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落語家・柳家喬太郎が語る、新作落語。古くさいとか先入観だけで聴かないのはもったいない!

  • 2023.3.22
落語家・柳家喬太郎

柳家喬太郎と新作落語

ひたすら楽しく明るい噺(はなし)、苦み・残酷・卑怯も含めた人間の本質を描いた噺、落語にはどちらもあるけれど、現代人だからこそ抱く屈折を描けるのは新作落語の魅力の一つ。

ただし、そもそも新作落語と古典落語の違いは何なのかという話はあって、便宜的には新しく作られた噺、設定が現代の噺ということになるんでしょうけども、作った時は新しくても時代を経て残っていったら古典になるのかもしれないし、古典の時代を背景に作った新しい噺というのもあるから、これという線引きはなかなかできない。

まあ、言葉遣いや設定が身近な噺が多いから「ちょっと落語に興味があるな」という方には入っていただきやすいでしょうね。

ただね、そうやって落語を聴き始める方で、俺の新作を聴いて「喬太郎さん、落語ってこんなに面白いんですね」って言ってくださるお客さんでね、そこから色々お聴きになって、半年後には「やっぱ古典だよな~」っていう方のどれだけ多いことか!「てめえ、その口で半年前になんつった!」ってね、そんなこと思いませんよ、もちろん。フフフ。

これからお聴きになろうっていう方には、内輪にはなっちゃいますけど、SWA(すわつ)(創作話芸アソシエーション。林家彦いち、三遊亭白鳥、春風亭昇太、柳家喬太郎で結成。新作落語の創作・公演を行う)の面々をお薦めしたい。昇太兄さんの噺はわかりやすくて明るいから、初心者の方には特に入りやすいと思います。切ない噺もブラックな噺もあるのに不快な気持ちにならないのは兄さんの芸。代表作の『ストレスの海』も、かなりブラックなのに不思議と明るい。

白鳥兄さんはね、あの人のくだらなさときたらもう天才……、いや神。噺はハチャメチャですけど、作品世界は統一されているし、実はすごく緻密なんですね。台本もきっちり作って、稽古も熱心だし。バカバカしさの極致でいうなら、『任侠流山動物園』なんかは、もう突き抜けてます。

同期の彦いちさんは『掛け声指南』なんかがいいのかな。前に演ってたネタで『横隔膜万歳』ってのがあって、初めて聴いた時は心底、「なんだこりゃ!」と思いましたね。

サラリーマンの家に、ある日突然横隔膜が送られてくる。「アナタの横隔膜古くなってます。今無料でサンプルやってます」つって。で説明書読んで「なになに、ここんとこのツボ押して?で、こうするとガチャッと外れる?……アッ、外れたッ!」って噺、ハハハ。まだお互いに二つ目の頃の作品ですけどね、あの噺は俺、異常に好き。

俺の噺?俺のなんか一席も薦められませんよ……。『ほんとのこというと』はね、実は「よくぞ俺はこの話を作った」って思ってるんですけど、あまり評価されないね、フハハ。『夜の慣用句』『午後の保健室』『ハンバーグができるまで』なんかは、好きって言ってくださる方が多いかなあ。

落語家・柳家喬太郎
「古典落語と新作落語を半々で演じるのは純粋に落語が好きだから。死ぬ時にあの噺やりたかったな…なんて思いたくないんだよね」

人間の辛さも俗の極致も笑いに変える圓丈のすごみ

で、新作落語に慣れてきたら、これはぜひ三遊亭圓丈師匠を聴いていただきたい。『いたちの留吉』『悲しみは埼玉に向けて』『肥辰一代記』あたりの作品が、まずはお薦めですね。

『肥辰一代記』は肥汲みに命を懸けた男の物語なんですが、人間、十数分の間にあんなに「うんこ」って言うことなんてないですよ!小学生だってあそこまでは言わない。俗な話なのに、突き抜けすぎてて腹抱えて笑っちゃうんだからなあ。

圓丈師匠の作品はひたすらくだらないものもあれば、人間の独特の屈託を描いた、人生を考え直させられてしまうような、辛いのに、聴いているうちに引き込まれてまた聴きたくなるような噺も多い。げらげら笑うだけじゃなくて、そういうのだって、俺は娯楽だと思うんですよね。

古典落語に比べて、新作落語は古びるのがやっぱりすごく速い。人の話し方一つとってもどんどん変わっちゃいますから。そうやってくと、なくなってく噺もうんとある。でも圓丈師匠の言葉を借りると「残る落語がいい落語ではない」んですよ。俺だって後世に残すために新作落語作ってんじゃない。今俺がしゃべって、今ここにいる人たちが聴いて面白くなければ仕方がないわけで。

伝統とか伝承とかいっても落語はやっぱり芸能。もちろん、先人たちの功績には最大限の敬意を常に払っていますけど、尊敬のあまり継承していくだけになったら、血の通った、息遣いの聞こえる芸能ではなくなってしまうから。だから落語は古くさいとか、よくわからないとか、先入観だけで聴かないのは、とっっってももったいないですよ!ま、ね、聴いてみてダメならしょうがないけどさ。

