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仲野太賀さん、20代は未熟で辛い 30歳の誕生日朝に実感した「あ、なんか楽になった!」

  • 2023.4.2

4月14日から東京、5月18日から大阪で上演される舞台ウーマンリブvol. 15『もうがまんできない』で、売れないお笑い芸人を演じる俳優の仲野太賀さん(30)。ドラマや映画と多方面で活動する仲野さんに、コロナ禍を経験した今、改めて舞台に立つ思いや、一歩踏み出せない人へのアドバイスなどをうかがいました。

――2月で30歳になりました。女性が30歳を前に、結婚やキャリアなどについて焦ることは「29歳問題」と言われます。同世代の女性に対して、仲野さんはどんな印象をお持ちですか?

仲野太賀さん(以下、仲野): 今は「20代までに結婚した方がいい」という時代ではないですが、そういう昔からの考え方はまだ根強くあると思う。女性は妊娠や出産のことを考えると「早くした方がいいのかな?」と考えている人もいらっしゃるでしょうね。軽率なことは言えませんが、僕の周りにいる同世代の知人や友人を見渡してみると、仕事的に自分の自由が少し効いてきて、20代前半に比べたらやりたいことをやれている人もいる。年を重ねるごとにどんどん魅力的になっているなという印象を受けています。

――ご自身は、年齢のことはあまり意識されませんか?

仲野: 僕はまだ結婚は考えられませんが、以前から30代になったら色々と楽になりそうだなと思っていました。20代ってまだまだ未熟で辛いと感じることも多いじゃないですか。傷つきやすいし、悩みやすいし。でも、30代になれば今までの経験からある程度は諦めがつくし、そうなればすごく楽になると思うんですよね。僕は30歳になったばかりですけど、誕生日の朝、目が覚めた瞬間に「あ、なんか楽になった!」って感じましたもん(笑)。

――目覚めた瞬間とは! 早かったですね(笑)。

仲野: 根本はきっと変わらないんだろうけど、色々な経験をして「生きる術」みたいなものを身に付けられるはず。今の社会に生きていたら、防御力が上がるのはいいことだと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

劇場体験もなくなり、感じていた寂しさ

――この作品も含め、コロナ禍のこの3年は、舞台は中止や延期を余儀なくされました。改めて舞台に立つことをどう感じていらっしゃいますか?

仲野: これまでは2年に1本ぐらいのペースで舞台に出ていて、直近は2021年の「いのちしらず」だったので、自分が出演する舞台にコロナの影響が出たということはなかったんです。でも、演劇が好きな方って、それまでは習慣的に観に行かれていたと思うんですよ。「この劇団の公演が夏にあって、あちらは冬にあって」といったリズムが1度なくなった。それに付随して劇場体験もなくなり、作品を見た後に語り合うような飲みの場もなくなった。ずっと寂しさを感じていました。

――私は昨年、4年ぶりに舞台を観に行ったのですが、生のお芝居を体感できる場があることに改めて感動しました。

仲野: 舞台をはじめとするエンターテインメントは、普段の生活からすれば一見、優先度の低いものと思われてしまうけど、やっぱり必要なんですよね。誰かが一生懸命作ったものを全身で浴びられる場所だし、自分の人生とは違う体験ができて、実人生にも返ってくると思うんです。

今回の「もうがまんできない」も、前回がコロナ禍で無観客。観られなくて残念に思っていた方が、たくさんいると思います。そういう人たちにも「やっぱり演劇って楽しいんだな」と改めて思ってほしいし、劇場で観ることの喜びや、役者たちのパワーを感じてもらえるようにがんばりたいです。

――役者さんのエネルギーを直に浴びることで「自分も今生きているんだな」と、私は感じるのですが、仲野さんは舞台からどんなものを感じていますか。

仲野: 一観客としては、役者さんの躍動感や情熱を感じる喜びがありますね。演じる側でいうと、お客さんの目の前でお芝居をするというのは演劇だけなので、その日、その瞬間の自分が俳優として生きている実感を得られる場所。舞台に立つ喜びは、そういうことなのかもしれないですね。2時間ほどの出番の間だけ、表現できる自分がいるような気がします。

朝日新聞telling,(テリング)

「阿部さんって何者?」

――今回の舞台「もうがまんできない」では阿部サダヲさんと共演します。仲野さんにとってどんな存在ですか。

仲野: 追いかけても追いかけても、いつまでも背中が見えない、俳優として目指すべき大先輩です。阿部さんがこれまでやってこられたことって、本当にすごいことばかり。演劇の世界の大スターであり、そこからテレビドラマの世界でも、大河ドラマ『いだてん』(2019年)で主演まで務めて。ものすごいキャリアなのに、それを全く感じさせない。フラットでつかみどころのない感じもあるし、「阿部さんって何者なんだろう?」っていつも思うんですよ。

――そういう方が同じ業界にいると励みになりますよね。

仲野: そうですね。以前、舞台で共演した時、激しいアクションシーンがあったんです。僕らはヘトヘトなのに、阿部さんは息一つ乱さず、ひょうひょうとされていて。発声も誰よりもかっこよかった。その姿が今でも印象に残っています。「真ん中に立つ人って、こうあるべきなんだな」という姿勢を見せてもらいましたね。

――舞台はその時その時の一回勝負だと思いますが、観客の反応は気にされますか?

仲野: 役者の性だと思うんですけど、「昨日はここでウケたのに、なんで今日はダメだったんだろう」ということは気にします。でも、自分の感覚で「昨日よりいい芝居できたな」と思う時に限って全然リアクションがなかったり、「今日はあまりうまくいかなかったな」という時に限ってすごく賞賛されたりしますから――。観客の方のリアクションに一喜一憂することはそんなに重要じゃなく、稽古場で積み上げてきたものを本番で出すことに集中しています。

朝日新聞telling,(テリング)

思い切って「エイヤ!」と踏み出すと…

――「ウーマンリブ」シリーズは、宮藤官九郎さんが「今やりたいこと」をストレートに表現する、というコンセプトの舞台ですが、20代後半から40代前半のtelling,読者の女性の中には「やりたいことがあっても一歩踏み出せない」という人も。アドバイスがあればお願いします。

仲野: う~ん、それに関しては踏み出す以外に選択肢はないんじゃないですかね。思い切って「エイヤ!」と飛び出してみれば、そこで得るものは何かしらあると思うんです。「失敗したらどうしよう」と考えたり、傷つきたくないと思ったりする気持ちもわかります。でも、例え失敗したとしても、極端な話、それで命を落とすわけじゃないですから。

――自分の中で不安に思っていることが大きすぎるから、余計に尻込みしてしまうのかもしれないですね。

仲野: やってみたら、そこまででもないこともあるし、よくよく冷静に考えてみたら案外なんでもなかったりする。不安要素を冷静に見つめてみると、一歩前に進むハードルが下がるということも、あるんじゃないかな。

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■品田裕美のプロフィール
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。

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