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実は大人たちの“成長物語”。傑作ドラマ 『マイ・ディア・ミスター』を今見るべき理由

  • 2023.3.25

日本が世界に誇る映画監督・是枝裕和から、K-POPや韓国ドラマなど韓国コンテンツの大ファンとして知られるドランクドラゴン・塚地武雄までもが大絶賛する韓国ドラマがある。

タイトルは『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(以下、『マイ・ディア・ミスター』)。2018年に作られたドラマで、日本でも民放BS局やローカル局で放映され、最近はNetflixほかインターネット動画配信サービスでも視聴できるとあって絶賛の声が後を絶たない。2022年11月には女優の戸田恵梨香がテレビ番組で「ハマッてしまって全16話を2日半でイッキ見しました」と熱く語っていたほどだ。

韓国ではそのタイトルのせいで「若い女性と既婚男性の恋愛もの」という誤ったイメージが広まり、放送前に誤解を受けた『マイ・ディア・ミスター』だが、その物語は“中年の危機”と“若者の危機”から始まる。

(画像=tvN)

建設会社に勤める構造エンジニアのドンフン(演者イ・ソンギュン。映画『パラサイト』で金持ち一家の父親役を記憶している人も多いだろう)は、ある日、会社に届いた差出人不明の5000万ウォン(約500万円)の商品券を受け取ってしまう。

その翌日、匿名の告発を受けた監査部から調査を受けるドンフンだが、机にしまっておいたはずの商品券は、なぜかビルのゴミ置き場で発見される。

訳もわからず「賄賂を捨てた男」として社内で英雄扱いされるドンフンは、商品券を捨てたのがジアン(漢字で「至安」と書く)という名前の派遣社員だと知り、「自分が捨てたことにしてほしい」と彼女に頼む。

派遣社員のジアン(演者イ・ジウン。韓国の国民的人気歌手IU)は、親が残した多額の借金を抱え、聴覚障がい者で寝たきりの祖母を介護しながら暮らす21歳の女性だ。会社で盗んだインスタントコーヒー2個と、皿洗いのバイト先から持ち帰った客の食べ残しで寒い夜を耐えている。誰がどう見てもお金に困っていた彼女は、実は、ドンフンの妻と不倫関係にある会社の社長からお金をもらうため、ドンフンを陥れようとしていた。

仕事もプライベートも安全第一主義であるドンフンと、最低限の社会保護システムすら知らず安全から程遠い生活を送っているジアン。2人がいる世界はあまりにも違う。それゆえに最初はいがみ合うが、情の深いドンフンはジアンに少しずつ善意を施し、ジアンの住む世界も少しずつ安全地帯に変わっていくのだ。

(画像=tvN)

無味乾燥な毎日を送る45歳のおじさんと、不遇な生活を強いられる21歳の女性。年齢や性別、社会的地位も異なる2人が徐々に心を通わせ、お互いが“安らぎに至る”ことを心から願う関係になっていく。

立場も考え方も異なるふたりが“不思議で尊い縁”を築いていくわけだが、その過程でからんでくる人間群像も多彩で面白い。

ドンフンの兄弟と母親、行きつけの酒場のママ、街の住民たち……。彼ら彼女らは皆、「自分たちは世間から見れば落ちぶれている」と自嘲するが、ちっとも不幸には見えない。ドンフンの心の支えになり、ジアンには救いの手を差し伸べる彼ら彼女らは、むしろ「落ちぶれてもいいんだ、それでも幸せになれるんだ」と思わせるほど人情味にあふれている。

酒場のママや街の住民たちがジアンを家まで送る時、「私たちにも20代があったのよ。年は取りたくないでしょ?」と聞かれたジアンは、疲れた顔でこう言う。「私は早くその年になりたいです。今よりは楽になりそう」。すると一瞬立ち止まってジアンを見つめる大人たち。温かい眼差しと微笑みで、彼らが深く共鳴する瞬間だった。

『マイ・ディア・ミスター』が伝えようとするのは、たとえ“地獄のような”生活であろうと、幸せになるためには「人」が必要だというとてもシンプルな事実だ。たった1人でも「どうってことない」と言ってくれる人がいれば、地獄のような人生も何とか耐えられるのではないか。

(画像=tvN)

「よく見てみると、どんな縁もすべて不思議で尊いものよ」。ジアンの祖母が最後に残した言葉にこそ、このドラマに込められたもうひとつのテーマがあると感じるのは筆者だけだろうか。

正直なところ、『マイ・ディア・ミスター』は誰もが気軽に観られるようなドラマではないかもしれない。物語は序盤から重くて暗く、暴力的な描写があり、1話が1時間以上で全16話もある。

しかし、登場人物たちの心情と緻密なストーリーを追った先に待っているのは、心潤う感動のラスト。もしあなたが主人公と同じ中年男性であれば、どっぷり深い余韻に浸るかもしれない。

騙されたと思って、この『マイ・ディア・ミスター』の世界観を味わってみてはいかがだろうか。そこに住むキャラクターたちがきっと、「あなたもまだまだ捨てたもんじゃない、明日もまた頑張ろう」と精一杯励ましてくれるはずだ。

文=李 ハナ(初出:WEBゲーテ連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」より)

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