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アニメのスカートめくりに「そんなに目くじらたてなくても…」時代錯誤の夫に妻が抱える絶望

  • 2023.4.1
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パートナーの男性と「見えている世界が違う」と意識のずれを感じるときにはどうしたらいいのか。作家のアルテイシアさんとフェミニストの田嶋陽子さんが、本気でぶつかることの大切さや難しさについて語り合った――。(第3回/全3回)

※本稿は、アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

背中を向ける二人
※写真はイメージです
夫と「見えている世界が違う」

【アルテイシア(以下、アル)】うちの夫は私に女らしさや妻の役割を求めないけど、それでも見えてる世界が違うなと感じることは多いです。

【田嶋】どんなときにそう思うの?

【アル】たとえばタクシーに乗ったとき、運転手に失礼な対応やセクハラ発言をされるって、女性にはあるあるじゃないですか。それを夫に話すと「言い返したらいいやん」と言われたので、「きみみたいなゴリマッチョな男はそんな対応されないよね」と返しました。

【田嶋】そりゃあされないよね。絶対に下に見られないから。

【アル】密室で何かされたら怖いから笑顔でやり過ごすしかない、そんな経験を何度もしている人間と、そもそも舐めた態度をとられたことのない人間では、見えてる世界が違うんですよね。

【田嶋】それで、夫とはちゃんと話し合うの?

【アル】「まあそこに座りなさい」と言って、こつこつと説明します。自分の書いたコラムを「まあこれを読みなさい」とLINEでシェアすることもあります。

【田嶋】あなたはそれができるからいいよね。

【アル】「アルさんのコラムを読むうちに夫のジェンダー意識がアップしました」みたいな報告もよくいただくので、どんどん使ってほしいなと思います。それでちゃんと読むパートナーだったらまあ聞く耳を持つ人だろうし、歩み寄れる可能性はあるかなと。

彼女は彼に説明をしなかった

【田嶋】小説『僕の狂ったフェミ彼女』はおもしろかったんだけど、私が物足りなく感じたのはそこなんだよね。彼女は全然彼に説明をしなかった。

【アル】彼女は諦めちゃいますよね。そこがめっちゃリアルだなと思いました。いちいち説明するのってすごくしんどいんですよ。「いやでもさ」と遮られてクソリプされると、こっちも頭にきてケンカになるし。

妻から責められてるように勝手に感じて、不機嫌になる男性も多いです。「主人公のスンジュンが夫や元彼みたいでイライラした」って感想もよく聞きます。

【田嶋】彼女はスンジュンとセックスはするけど、フェミニズムのことを全然教えてあげないから不親切だと思う。

「男だってつらい」「冤罪もある」のセリフがリアル

【アル】男性が女性を穴扱いしてるみたいに、フェミ彼女はスンジュンを棒扱いしてる場面はありますね。

【田嶋】「言わないで察しろ」って昔の男の態度をそのまま男に返してる。男が女にやってきたことを可視化させたかったのかな。

【アル】ミラーリング(*1)だと思います。スンジュンが「男だってつらいんだよ」と返したり、性暴力の話のときに「でも冤罪えんざいもあるよね」と返したり、リアルすぎてめまいがしました(笑)。めまいしながらも「あなたは交通事故の被害者に向かって“でも当たり屋もいるよね”と言うのか?」と返せるといいんですけど。

【田嶋】そうやって意見を交わせばいいのに。

【アル】でも彼女がルッキズム(*2)の本を渡しても、スンジュンはちゃんと読まないですよね。自分から学ぼうとする姿勢がまったくない。

【田嶋】それでも、ネットで絡んでくるような知らない男じゃなくて、彼氏でしょ。だったら説明してあげればいいのにって思った。彼女がどう説明するかを私は読みたかった。

【アル】たしかに彼女とスンジュンがもっと本気でぶつかり合っていれば、違う結末になっていたかもしれませんね。ただ作者はハッピーエンドにしたくなかったんだと思います。それだとリアルじゃなくなるから。

【田嶋】こんな男社会の生き方を絵に描いたような男には、ちょっと説明するくらいじゃハッピーエンドにはならないよ(笑)。

狂っているのはどっちなのか

【アル】スンジュンは最後まで彼女の“偏った思想”を変えようとしてましたよね。「昔は普通の女の子だったよな」と念仏みたいに繰り返して「偏った思想に洗脳された彼女を救い出す!」とヒロイズムに酔ってる。そんな男と対話しても無駄だ、と諦める彼女の気持ちはわかります。

