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松浦りょうさん、「自分の過去を認められるようになった」。マイナスな感情が演技の武器に

  • 2023.3.13

俳優の松浦りょうさんは、学生時代に抱えていたコンプレックスを、身を削ってもやりたい役に巡り合うことで克服しました。映画『赦し』で、同級生を殺害した加害者女性という難役を経て今、改めて見つめる自分自身について胸の内を語ってくれました。

実は俳優を辞めようと思っていた……

――今回の『赦し』のオーディションでは、10代のころ友だちが少なかったことや同調圧力が苦手だったことなど、学生時代のコンプレックスを包み隠さず話したそうですね。

松浦りょうさん(以下、松浦): 私はすごく不器用な人間なので、マイナスな感情に向き合ってどうにか克服するのは、10代の頃も今も変わらず苦手なのだと思います。学生時代は椎名林檎さんや東京事変のコピーバンドをしていたので、歌を歌って負の感情を発散することで、精神のバランスを取っていたのかなと。

今は心の中にある負のエネルギーを役に投影して演じることで、バランスが取れています。後ろめたい気持ちは一生自分に付きまとうものでもあるからこそ、もともと私の中にあるすごく明るい一面とバランスを取りながら、折り合いを付けていきたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

――今、振り返ると、コンプレックスを持っていた時期も大切だったと感じますか?

松浦: やっと自分の過去を認められるようになりました。私は反抗期がひどかったので、すごくいろんな方に迷惑をかけたんです。相手をイヤな気持ちにさせたことも、傷つけてしまったこともたくさんあったと思うんです。当時のことを思い出すと本当に反省しかないです。

実は私、この『赦し』のオーディションのお話をいただく少し前に、「今後、俳優を続けていくのは難しいんじゃないか」とマネージャーに相談をしていたんです。「今まで自分のやってきたお芝居はどこか間違っていたのかもしれない」と悶々と考え込んでしまって。

俳優という職業は周りの人に認めていただいて、使っていただかないと仕事になりません。そうして「俳優を辞めようか」なんていう話をしていた頃に、『赦し』のオーディションの話をいただきました。私は以前からアンシュル・チョウハン監督の作品が大好きだったので、全てを覆しても挑戦したかった。

背水の陣だったにもかかわらず、オーディションで選んでいただけたので、本当に人生のターニングポイントだったと思います。『赦し』で福田夏奈を演じた時、「遠回りだったけど、間違いではなかったんだ」と、自分の人生を肯定できました。そんなのはこれが初めてで、すごく有り難い機会をいただいたと思いました。

今後も、たとえどんな役だとしても、今回のように本当に身を削ってでもやりたい役に出会いたい。そして、向き合っていきたいなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

20代のうちに自分の足で立ってみたい

――2023年1月に長年所属していた事務所を辞めました。フリーになったきっかけは、どういうものでしたか?

松浦: 去年まで所属していた事務所は、高校を卒業して俳優の仕事を始めてからずっとお世話になっていて、ずっとおんぶに抱っこの状態でした。事務所もマネージャーさんも本当に大好きで感謝しかないんですけれど、20代のうちにマネジメントなど、いろんなことを自分自身で一度経験しておかないと、私は何かあった時にダメになってしまうんじゃないかと思って。

つまずいた時に立ち直れなくなったらイヤだな。自分の足で世の中に立ってみたい。それで事務所の方に「一度、自分の力でやらせてほしい」と相談しました。もちろん反対もされました。それでも「フリーでやってみたい」と話し合って。だから本当に前向きな気持ちで、フリーになりましたね。

朝日新聞telling,(テリング)

――フリーとして、実際に自分ですべてを手掛けてみて、いかがですか?

松浦: 本当に大変なんだなって思いました。もう、前の事務所にもマネージャーさんにも改めて感謝だなと。だけど、今は今で、すごく楽しいですね。

フリーランスは良くも悪くも全て自分に返ってくる。ダメならダメで直接言われるから、誰のせいにも出来ないんですよ。逆に言えば、良ければ自分のおかげだなと思える。責任の所在が自分にあることが、今の私にとってはすごくいいなと思いますね。

俳優という職業はやる気がなければ絶対にできないので、結局は自分次第なんだと。だからフリーになって、初心に戻った感じがして、すごく清々しいです。

もちろん、今後一生フリーでやっていくと決めているわけではありませんが、この苦労をしばらくは楽しみながら経験しようと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

俳優は過酷な職業。自分のペースで仕事をしたい

――ここからの人生を重ねるにあたって、何を大切にしていきたいと思いますか?

松浦: 私はやっぱり演じていることが幸せなので、一番はお仕事を大事にしていきたいです。独立したばかりなので、まずは自分が一人前になってお仕事を悔いなくやりたい。でもいずれはパートナーも作りたいですし、子どもも欲しいとは思っています。

やっぱり家庭ができたら、仕事と家庭の両立はしたいですね。そうなったら、お仕事は自分を見失わない程度に忙しくありたいです。やっぱり俳優という職業は過酷です。役に追われて追われて……という方も多いですし、精神的に不安定になる方も時々いらっしゃる。

そこまで役に自分を追い込めるのはすごく幸せなことです。ただ、自分を見失ってはやっぱりダメだと思うので、今は自分を見失わない程度に、ガムシャラに俳優というお仕事に全力で向き合いたいと思っています。

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■坂脇卓也のプロフィール
フォトグラファー。北海道中標津出身。北京留学中に写真の魅了され大阪の専門学校でカメラを学んだのち、代官山スタジオ入社。退社後カメラマン太田泰輔に師事。独立後は自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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