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『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』監督が語る、若い人にこそ観てほしい理由【インタビュー】

  • 2023.3.21
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3月24日(金)より全国公開される映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』のブレット・モーゲン監督にインタビュー。“デヴィッド・ボウイ財団が公認した唯一の映画”として、財団から提供された膨大なアーカイブに監督が2年をかけて目を通した末に完成したのは、よくあるドキュメンタリーとは違う、まったく新しい「シネマ体験」。映画についてはもちろん、デヴィッド・ボウイ本人との対面の思い出や、映画を観たU2のボノやショーン・ペンからもらった最高のリアクション、そして現代のハリー・スタイルズにも通ずるようなボウイの先見性などについて訊いた。(フロントロウ編集部)

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が3月24日に公開

「デヴィッドは1970年の時点で、21世紀のために曲を書いていたと思います」。3月24日(金)より全国公開される映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』で監督を務めたブレット・モーゲン監督がフロントロウ編集部とのインタビューでそう語ってくれたように、デヴィッド・ボウイは常に時代精神を捉え、そのさらに先を見据えていたアーティストだ。

画像: 『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が3月24日に公開

1947年に生まれたボウイは2016年に亡くなるまで、そして亡くなった今なお、多くのアーティストに影響を与え続けている。そんな伝説的なデヴィッド・ボウイという人物をテーマにした映像作品は数多く作られてきたが、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が特別なのは、“デヴィッド・ボウイ財団が公認した唯一の映画”だということ。

ニルヴァーナの故カート・コバーンをテーマにした『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』や、ザ・ローリング・ストーンズを題材にした『クロスファイアー・ハリケーン』などのドキュメンタリー映画を手がけたことでも知られるブレット・モーゲン監督は、『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を制作するにあたり、財団から提供されたボウイに関する膨大なアーカイブのすべてに2年という歳月をかけて目を通した。そうして完成した本作をユニークな作品たらしめているのは、ナレーションや関係者などの発言が一切登場せず、話者はボウイのみという形で構成されているという点。

「日付、名前、情報から解放された、印象派的な映画を作りたかった」とモーゲン監督はオフィシャル・インタビューで語っているが、本作は、ボウイの人生における様々な地点から集めた映像や音楽、彼が参照した影響源を繋ぎ合わせるという手法で作られている。よくあるクロノロジカルな伝記的ドキュメンタリーとはまったく異なる、フロントロウ編集部に監督本人が語ってくれた言葉を借りれば新たな「シネマ体験」ができる作品として成立しており、デヴィッド・ボウイというアーティストを、彼を構成する様々な要素を通して改めて堪能することができる。

公開されている予告編には、自身が履いている靴に対する「その靴は男物? 女物? バイセクシャルのもの?」というテレビ番組の司会者の嘲笑的な言葉に、ボウイが「ただの靴さ」と一蹴する場面が収められているが、そうした社会的な境界に捉われない姿勢はボウイのキャラクターを象徴する側面の1つ。今になってこの場面を観ると、司会者の言葉のほうに違和感を覚える人がほとんどだろうが、ボウイはそうした価値観を約半世紀前に当たり前のように持ち合わせていた。

ボウイが当時持ち合わせていた価値観は、2020年代の今こそ共鳴するものかもしれない。本作を観て改めてそう感じたフロントロウ編集部は2月に来日したモーゲン監督と対面した機会に、映画のことについて訊きつつ、ボウイが持ち合わせていた今日に通ずる先見性についても話を向けてみた。

ブレット・モーゲン監督にインタビュー

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が生まれることになった経緯について教えていただけますか?

