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ピーター・バラカンが語る、観直してカルチャーを学ぶ映画と音楽〜後編〜

  • 2023.3.20
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佐伯ゆう子 イラスト

ルーツ音楽を掘るとわかるアメリカ史の光と影

僕は10代の頃、アメリカのブラック・ミュージックに夢中になり、その影響でロックやルーツ・ミュージックも好きになりました。だから、『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』が公開された時には感動しました。

1950年代に人気だったロカビリー歌手のロニー・ホーキンズが、拠点をカナダへ移すのですが、バンド・メンバーはホームシックにかかり、ドラマーのリーヴォン・ヘルム以外、みんな帰国してしまう。ホーキンズは現地のミュージシャンを探したところ、ロビー・ロバートスンらが集まり、共に活動を始める。

その後、リーヴォン&ザ・ホークスとして独立したところで、ボブ・ディランに見出され、バックバンドとして参加するようになる。その時のディランのツアーというのが、フォークから脱却し、初めてエレキ・ギターを弾き、各地でブーイングが起きたというもの。

実は僕も1966年のロンドン公演を見ています。野次を飛ばしているのは、声の大きなごく少数。演奏自体は本当に素晴らしいものでした。批判は語り継がれているほど多くないと思います。そんなザ・バンドの成り立ちから解散、そしてリーヴォンの晩年に、長年袂を分かっていたロビーと再会したことが描かれています。

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『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

穏やかな人柄から奏でられる演奏ながら、熱狂的なファンを持つグループ。あのエリック・クラプトンが惚れ込み、メンバーとして加入を希望しながらも、バンド側から断られた経緯などのエピソードも面白い。'19カナダ=米/監督:ダニエル・ロアー。

ロビー・ロバートスンはモホーク族をルーツに持つ人で、音楽界で偉業を成し遂げたネイティヴ・アメリカンは数多い。そんなミュージシャンたちの功績を振り返ったのが『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』。題名は、1958年に発表されたショーニー族の出身のリンク・レイによるギター・インストのロックンロールから。

映画『ウェスト・サイド物語』(61年版)で、ジェッツとシャークスの決闘を「ランブル」という通り、喧嘩を意味します。この曲がヒットすると若者の風紀を乱すとして放送禁止になったという逸話も。イギー・ポップやMC5のウェイン・クレイマーは、幼少期に「ランブル」を聴いて衝撃を受け「ヘヴィ・メタルの元祖」と熱弁。反逆児の音楽なんです(笑)。

ローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』へ参加したギタリストのジェシ・エド・デイヴィスも、ルーツはコマンチ族とカイオワ族です。人気絶頂の1970年頃、ロックンロール・ライフの中で、ヘロイン中毒になってしまう。

実は『ランブル』の製作総指揮を務めているギタリストのスティーヴィー・サラスもアパッチ族にルーツがある人で、90年代にドラッグに溺れたことがあった。その時、同族で共演していたドラマーのランディ・カスティーヨに誘われ、ルーツとなる土地へ行き、自分を見直したそう。

白人がアメリカへ渡ってから、先住民族は迫害を受け、つらい経験をしてきました。劇中でネイティヴ・アメリカンにルーツを持った音楽家たちが、差別や迫害に負けず、自らのアイデンティティや文化に誇りを持ち続けることで、影響力を発揮していることがわかる。アメリカ文化史を知るうえでも、貴重な作品です。

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『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』

100年前から現在まで。ジャズ・ヴォーカリストのミルドレッド・ベイリー、ブラック・アイド・ピーズのタブーなど、さまざまなジャンルで強烈な影響力を残したネイティヴ・アメリカンの音楽家たちの軌跡。'17カナダ/監督:キャサリン・ベインブリッジ。

音楽史とともに振り返るレコーディング技術の発達

『アメリカン・エピック』は、1920年代後半から30年代にかけて発展を遂げたレコード芸術に関する話を4つのエピソード(以下EP)から掘り下げたシリーズ。20年代は、現在ではルーツ・ミュージックと呼ばれるような音楽が録音されていた時代です。

また技術的な進歩から、録音装置をスタジオから持ち出し、どこででもレコーディングが可能になりました。そこで各地の音楽を録音しようと、ローカル新聞に「録音セッションを開催します。興味のある方はぜひ来てください」と広告を載せたんです。

その中には、後の伝説となるような人たちも含まれていた。EP1のレコーディング・セッションには、元祖カントリー・ミュージックのカーター・ファミリー、黒人のメンバーによるメンフィス・ジャグ・バンドが登場。EP2は、過酷な労働の傍ら音楽を演奏した人たちが生み出したゴスペルとフォーク、ブルーズ。

