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ミュージカル俳優・昆夏美さん、力強いヒロイン役から、感情を出せず悩む役ヘ

  • 2023.3.21

俳優・昆夏美さんがこの春、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによるミュージカル『マチルダ』に挑みます。『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』など、大作のヒロイン役を長年務めてきた彼女が今回演じるのは、主人公マチルダの担任で自分の感情をなかなか出せない先生の役。役作りを通して感じた大人として生きることの難しさについて語ってくれました。

英国発のミュージカルを初演

――ミュージカル『マチルダ』は、映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作者でもある英国児童文学者ロアルド・ダールの小説が原作です。今回、日本初演ということで、海外クリエイティブスタッフが直接稽古を進めているようですね。

昆夏美さん(以下、昆): この作品は2010年にロンドンのウェストエンドで世界初演された後、長く愛されて再演を繰り返し、米ニューヨークのブロードウェイや、オーストラリア、韓国とさまざまな国で上演されてきました。海外スタッフとのお稽古は進行がスムーズで、まったく無駄がないんです。作品を進めるうえでの手順や基礎もしっかりしています。

今はお稽古が始まって、ちょうど1ヵ月が経ったところです。これまではシーンごとにグループに分かれてお稽古が行われていたのですが、ようやく自分が関わらないシーンのお稽古も観られるようになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

――これまではヒロイン役が多かったですが、今回は子どもたちの主張を受け止める先生役です。演出のスタッフからは、どのようなアドバイスを受けていますか?

昆: 今までは自分で未来を切り開くエネルギーの強い役が多かったのですが、今回のミス・ハニー役は自分ではなかなか前に一歩進めない役なんです。それまで「私はこうよ!」と主張する役ばかり演じてきたので、自分の感情を出せない女性はほぼ初めての体験で……。演出の方からは「今回は感情を出しすぎないこと」と言われていますね。

ミス・ハニーはなんとも不思議な役で、マチルダたちの担任の先生として生徒を見守る大人でありながら、どちらかというと子どものマチルダに引っ張ってもらっているんです。ハニーは自分を前面に押し出す勇気が持てず、自分から未来を切り開くことができない。そんなハニー先生を子どものマチルダがそっと後押ししたり、むしろ引っ張っていったりする。

この見た目と中身のギャップが、ミス・ハニーとマチルダの面白い関係性だと思います。大人が、ギフテッドの子どもに引っ張っていってもらう様が見どころでもあります。

朝日新聞telling,(テリング)

心に蓋をしてしまいがちな大人たち

――ミス・ハニーは、telling,の読者の皆さんと重なる部分も多いように感じます。一歩踏み出したいけど、なかなか踏み出せない、自分を前に押し出したくても、その勇気がない。そういった読者に、メッセージをいただけますか?

昆: 大人になればなるほど、心にブレーキがかかって、新しいことに一歩踏み出すのが年々難しくなりますよね。それは私自身も本当にそうだなと思います。

今回の『マチルダ』に絡めてお話しすると、子どものマチルダはいろんな大人に核心を突く疑問をどんどん投げかけていきます。子どもの目線からズバッと言われると、大人にはすごく刺さります。

マチルダの言っていることは、よく理解できる。わかっていても、それでも心に蓋をしてしまうのが大人なんだよねというジレンマは、舞台を観ていただくとすごく共感してもらえると思います。

ジレンマにさいなまれるだけだと、人生は変わらないですよね。自分が変わっていかないと、人生は前に進まない。その自分が変わるための出来事や人との出会いを、ほんの小さなところからでも見つけていくことが大事なんだろうと思います。

大人が勇気を出して一歩踏み出せる解決策を、私もわかっているわけではありません。1人ではなかなか解決できない場合、周りの人に相談してみる。それこそ女子会でもいいと思います。不安に思っていることを吐き出して、一緒に「こうじゃない、ああじゃない」と意見を出し合う。人に話すだけでも頭は整理できるので、それが解決への一歩になるのかもしれません。

朝日新聞telling,(テリング)

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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