「2015年にカート・コバーンについての『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』という映画を公開したのですが、この映画を終えた後で、伝記としてのドキュメンタリーでできることはやり尽くしたという気がしたのと同時に、シネマという形式で音楽を提示することをものすごく楽しめたように感じました。それで、新しいジャンルを創り出したいと思ったのです。基盤を伝記とは違うところに置きつつ、私たちを惹きつけるロックやアートのミステリーを包括するような、音楽ドキュメンタリーに対する新しいアプローチを試したいと思ったのです。アートやアーティストを解剖したり、説明したりするのでなく、むしろそれらをシネマ体験として反映させるものを創りたいと思うようになりました」

画像: ブレット・モーゲン監督
ブレット・モーゲン監督

2007年にデヴィッド・ボウイと直接会って、映画化の構想について話し合われていたそうですが、彼との対面を振り返ったときに、特に印象に残っているエピソードなどはありますか?

「私がデヴィッドと直接会ったのは、ごくわずかな時間でした。7年もの間、デヴィッド・ボウイについて探求してきた私ですが、彼と同じ部屋の中で一緒に過ごしたのは30分か40分ほどでした。とは言いつつも、彼についてのあらゆる素材に目を通した今、彼との対面を改めて振り返ると、(印象的だったのは)その“存在感”でしょうか。デヴィッドはあらゆる瞬間に存在していました。彼は人生におけるあらゆる瞬間を、交流や成長のための機会として捉えようとしていたのです。彼はものすごく若い頃から、この地球上で過ごす時間は限られているということを心の底で認識し、理解していたように思います。彼の存在からは、そうしたことが感じられました。一瞬たりとも無駄にはしないという姿勢を」

画像: ブレット・モーゲン監督にインタビュー

『ムーンエイジ・デイドリーム』というタイトルに決めたのはなぜですか?

「元々は、『ボウイ・クオテーション(※Quotation=“引用”や“発言”という意味)』というタイトルにするつもりでした。ずっとそれを仮のタイトルとして進めていたのですが、作品のコンセプトを表すには重すぎるのではと思うようになりました。この作品とは何たるかを、表していないのではないかと。この作品について考えてみたときに、それを表す最も適切な表現として思いついたのが、『ムーンエイジ・デイドリーム』でした。実際のところ、それが何なのかは私には分かりません。いまだにそれはミステリーなのですが、この映画が伝えようとしている色彩やエネルギーを感じることができるのです」

デヴィッド・ボウイは生まれながらにして東洋文化に惹かれていたと監督

本作には「Chaos(混沌)」という言葉が何度も登場します。この作品におけるメインテーマの1つだと思うのですが、この「Chaos」という言葉をデヴィッド・ボウイはどのように定義していたと思いますか?

「『Chaos』とは人生における自然の摂理だと、彼は信じていたと思います。彼が『Chaos』や、それから『Fragmentation(断片化)』という言葉で示そうとしていたのは、あまりに多くの音や映像、誘惑が繁栄し、メディアやモチーフが絶えず私たちの周囲に渦巻いていたために、そのすべてを追跡するのは不可能に近かった、20世紀という時代における人生のあり方だと思います。今、この瞬間のようなことですよ。向こうのほうで何か音がしていますが、自分はこうしてあなたと会話を続けているわけです。そういうわけで、デヴィッドは『Chaos』を人生における自然の摂理として表現していたと思います」

この作品ではボウイと日本の関係性についても掘り下げられています。監督から見て、ボウイは日本のどのような部分に惹かれたと考えていますか?

「ボウイは生まれたときから、東洋文化に惹かれるところがあったのでしょう。世の中に対する彼の見方は、西洋よりも東洋の哲学や宗教と通ずるところがあったと思います。その中でも、日本や日本の芸術には特に。絵画もそうですし、歌舞伎もそうです。特に歌舞伎についてはその本質の部分で、デヴィッドと通ずるところがあったと考えています。私が作った作品というのは、(本名である)デヴィッド・ジョーンズについての作品ではありません。デヴィッド・ジョーンズがどんな人物だったか私にはまったく分かりませんが、ボウイのことやボウイの発言は知っています。そういう観点から、キャラクターという意味において、通ずるところがあったと思います。彼は仏教について勉強していましたが、言うなれば、それによって東洋的な世の中の見方を学んだわけではなかった。それは、彼が既に備えていた見方を補強したに過ぎないのです」

画像1: デヴィッド・ボウイは生まれながらにして東洋文化に惹かれていたと監督

この映画を最初に観た人たちのなかには、U2のボノや俳優のショーン・ペンといった人たちがいたそうですね。彼らのリアクションはいかがでしたか?

