまくいく』(日本実業出版社)など著書多数。

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