EP3では、ハワイアンやラテン、ケイジャンなど多民族文化を象徴するような音楽が紹介されます。中でも衝撃的なのが、EP4の『アメリカン・エピック エピソード4 セッションズ』。

1925年に初めて電気録音が可能になった時、ウエスタン・エレクトリック社が録音機を開発しました。改良を重ねるうち、初号の形のものが一つもなくなってしまった。ところが、好事家のエンジニアが10年ほどかけ部品を集め、初号機に近いものを復元したんです。その機材をスタジオへ持ち込み、1920年代の曲を、現代の音楽家たちが演奏するのを記録している。

プロデューサーにジャック・ワイトがいて、ベックやアラバマ・シェイクス、エルトン・ジョンやラッパーのナーズまでが参加。歴史を踏まえながら、新しい試みに挑むミュージシャンたちのワクワク感がありありと伝わってきます。

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『アメリカン・エピック』

19世紀後半に開発されたレコードが、20世紀初頭に技術の向上とともに、さまざまな音楽の録音が可能になった。アメリカにおけるポップ・ミュージックの発展を、技術の発達を通して描くドキュメンタリー・シリーズ。'17米/監督:バーナード・マクマホン。

手に取るように思い出す、60年代の熱いロンドン

最後に、僕の出身地で、たくさん思い出のあるイギリスの作品を。『ブリティッシュ・ロック誕生の地下室』は、60年代初頭、イギリスで初めてブルーズに特化したイーリング・クラブの歴史や、当時の若者たちの熱狂を、関係者たちの証言を中心にまとめたドキュメンタリー。

小さくて、汚い店らしいのですが、そこでブライアン・ジョーンズが、ミック・ジャガーとキース・リチャーズを誘い、ローリング・ストーンズが結成されたわけですから、ある意味でイギリスのロックが生まれた場所だと言えます。

当時はまだブルーズの情報が少なかったため、興味を持った若者が国中から集まった。マンフレッド・マンのポール・ジョーンズはオックスフォードから、アニマルズのエリック・バードンはニューカスルから来ていて。特急がない時代、一体ロンドンまで何時間かかって来ていたのか(笑)。客たちも「オレたちはカルトみたいだった」と証言していますが、それだけ当時の熱狂ぶりが伝わってきます。

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『ブリティッシュ・ロック誕生の地下室』

ブリティッシュ・ロックが生まれた嘘みたいな本当の話。ブリティッシュ・ブルーズ界の伝説アレクシス・コーナーのバンドにも所属した、元クリームのジャック・ブルースやジンジャー・ベイカーも熱く当時の様子を振り返る。'21英/監督:ジョルジオ・グルニエ。

そして、ザ・フー『四重人格』から影響を受け、何曲か劇中でも挿入されている『さらば青春の光』。60年代中頃のモッズの若者たちの生活を描いた作品。先日、久しぶりに観直したところ、イギリス人じゃないと聞き取れないと思うロンドンの下町弁、衣食住といった文化など、リアルに作られていることに改めて気がつきました。

劇中では、みんなでスクーターを乗り回し、夜は着飾ってクラブで踊る。高校生くらいの年代なのに、遊ぶお金は持っているんです。つまり、労働者階級の人たちの多くが、義務教育が終わると高校へは進まず、就職するんです。大した仕事には就けないから、みんな将来が不安で、とにかく夢がない。そんな閉塞感がどこか現代とリンクしているように感じて、観終わった後に寂しい気持ちが残ります。

昔は音楽やファッションを含め、ノリで見ている部分がありましたけど、観直してみるとかなりヘヴィな作品だった。現在の若い人で、モッズ文化、ザ・フーやキンクスなどの音楽が好きな若い人が観たら、どう感じるか、興味があります。

自分の知識や経験が増えるとまた新しい発見がある。だから映画は繰り返して観ることをおすすめします。

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『さらば青春の光』

1960年代のロンドンとブライトンを舞台にモッズの生きざまを描いたドラマ。「主人公は10代後半だから、当時中学生だった僕よりも少し年上になるけど、食べ物やファッションまで文化が手に取るようにわかる」とピーターさん。'79英/監督:フランク・ロダム。

profile

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Peter Barakan(ブロードキャスター)

ピーター・バラカン/1951年ロンドン生まれ。『バラカン・ビート』(interfm)などのブロードキャスター、2021年から『Peter Barakan's Music Film Festival』のキュレーションを担当。

HP:https://peterbarakan.net/

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