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都心の超一等地に現れた、内藤廣による“機能のない建築”「紀尾井清堂」:東京ケンチク物語 vol.42

  • 2023.3.16
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都心の超一等地に現れる、ガラスに覆われたコンクリートの塊は、この連載初の「機能のない建築」。内部には人々の創造力を刺激する空間が広がります。

紀尾井清堂
KIOI SEIDO

人々が生活する空間……家。利便性のためにある地点とある地点を結ぶ構造体……橋。病気を治療するための場所……病院。建築や建造物には本来、そんなふうに目的や機能がついて回る。それを大前提に置き、法規などもクリアして、適切な形や場をつくり出すのが建築家の普段の生業だ。ところが、赤坂見附から麹町へと抜ける道、紀尾井坂の角に立つ「紀尾井清堂」は一風変わっている。都内有数の一等地に立つこの建築には機能がない。建築家が“ここにあるべきもの”を考えてつくり、その建物をどう使うかは、施主が後から考える。普通とはまるで逆の順番で、ベテラン建築家・内藤廣が手がけた、2021年完成の建築だ。

建物は15m角のコンクリートの立方体を、ずんぐりと太いコンクリートの柱4本で1フロア分持ち上げたような形。その全体を包み込むように、大きなガラス面が覆う。いまも私たちの生活に身近な素材であるコンクリートは、実は古代ローマでも多用された太古の素材。この「紀尾井清堂」では、あえてコンクリート面は荒々しく仕上げてプリミティブな感覚を持たせ、近現代の工業素材を代表するような、きりりとしたガラス面でくるんでいるというわけだ。原初と現代のコントラストに、通りを歩く足がふと止まる。そんなインパクトのある外観だ。その印象は、建物の中へ入ると変化する。2階からアプローチするメインの空間は、4層分の吹き抜け。床や壁には赤みの強い木材が張られ、上階の四周は階段を兼ねるバルコニーのような空間が囲む。太いコンクリートの柱が支える、やはりコンクリートの天井には9つの大きな穴が開いていて、その先には空だけが見える。都心に見つかる“がらんどう”。この場を表現するならば、そんな表現がふさわしいだろうか。高い天井越しに空を眺めていると、静かで落ち着いた気持ちが訪れ、移ろう光や雲を眺めるうちに、知らぬ間に長い時間が過ぎていく。興味深いのは、あえて機能を持たせずにつくった“がらんどう=空白”が、無限の使い方を秘めていそうに見えること。シアター、展示、ファッションショー、大小の集会やパーティ……。どんな使い方をされても、この“空白”は、それを美しく演出するだろう。建築そして建築家の懐の深さを実感させる一軒だ。

GINZA2022年12月号掲載

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