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松浦りょうさん、刑務所生活を体験、自らをさらけだした役作り。映画『赦し』で加害者役

  • 2023.3.12

17歳で同級生を殺害し、刑に服す加害者女性と、ひとり娘を殺害された元夫婦の遺族の葛藤を描いた映画『赦し』が、3月18日より渋谷・ユーロスペースなどで公開されます。加害者女性役を演じるのは松浦りょうさん。受刑者の心情を表現するにあたり、自らのトラウマをさらけ出し、刑務所暮らしを疑似体験するなど、とことんまで自分を追い込んでたどり着いた境地について聞きました。

「あなたの過去をさらけ出してください」

――今回の映画『赦し』で、松浦さんは高校生で殺人を犯して服役中の福田夏奈役を演じました。出演を決めたきっかけを教えてください。

松浦りょうさん(以下、松浦): もともと私はアンシュル・チョウハン監督作品の大ファンでした。長編1作目の『東京不穏詩』は、「日本で上映されている作品の中でも一番好き」と言っていいぐらい私の大好きな作品です。

今回の作品との出会いは、監督の前作『コントラ』の舞台挨拶に伺ったことでした。ぜひ監督にお会いしてみたかったので、上映後にご挨拶しました。そこで私の顔を覚えていてくださって、『赦し』のオーディションに声をかけていただいたのです。出演が決まった時は本当に嬉しかったですね。

自分から自発的にそういう行動をしたのは、人生でほとんど初めてなんですよ。それまではあまり積極的に行動する方ではありませんでした。それぐらい監督の『東京不穏詩』を観た時の衝撃が強くて、それがきっかけで次の作品に呼んでいただけるなんて、奇跡かなと。やっぱり自分から行動するのは大事なんだなと、つくづく思わされました。

朝日新聞telling,(テリング)

――映画のオーディションはかなり厳しかったようですね。

松浦: はい。2回目のオーディションの時、チョウハン監督に「あなたの過去を全部さらけ出してください」と言われました。私は人に誇れるような人生を歩んでいるわけでもないですし、むしろ自分の過去に対してかなりコンプレックスを感じていました。学生時代に友だちが少なかったこととか、反抗期が激しかったこととか。それ以外にも人に言いづらいことがいくつかあって、自分の中に隠していたんです。忘れたい過去なのに、いざ口にしてしまうとそれがあたかも事実になってしまうと……。

それまでのオーディションだったら、どんなに「さらけ出して」と言われても、どこか繕って話していたと思うんです。必死に思い出したくないと避けてきたのに、なぜか「この監督には話してみたい」と思って、初めていろいろと打ち明けました。ボロボロと泣きながら話したら、監督が受け止めてくださって。「そういう過去があったから、さらけ出してくれたから、この役は君にしたんだよ」と言ってくださって、本当に監督に伝えてよかったなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――それまで避けてきたのに、チョウハン監督には過去を打ち明けたのは、なぜなのでしょう?

松浦: オーディションで福田夏奈役のバックボーンについて教えていただいた時に、なぜか「この役は絶対に私が演じるべきだ」と思えたんですよね。チョウハン監督は人間の抱える苦しみのようなものを表現するのが上手だからなんだと思います。

『東京不穏詩』にはジュンという主役の女の子が出てきます。作品で描かれているジュンの感情が、私が中高生の時に感じていた負の感情とすごくマッチしたというか。私の中の琴線に触れる感じがあったんですよね。次作の『コントラ』も素晴らしくて、この監督と絶対にご一緒したいと思いましたね。

刑務所生活を模して辿り着いた加害者の心情

――実際に役作りに入る時、監督からは具体的にどのようなアドバイスがありましたか?

松浦: 最初は役をいただけて嬉しい反面、「どうしたらいいんだろう……」と考え、悩んでいました。もちろん私は殺人を犯したことはないですし、刑務所にいたこともない。役作りのためとはいえ、経験できることではありません。

この役を本当に演じ切れるのかどうか不安になって、監督に相談をしました。すると、「実際の経験はできなくても、どうして人を殺めてしまったのか、その気持ちを調べてみたり、受刑者の孤独を知ったりして、自分なりに徹底してやってみなさい」と言われました。

それで撮影までの2ヵ月くらい、とにかく調べまくって、殺人を犯してしまった人のインタビュー記事を読み込んだり、刑務所の生活をできるだけ自分の家で再現したりしていました。

朝日新聞telling,(テリング)

――刑務所の生活を、自宅でどう再現したのですか?

松浦: 1週間自分の部屋に篭もり、刑務所の起床時間と就寝時間を合わせて、一切電子機器に触らないようにして生活しました。食事もインターネットで調べた刑務所のメニューを母に伝えて、毎食同じ時間に作って出してもらうようにしました。

そうやって生活面から変えて自室に篭もって役を自分に落とし込むうちに、私の中に今までにない感情が芽生えてくるようになりました。福田夏奈は刑務所内で、本当に後悔している。後悔だけでなく反省も。本当にいろんなことを感じている。そう思いました。

――松浦さんの演技が少しでもズレたら、映画の印象そのものが変わってしまう重要な役どころですね。

松浦: 後になって、それぐらいの演技を求められていたと分かりましたが、撮影時は自分が外からどう見えているのか、自覚がありませんでした。というのも現場にいる時は、仮に福田夏奈が実在していたらそうであったように、私もすごく孤独な環境でいさせていただいたのです。控室も私だけ違う部屋でしたし、裁判のシーンでも誰も私に喋りかけないでいてくださったので、他のキャストの方とも会話を一切せずに、役にのめり込むことができました。演じていたというより、役が憑依していたというか、本当に福田夏奈でいられました。

朝日新聞telling,(テリング)

撮影現場で福田夏奈としていられたのは、監督が「役作りを徹底しなさい」とおっしゃってくださったからです。今回の役作りは、私の中でも修行だと思いました。役を作り込むならば徹底してやりたい。今回の役では絶対に自分に負けたくない。そこまで徹底できたおかげで、服役中の福田夏奈に完璧になれました。

撮影している時も、1人で控室にいる時も、ふとした時に涙が出てきてしまって。反省している、後悔している、殺害に至った記憶やトラウマに追われる。異常なほど感情移入していたので、ずっと自分の気持ちが不安定で、常に苦しかったです。

今後はどういう役をいただけるかわかりませんが、ここまで身も心も徹せられる役というのは、当分出会えないんじゃないか。そう思えるくらい、福田夏奈という役に向き合っていました。

■横山 由希路のプロフィール
横浜生まれ、町田育ちのライター。エンタメ雑誌の編集者を経て、フリーランスに。好きなものは、演劇と音楽とプロ野球。横浜と台湾の古民家との二拠点生活を10年続けており、コロナが明けた世界を心待ちにしている。

■坂脇卓也のプロフィール
フォトグラファー。北海道中標津出身。北京留学中に写真の魅了され大阪の専門学校でカメラを学んだのち、代官山スタジオ入社。退社後カメラマン太田泰輔に師事。独立後は自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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