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解決策が1つしかないことはわかっているのに…政府が皇位継承問題をズルズル先延ばしにしてきた本当の理由

  • 2023.3.24

政府は20年近く前から皇位安定継承の問題を議論してきたが、結論が先延ばしされてきたのはなぜなのか。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「政府はおそらく、この問題の本当の解決策が1つしかないことを知っているだろう。しかし、その解決策には強硬な反発が予想され、それに臆して先延ばしにしてきたのではないか」という――。

自民党大会であいさつする岸田文雄首相(党総裁)=2023年2月26日、東京都港区[代表撮影]
自民党大会であいさつする岸田文雄首相(党総裁)=2023年2月26日、東京都港区[代表撮影]
岸田首相「先送りの許されない課題」と呼びかけ

去る2月26日、岸田文雄首相は東京都内で開かれた自民党大会で、皇位の安定的な継承をめぐる問題に触れ、「先送りの許されない課題で、国会で検討を進めていく」と表明した。

これは、政府が昨年(令和4年[2022年])1月12日に皇族数の確保策を検討した有識者会議報告書を、国会での議論に委ねて以来、1年以上が経過しても、何ら目立った進捗が見られない現状に対して、さすがに苛立ちを覚えたためだろう。

国会の状況を見ると、確かに事態は呆れるほど動いていない。

また露呈した与党の「やる気のなさ」

政党の取り組みとしては、わずかに日本維新の会が昨年4月14日に、報告書にあった「旧宮家系国民男性を皇族の養子として皇室に迎える案」を高く評価する見解をまとめ、衆参両院議長に提出したぐらいだ。

自民党の場合は、先の岸田首相の呼びかけに対し、党の幹部が「首相発言は唐突で、具体的な指示は何もない」と反発する始末だ(読売新聞オンライン3月6日7時18分配信 )。

岸田氏の発言が口先だけのものだったことを裏付けるとともに、政府サイドから振り付けしてもらわなければ自発的には何一つ進めるつもりがない“やる気のなさ”が露呈している。

“自民まかせ・他党まかせ”の立憲民主

本来なら事態打開の先頭に立つべき野党第1党の立憲民主党も、驚くほど沈滞ムードだ。3月3日の泉健太代表の定例記者会見での発言では、“自民党まかせ・他党まかせ”の依存体質があからさまに出ていた。

「自民党がこの皇位継承についての議論をする環境をつくれば、他党は基本的に応じると思いますよ」
「他党との話し合いということを重視すべきだと思っておりますので…独自に今先立って立憲民主党がアピールするということを考えているわけではありません」

その「他党」の1つ、国民民主党の玉木雄一郎代表は雑誌のインタビューで次のように発言していた。

「今国会中には何らかの政党としての回答をしたいと思います。皇位の安定継承に繋がるあらゆる選択肢はできるだけ多く用意するという観点から議論を集約させていきたいと思っています」(『カレント』3月号)

立憲民主党よりは多少やる気があるということか。

次世代の皇位継承資格者は悠仁さまだけ

上皇陛下のご退位を可能にした皇室典範特例法が成立した時の附帯決議には、政府が「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について「速やかに検討を行い」、「速やかに国会に報告する」ように求めていた。その報告が昨年1月にまで遅れたのも問題ながら、その報告を受けた国会が“速やかに”「立法府の総意」をまとめるべきなのに、これまでほとんど放置してきた態度も異常と言わねばならない。

現在の皇室典範では、内親王・女王方はご結婚とともに皇族の身分を離れられる(次の世代を生み出せないご独身でしか皇室にとどまれない)。もちろん養子縁組も禁止されている。皇室は先細りして、いずれ自然消滅を避けられない局面にまで行き着くことになる。天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者は秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下ただお1方のみという危うさだ。畏れ多いが、このような状態では悠仁殿下のご結婚も至難となろう。

問題の焦点は、皇室が直面する危機をどう乗り越えるかにある。そのことがどれだけ真剣に自覚されているのか。

政府は解決策がわかっている

これまで、政府は問題解決の「先送り」を繰り返し、国会も無為無策を続けてきた。これはなぜか。少なくとも政府については、おそらくこの問題の本当の解決策が1つしかないことを知っていながら、それに着手した時に、政界の内外から多数ではないが強硬な反発が予想され、それに臆しているためではないだろうか。

その解決策とは、すでに小泉純一郎内閣の時に設けられた「皇室典範に関する有識者会議」の報告書に示されている(平成17年[2005年]11月24日。この時は私もヒアリングに応じ、報告書の結論は私の提言とほぼ重なる)。

「我が国の将来を考えると、皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途みちを開くことが不可欠」

この方向性に即して、皇室典範を具体的にどのように改正すべきか。この点については、すでに私自身が国会議員や法律家、立法事務の専門家などの協力も得て、全体にわたる条文案を公表している(拙著『「女性天皇」の成立』第5章)。