【田嶋】女の人と男の人は見えてる世界がぜんぜん違うから、ちょっと言われたくらいではわからないよ。2〜3回でいいから言葉を尽くして説明したらよかったと思う。

【アル】『僕の狂ったフェミ彼女』について「男と女、狂っているのはどっち?」というコラムを書いたんですよ。そしたら読者の女性から「夫にコラムを読ませたら自分で本を買ってきて、本を読んだ後に“今までごめん、僕が間違ってた”と謝ってきた」という報告をもらいました。

【田嶋】すごい、ちゃんと反省して謝れる男の人もいるんだ。いい話だね。

【アル】スンジュンよりマシな男もいると(笑)。私が一番ムカついたのは、彼女が弱ったときほどスンジュンが嬉しそうなところです。頼りになる彼氏アピールができる! と彼女のピンチをチャンスと喜ぶなんて、おまえの脳みそは肥溜めかと。

【田嶋】「守りたい」は言い換えれば、「自分をおびやかさない弱い女性、自分で立てない無力な女性でいてほしい」ってことでしょ。パートナーのためじゃなくて、自分に酔ってるんだよね。

*1【ミラーリング】女性に対してされる差別的言動の異常性を伝えるために、男性に対して同様の行為をすること。
例:女性に対して「おっぱい大きいね」と言う→男性に対して「ちんこでかそうだね」と言う。
*2【ルッキズム】外見に基づく差別。容姿差別。

男女の手
※写真はイメージです
守ってもらわなくていいから、ちゃんと話を聞いてほしい

【アル】コラムにはこう書いたんですよ。〈私は「きみのことを守りたいんだ〜フンガフンガ♪」みたいな曲を聞くと「何から? どうやって?」と思う。/べつに守ってもらわなくていいから、ちゃんと話を聞いてほしい。「女」じゃなく「一人の人間」として尊重してほしい〉。そしたら女性たちから膝パーカッションの嵐でした。

【田嶋】「ちゃんと話をきいてほしい」まさにそれだよね。

【アル】『愛という名の支配』に〈それでも男は、「女は弱いものだから、男が守る」のだと言います。いまの時代で女を守るということは、まずこういう状況の解決に手を貸してくれることです。それがほんとうの男のやさしさというものではないでしょうか〉って書かれてますよね。田嶋先生は30年前に同じことをおっしゃっていた。「差別するな、性暴力をやめろ」と声を上げてくれる男性こそが、女を守る男なんだって。

男性は「アクティブバイスタンダー」になって

【田嶋】あなたが動画を作ってたよね。飲み会で女性がセクハラされていて、男性の同僚が上司に「それはセクハラですよ」って注意する。あれはすごく助かる。いいよねぇ。

【アル】シオリーヌさんと一緒に創った「#ActiveBystander=行動する傍観者」の動画ですね。

ミソジニーが染みついたおじさんは女性の言葉を聞かないから、男性が「それセクハラですよ」って言うと効果があるんです。女性が言うと「ナントカさんは怖いなあ(笑)」と茶化されてしまう。だから男性こそ性暴力を見て見ぬふりしない、アクティブバイスタンダーになってほしいと思って、動画の主人公を男性にしました。

【田嶋】少し前『そこまで言って委員会NP』で、ゲストの女性が、「(昔のバラエティ番組では)後ろから芸人さんに胸をわしづかみにされたり……」って話をしてたの。でもそのとき彼女は「芸人さんが必死に爪痕を残そうと思ってやってることだから、そんなに嫌な気持ちではなかった」って言ったんだよ。私は内心「ヤダなぁ。男社会に過剰適応だよ」って思ったんだけど、面倒くさくなって何も言わなかったら、司会の野村明大さんが「でも何を言い訳しても、胸をわしづかみとかまったく言い訳にならないですけどね」って言ってくれて。手を叩きたいくらいだった。

【アル】ほおー! 男性が「いや、それはセクハラだ」と言ったわけですね。

【田嶋】そう、すごく嬉しかったの。だからスタッフに「明大さんの発言を削らないで」って頼んだら「尺の都合でどうなるかわかりませんけど努力してみます」って言ってくれて、放送を見たらカットされずに放送されてた。

何もしないのは加害に加担しているのと同じ

【アル】男性にそういう姿をどんどん見せてほしいです。私はアクティブバイスタンダーという言葉をアメリカ生まれの通訳の友人から教えてもらったんですよ。アメリカではアクティブバイスタンダーという言葉が知られていて、第三者介入プログラムの導入により、性暴力の事件数が減った学校などもあるそうです。

