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バイドゥ「中国版ChatGPT」開発も 大規模言語モデル「いくつも必要ない」

  • 2023.4.1
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中国バイドゥ、対話型AIを発表(写真:AP/アフロ)
中国バイドゥ、対話型AIを発表(写真:AP/アフロ)(J-CASTトレンド)

【新連載】デジタル中国

米スタートアップOpenAIが、対話型人工知能(AI)「ChatGPT」を発表して4か月。マイクロソフトが自社のプロダクトに同技術を活用し、グーグルも対話型AI「Bard」をリリースしたことで、同技術への関心が高まり続けている。

一方、OpenAIがサービスを提供していない中国では、企業の間で「中国版ChatGPT」を開発する機運が活発化し、検索ポータル最大手のバイドゥ(百度、baidu)がついに「文心一言」(ERNIE Bot)をリリースした。同技術を巡って中国でどんな動きが起きているのか、紹介したい。

AI関連企業の株価が爆騰

この記事を読んでいる人は、ChatGPTがどんな技術であるか、自身で試して、あるいはSNSなどを通じて知っているだろう。筆者のSNSのタイムラインにも、自分の勤務先について質問したり、悩みを相談したり、原稿を書かせたりした結果が日々表示され、大喜利状態になっている。正確で自然な回答が示されれば、「ChatGPTすごい」と驚き、でたらめの回答が示されても、それはそれで盛り上がる。ITに詳しくなくても遊べるので、日本では娯楽的要素を伴って急速に知名度を上げた。だが中国の状況は違う。

ChatGPTは中国のIPアドレスや電話番号で登録できないため、日本のようなユーザー発の盛り上がりは起きなかった。代わりにChatGPTにスポットライトを当てたのは、常日頃から儲かりそうなネタを探している投資界隈だ。

1月下旬、米ニュースメディアのバズフィードがChatGPTに使われている技術を使って編集コンテンツを作成すると報じられ、株価が200%以上急騰すると、中国でも「恩恵を受けそうな企業」漁りが始まった。中国の投資情報会社には「深?、上海で上場しているAIに関係する企業はどこか」との照会が殺到し、大赤字を出しているAIスタートアップも、マイクロソフトと取引しているだけの中小企業も株価が上がった。WBCで日本代表が優勝し、大谷工業や村上開明堂の株価が突然上昇したような状況に近い。

"異常な"株価上昇に、証券取引所も当該企業を監視リストに加えたり、事業の中身を確認する質問書を次々に送った。多くの企業は市場の熱狂から距離を置こうとしたが、経営危機に瀕する海外高級ブランド通販サイト「寺庫(SECOO)」のように、突然「対話型AIを事業に組み入れる」と発表し、株価上昇を狙う企業も現れた(実際に株価は爆騰し、「なりふり構わぬ延命策」と炎上した)。

AI企業への転換を進める

次に注目されたのが、「中国版ChatGPT」開発競争だ。マイクロソフトが自社プロダクトにOpenAIの技術を搭載すると発表し、グーグルの対話型AI「Bard」開発が明らかになると、中国のメガテック企業の同様の動きも続々と報じられた。

中国EC2位の京東集団(JD.com)は2月、産業版「ChatGPT」の開発を表明し、同月10日に「ChatJD」の商標を申請した。アリババグループのグローバル研究機関であるアリババDAMOアカデミー(中国語:達摩院)でも、対話型AI技術が内部テストの段階まで進んでいるようだ。

中でも「中国版ChatGPT」の開発企業として本命視されたのは、検索ポータル最大手のバイドゥだ。同社はライバルだったアリババ、テンセントの2社に業績で突き放されたことから、2017年以降AI企業への転換を進め、2021年には自動運転機能を搭載した電気自動車(EV)の開発も発表した。マイクロソフトがChatGPTに使われている技術を自社の検索エンジン「Bing(ビング)」に搭載したことから分かるように、対話型AIは検索に破壊的変革をもたらすと期待されている。AIの技術と検索サービスを通じたデータの蓄積、そして応用シーンの全てを兼ね備えたバイドゥは2月7日に、「2019年から開発を続けている大規模言語モデル『文言一言』を3月中にリリースする」と発表し、3月16日に「文心一言」の発表会を開いた。

文心一言は「方言」を理解

文心一言がテキストベースで対話できる点はChatGPTと同じだが、ChatGPTにはない独自の強みが2点ある。

一つは「中国語理解」の深さだ。英語理解は米国のプロダクトに遠く及ばないが、バイドゥの李彦宏最高経営責任者(CEO)によるとことわざ、歴史上の人物、地名、詩、小説など中国固有の言葉を広く理解して正確な回答に導けるという。「国産」を強調するためか、方言の音声にも対応した。中国の有名な詩を、「四川方言」「広東語」「東北方言」などで暗唱させることができ、ユーザーが試す様子が既に動画サイトで配信されている。李CEOは方言機能を「皆が楽しんでくれれば」と語っており、まだ社会実装の詳細が見えないプロダクトを多くのユーザーに触れてもらう仕掛けの役割を果たすだろう。

また、「文心一言」は「〇〇を描いて」と入力すると画像を表示してくれる画像生成機能を有している。OpenAIが3月14日(米国時間)にリリースした大規模言語モデルの最新バージョンGPT-4は画像を理解する能力はあるが、画像生成はできない。ただしユーザーのフィードバックを見ると、「文心一言」の画像生成の精度は高くなく、SNSでは「××を描いてと頼んだらこんな画が出てきた」と面白画像コンテストのようになっている。「文心一言」は動画生成も準備しているが、3月16日には公開できるレベルに到達せず、機能のリリースを見送った。

「GPT-4には2年遅れ」との声も

李彦宏CEOは記者発表後に、中国テックメディア36Krのインタビューに応じ、「現在の文心一言はChatGPTの1月の水準」と、2か月の差があると語っている。完成度をもっと上げて世に出したかったようだが、リリース前に650社が協業を表明するなど、「(OpenAIのプロダクトを使いづらい)中国企業の強い焦燥感」が、バイドゥを急かしたという。発表会中にバイドゥの株価が10%下がるなど、市場もプロダクト完成度に敏感に反応しており、同社は3月27日に企業が文心一言を使うためのクラウドサービスを発表予定だったが、直前で発表会を取りやめ、個別説明会に変更した。

中国ネットセキュリティー大手、奇虎360董事長兼会長の周鴻?氏は、中国企業の大規模言語モデル技術はGPT-4とは2年の遅れがあると分析した。「OpenAIの技術革新スピードは想像以上で、中国企業が追い付くのは容易ではない」と認めつつも、「この流れに乗らなければ淘汰されてしまう」との見解を示した。

ChatGPT、グーグルのBard、バイドゥの文心一言と対話型AIがリリースされ、今はその優劣に関心が向かっている。また、中国ではIT業界出身の起業家が「中国のOpenAIをつくる」と続々プロジェクトを立ち上げている。だがバイドゥの李CEOは「AIに破壊的変化をもたらすこの技術をどう生かしていくかを考えるべき。大規模言語モデルはAIのOSのようなもので、いくつも必要ない。中国にOpenAIのような企業は現れないだろうし、スタートアップを含めたIT企業はChatGPTの後を追うのではなく、その技術を基盤にした画期的なプロダクトをつくった方が恩恵が大きい」と指摘している。

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