ここでは、その第1条の条文案のみを掲げておく。

第1条(皇位継承の資格)
皇位は、皇統に属する子孫が、これを継承する。

二重橋
※写真はイメージです
改正されれば愛子さまが皇嗣に

こうした、唯一の妥当かつ実現可能な解決策が実際に採用された場合、当然ながら現在の皇位継承順序は変更される。

皇室典範の第2条(皇位の順序)第1項には「皇長子」(第1号)を真っ先に掲げている。皇長子とは天皇の最初のお子様に他ならない。

しかし一方、皇位継承資格の「男系の男子」限定(第1条)という明治の皇室典範以来のルールが、“一夫一婦制”の下ではミスマッチなのにそのまま維持されているので、天皇陛下のご長女、敬宮としのみや(愛子内親王)殿下は除外され、本来なら後ろに回されるはずの傍系の「皇兄弟及びその子孫」(第6号)に該当する秋篠宮殿下と悠仁殿下が、皇位継承順位の第1位と第2位に位置付けられている。

ところが第1条が上記のように改正されると、天皇陛下のお子様でいらっしゃる敬宮殿下が第1位(皇嗣)となられる。その場合、敬宮殿下は「皇嗣たる皇子」に当たるので、「皇太子」とされる(第8条。「皇太子」という称号は男女に関わりなく用いられる)。

衆参両院の議決によって、このような改正をいつでも行うことができる。しかし一部の反対を恐れて、長年にわたってその手前で足踏みを続けてきたのが、実情だ。

有識者会議報告書は「最悪の提案」

今、政府が国会に検討を委ねている有識者会議報告書のプランは、残念ながらほぼ最悪の提案と言ってよい。真面目に皇位の安定継承を目指すなら改正が避けられないはずの、大きな問題を抱える現行典範のルールを前提に、今の秋篠宮殿下から悠仁殿下へという皇位継承順序をそのまま維持できる範囲内で、部分的で中途半端な制度の見直しにとどまっている(ただし、天皇陛下とご年齢が近い秋篠宮殿下のご即位は現実的には想定しにくい)。

具体的には以下の2案だ。

(1)内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する。
(2)皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする。

(1)については、女性皇族と国民男性が1つの世帯を営むという近代以来、かつて前例を見ない奇妙かつ不自然で、多くの弊害が予想されるプランだ。

社会通念上、皇室を構成する内親王・女王と“一体”と見られることが避けにくい配偶者が、国民としての権利を保持し続ける以上、政治・経済・宗教上の活動をまったく制約なく行うことができる制度になる。

そのような制度が、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」(憲法第1条)であられ、「国政に関する権能を有しない」(憲法第4条第1項)とされる天皇(および皇室)のお立場と整合性を保てるのか、どうか。およそ無理と考えるのが当たり前だろう。

憲法が禁止する「門地による差別」

(2)については、いわゆる旧宮家系国民男性が対象として想定されている。しかし、その対象者は皆さん、生まれた時から戸籍に登録された純然たる国民であって、そうした人を家柄・血筋(門地もんち)を根拠として、他の国民には認めていない特別な扱いをする制度は、明らかに憲法(第14条第1項)が禁止する「門地による差別」に当たる。

憲法上、「門地による差別」の例外になり得るのは、憲法第2条に「皇位は世襲」とあるのを根拠に持ち、国民とは区別して皇統譜に登録されている天皇・皇族(皇室典範特例法施行後は上皇も含む)“だけ”というのが、当然の原則であり、憲法学界の通説だ。その一方で、それらの方々は国民に保障される自由や権利は、全面的または大幅に制約されている。

これに対し、旧宮家を含む国民の中の「皇統に属する男系の男子」(多数存在する)は当然、皇室の方々とは異なり、これまで制度上、他の国民と違う特別な扱いがなされたことはないし、今後もあってはならないだろう。

なぜ「婚姻」以外の皇籍の取得を認めていないのか

ここで想起しておきたいのは、皇室典範が「婚姻」による以外は皇籍の取得を認めない(第15条)ことの意味だ。

法制局(内閣法制局の前身)編「皇室典範案に関する想定問答」(昭和21年[1946年]11月)には以下のようにその趣旨を述べている。

「臣籍に降下したもの及びその子孫は、再び皇族となり、又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を明らかにしたものである。蓋けだし、皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つためである」(カッコ内は原文のママ)

「臣籍に降下したもの及び“その子孫”」と明記してある。

(2)はまさに、この立法趣旨を真っ向から否定し、「皇位継承資格の純粋性(君臣の別)」をないがしろにする提案だろう。

もし(2)がそのまま制度化されたら、国民平等の理念を傷つけ、憲法違反の疑いを背負った皇族を皇室内に抱え込む結果となる。やがて、そのような人物の血統を引く子孫によって皇位が継承される可能性も否定できない。

万が一にもそのような事態になれば、天皇・皇室の公的な権威は大きく損なわれ、国民が抱く信頼と敬愛の気持ちも揺らぎかねない。

最善の出口か、最悪の出口か

(1)(2)はいずれも、そのまま制度化するには深刻な問題をはらみ過ぎていると言わざるを得ない。しかも、皇位の安定継承への展望には何ら貢献しない。

今後、政府・国会の皇位継承問題への取り組みを評価する場合に、判断基準となるものは何か。今回の有識者会議報告書の提案を最低ライン(これが最悪の“出口”)として、本来なら唯一の解決策とすべき「皇室典範に関する有識者会議」報告書の線(こちらは最善の“出口”)にどれだけ近い結論になっているかによって、それがどの程度、妥当か不当かを判断できるはずだ。

果たして、政府・国会はどのような皇室の危機の打開策を選び取るだろうか。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」

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