たとえば、教室でいじめが起きているときに「自分はいじめなんかしてないし」「自分には関係ないし」と周りが見て見ぬふりをすれば、加害者はやりたい放題できますよね。やれることがあるのに何もしないのは、消極的に加害に加担していることになる。「それセクハラですよ」と注意できるような、男の子たちのロールモデルになるような男性が増えてほしいです。

【田嶋】男は一般に男性に注意されるとエリを正しますね。やっぱり一段低く見ている女性から注意されてもいまひとつというところがある。それほど女性蔑視は根強い。

子どもへの性教育で露呈する「分かり合えなさ」

【アル】夫との分かり合えなさについての悩みをよく聞きます。「夫と子育てするのはムリゲーだ」と悩む女性も多いですよ。

【田嶋】たとえば?

【アル】たとえば息子とアニメを見ていて、偶然パンツが見えたり胸に手が当たったりする「ラッキースケベ」とか、スカートめくりのシーンとかあったら、妻は「プライベートパーツ(*3)を触ったり見たりするのは相手を傷つけるからダメなんだよ」って話をします。でも、それを聞いている夫は「そんな目くじら立てなくても」とか言うんですよ。そういう意識のギャップをどうやって埋めていけばいいんでしょうか。

【田嶋】それも今に始まったことではないよねえ。今こうやってフェミニズムの風が吹いてきて、女の人の意識も変わったからダメだと言えるようになったけど、昔は女性もそういうことを無意識に受け入れていたよね。

【アル】ダメだと言えなかった女性も、ダメだと気づかなかった女性もいると思います。でも今でも多くの男性は気づいてないので、男女間でギャップが広がってるんです。

【田嶋】女性が丁寧に説明してあげてもいいんじゃない? 「昔は自分もこういうことに疑問を感じなかったけど、今はおかしいと思う。私はとてもイヤだった」と。この「私はとてもイヤだった」という私を主語にした言葉が大事。「だから息子が誰かに嫌な思いをさせないために、あなたにも協力してほしい」って。

*3【プライベートパーツ】口、胸、性器、お尻のこと。親であっても他人が勝手に触ったり見たり、逆に触らせたり見せたりしてはいけない部分。プライベートゾーンと呼ぶこともある。

「私」を主語にして体験を話す

【アル】そうですね。子どもを加害者にも被害者にもしないために、一緒に子育てするチームとしてやっていこうと。

アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)
アルテイシア・田嶋陽子『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』(KADOKAWA)

【田嶋】夫になかなか主張できない女性が多いけど、きちんと話せたらいいよね。遠慮しちゃうんだろうけど、もっとオープンに自分のイヤだった体験をしっかり話したらいいと思う。

【アル】私は自分の体験を話すことが多いです。「私も痴漢やセクハラにすごく傷ついて、今でも忘れられない」とか。男と女では見えている世界が違うから、夫は妻も性暴力に傷ついた経験があるとガチで知らなかったりするので。

【田嶋】うんうん。「私」を主語にするってとても大事。

【アル】自分の被害体験を話すのってキツいので、手紙やメールなど文章で伝えるのもおすすめです。文章にした方が言いたいことを言い切れるし、相手も何度も読み直して理解を深められるので。「大切な話があります」と改めて伝えないと、本気で聞かない夫も多いですから。本音は「おまえもジェンダーや性教育について学べよ! 親だろうが!」と投げ飛ばしたくなりますけど。

【田嶋】そうだね。女性が我慢しろって話にはしないこと。夫婦で協力して、一緒に子どもを育てていくチームとして歩み寄りたいのであれば、男が譲歩することも必要じゃないかな。

よく話せば男はわかると思うよ、女をさんざん穴と袋にしてきたんだから。

歩み寄らないと男女の溝は埋まらない

【アル】話し合って歩み寄らないと、男女の溝は埋まらないし、フェミニズムも前に進みませんよね。

【田嶋】腹が立つのもわかるんだけど、女の人が心底イヤがっていることを、キチンと言葉で伝える。

【アル】オギャーと生まれた瞬間から違う性別で生きてきて、感覚が違うのは当たり前ですよね。

お互いの違いを認めながら、議論して理解を深めていく、それが民主主義なんだと思います。私もたまに夫とドンパチしながら、がんばりますよ!

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