新作落語の楽しみ方
・現代人ならではの微妙な感情に笑いを見よ。
・苦みや辛さもひっくるめた世界観を味わう。
・後世に残る噺だけが名作にあらずと心得る。

SWAの新作落語5選

豚次「お久しぶりでございます、パンダ親分さま!」
親分「パンパンパン♪パンダパン♪プクァーッ!ブランデー飲みながら食う竹はサイコーだぜ!誰かと思ったら豚次じゃねえか。テメェ、何しにやって来やがった!」
豚次「親分は檻の中と外じゃあ全然キャラクターが違うんでございますね」
親分「あたりめえよ、子どもの夢を壊しちゃいけねえからな
豚次「ああ左様でございますか。親分、お久しぶりで……」
親分「おう豚次。おめえ、よくこの上野動物園の敷居またげたな!」

『任侠流山動物園』三遊亭白鳥

あらすじ

客の減少に悩む千葉県流山市の動物園に残されたチャボ、牛、豚の3頭。実は任侠の流れ者である豚の豚次は、人を呼び戻すため、以前いた上野動物園を牛耳るパンダ親分に願いを立てる。この奮闘記の前後談『掛け取り上野動物園』『雨のベルサイユ』も必聴。

三遊亭白鳥
さんゆうてい・はくちょう/1963年生まれ。87年三遊亭圓丈に入門。2001年真打昇進。作品はほかに『マキシム・ド・呑兵衛』や『青春残酷物語』など。

セコンド「あのー、ムリスルコトナイヨー!ケガするといけない、大事な体はなあ、お父さんお母さんも心配してるー。ダカラムリスルコトハナイ、判定に持ち込まれたらかならずコレ負けだから!モドッテ、モドテ、今の時間に終わったら僕の知ってるタイ料理屋、まだマニアウカラ!こっちだよ!こっちだよ!今の時間だったら早割でイナカに帰れるからっ!」

『掛け声指南』林家彦いち

あらすじ

タイからボクシングのセコンドを目指して来日した気弱な男。おぼつかない日本語で掛け声の練習を始めるが、なかなか要領をつかめず叱られてばかり。日本の心を学んでこいと追い出され、新宿の街をさまよいながら人々に出会って、はからずも掛け声を学習していく。

林家彦いち
はやしや・ひこいち/1969年生まれ。89年林家木久蔵(現・木久扇)に入門。2002年真打昇進。作品はほかに『みんな知っている』『熱血怪談部』など。

妻「私が毎朝何時に起きてると思ってるの?11時よ」
夫「遅いなお前。俺9時に会社着いてる……」
妻「それだけじゃないのよ、11時に起きて、12時からテレビ観て、3時半から昼寝して、5時に起きて、6時から自分のこの足でお弁当屋さん行ってお弁当買ってきて、あなたの帰りを待ってるのよ。毎日どれだけ辛いか!」

『ストレスの海』春風亭昇太

あらすじ

ある主婦が現代人の健やかな生活を歪ませる“ストレス”について知識を聞きかじる。隣で昼寝をしている夫にストレスが溜まっていないか、突如心配になった主婦。日々の生活について聞き募ると、どうにも具合がよくない。そこでストレス解消のため2人でピクニックに出かけるが…。

春風亭昇太
しゅんぷうてい・しょうた/1959年生まれ。83年春風亭柳昇に入門。92年真打昇進。作品はほかに『愛犬チャッピー』『力士の春』など。

カシッ、カシッ、カシッ、カシッ……
「人はなぜ山に登るのか、そこに山があるからだと言ったヤツがいる。じゃあうどん屋の俺はなぜ山に登るのか。それは、山頂に客がいるからだッ!」

『遥かなるたぬきうどん』三遊亭圓丈

あらすじ

マッターホルンの山頂にいる登山好きの常連客から、足立区のうどん屋に入ったたぬきうどんの注文。山頂で待つ客に熱々のうどんを食べさせるため、防寒服に前掛け、防災頭巾、ゴーグル、そして幟を立てたリュックという完璧(?)な出で立ちで、うどん屋は険しい絶壁に挑む。

三遊亭圓丈
さんゆうてい・えんじょう/1944年生まれ。78年真打昇進と同時に3代目圓丈を襲名。シュールな作風で知られる新作落語の開拓者。

精肉店の主人「マモルちゃんよう!マモルちゃん!生きてるか!(中略)合い挽きが喜んじゃってよ、いや“買ってくれた!”なんつってよ、ウチの残りの合い挽きが、ハハハハ!ハッ、女物の靴!……そういう趣味か?違うか(中略)」
マモル「なーにおじさん、お釣り間違えた?」
精肉店の主人「釣りは間違えてない。俺、あのー、様子見に来たわけでもない。マモルちゃんがここにいるってことは……お留守ですかー?」
マモル「いや俺いるしここにだから。誰も……いるけど、いいじゃん別にいたっていなくたって」
精肉店の主人「いや、実はよ、今ウチ、キャンペーンやってて今日だけなんだけどさ、合い挽き300買ってくれた人には唐揚げ200つくんだよ。忘れててさ!」

『ハンバーグができるまで』柳家喬太郎

あらすじ

3年前に離婚し、一人暮らしのマモル。晩ご飯は出来合いの惣菜かお弁当で済ませている彼が、商店街の精肉店や八百屋、食料品店を訪れて合い挽き肉にタマネギ、パン粉…と買い物をしたものだから大変。人情あふれる商店街の店主たちが、マモルの天変地異は淋しさのあまり自殺を決意したからでは、と勘繰り始める。実は別れた女房のサトミがアパートを訪れ、ハンバーグを作ってくれたのだ。2人はヨリを戻すのか?

profile

柳家喬太郎(落語家)

やなぎや・きょうたろう/1963年生まれ。書店勤務を経て89年柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。04年度から3年連続国立演芸場花形演芸大賞受賞。通称「きょんきょん」。

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