「素晴らしいものでしたよ。自分が作るものであれ、観るものであれ、映画に対するあの時ほど最高のリアクションを今後経験することはないでしょうね。映画としても、アーティストとしても、あの作品には彼らに語りかけるものがあったのでしょう。彼らも(一般の)オーディエンスと同様に、すべての機会を最大限に活かして改革を続けていくという、人生を肯定してくれるようなデヴィッドのメッセージにインスピレーションを受けたのだと思います」

ところで、先ほど『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』が話題にあがりましたが、それ以外にも、これまでにはザ・ローリング・ストーンズを題材とした『クロスファイアー・ハリケーン』なども監督されていますが、次に映画を制作してみたいアーティストの構想は既にありますか?

「大々的には言えるものではないですが、何人かはいます。ジャネール・モネイの大ファンなので、彼女は魅力的ですし、彼女とのコラボレーションには興味がありますね。ただ、今後、誰かに“ついて”の映画を作るつもりはなくて、関心があるのはコラボレーションです。アーティストとコラボレーションをして、彼らの手助けになるようなものを作りたい。いわゆるドキュメンタリーと呼ばれるものを今後私が作るかは分かりません。伝記にはもう関心がありませんから」

画像2: デヴィッド・ボウイは生まれながらにして東洋文化に惹かれていたと監督

現代のハリー・スタイルズにも通ずるデヴィッド・ボウイの先見性

以前、デヴィッド・ボウイのトリビュートコンサートにも出演したことのあるヤングブラッドにインタビューしたことがあるのですが、“コラボしてみたいアーティスト”について訊いたときに、真っ先に「デヴィッド・ボウイ」と答えてくれたことが印象に残っています。

「ええ。彼はボウイの大ファンですよね」

ヤングブラッドはレッテルに捉われることなく自分自身を表現しているようなアーティストだと思うのですが、他にも例えばハリー・スタイルズのような、自分らしさを自由に表現するアーティストが今は自然と人々に受け入れられるのは、デヴィッド・ボウイがそういう土壌を作ってくれたことが大きいと思っています。この映画を観て、今になって時代がデヴィッド・ボウイに追いついたような印象を受けました。

「まさしくその通りですね。デヴィッドは1970年の時点で、21世紀のために曲を書いていたと思います。彼は私たちの周囲に存在していた周波や通信を敏感に認識していました。当時既に存在していたのに、彼以外には認識できていなかったものたちです。彼は未来学者ではないにせよ、今日において重視されることについて描写していたのです」

画像: 現代のハリー・スタイルズにも通ずるデヴィッド・ボウイの先見性

そういった意味でも、この映画はリアルタイムではデヴィッド・ボウイを聴いていなかったかもしれない若いオーディエンスにこそ観ていただけたらと思っています。若いオーディエンスに向けてメッセージをいただけますか?

「もちろんです。私はこの映画を年配のオーディエンスを想定して作ったわけではありません。何よりもまず、この作品は人々の五感に訴えるような、スペクタクルな新しい映画体験として作ったものです。その形式でコンテンツを伝えているのです。個人的には、私たちは人生において、若い時期や、その瞬間に留まることに多くを費やしていると思っているのですが、年齢を重ねるごとに人生がどんどん上向きになっている人のことを目撃すると、この上なくインスピレーションを受けて、自分の人生における指標のような存在になると思います。いずれにせよ、若いオーディエンスに前提としてお伝えしたいのは、これは企業の(宣伝用の)コーポレート・ムービーのようなものではないということ。そして、思い切りロックに興じていただきたいということ。これはアートであり、作品です。私が映画について愛しているすべてをシネマの本質を通じて抽出した、万華鏡のように渦巻く、テーマパークのアトラクションのような作品なのです」

『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は3月24日(金)よりIMAX®️ / Dolby Atmos同時上映。

(フロントロウ編集部)

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