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児玉雨子のきょうも何かを刻みたくて|Menu #2

  • 2023.3.9

「生きること」とは「食べること」。うれしいときも、落ち込んだときも、いそがしい日も、なにもない日も、人間、お腹だけは空くのです。そしてあり合わせのものでちゃっちゃと作ったごはんのほうがなぜか心に染みわたる。作詞家であり作家の児玉雨子さんが書く日々のできごととズボラ飯のこと。

豚ロース肉は塩を揉み込み一晩置いて、長ネギの青い部分と一緒に下茹でする。このスープで野菜を煮込む。ただしスープは少なめ、野菜を切るときはざっくりでOK。噴きこぼれたり、煮崩れたりしやすい。
困ったときの万能ポトフ。簡単で体にやさしい。

この春に引っ越しをした。諸事情ありそうせざるをえなくなり、気に入っていた町にはたった1年ほどしか住めなかった。引っ越し作業をしている時期はちょうど蔓延防止期間が明けていたので、未練を残さないため(そしてガスコンロを売却したため)食事は近くのお店でほぼ毎日外食か、コンビニに頼っていた。

外食生活はラーメンが多かった!家系、二郎系、神奈川県のソウルフードである担々麺は言うまでもないのだが、牛骨や煮干し、かつお、海老出汁、ビャンビャン麺など、その町は一風変わったラーメン店が集まっていて、どのお店もネットでの評価が高かった。名残惜しかったので2日に1回ほどのペースでラーメン屋に通った。さすがにそこまで通うことは今までなかったが、体が大味を求めていたのかもしれない。引っ越し作業の疲れもあるし、そもそも望まない引っ越しでストレスもあった。さらに新居の光回線の配管が物理的に切れていたことが発覚したり(!)、それを管理会社に問い合わせると、担当者がネットの仕組みを理解していなくて話が進まなかったり……とトラブル続き。すると無性に味の濃いものが欲しくなるのだ。

そして先日、やっと引っ越しが終わり、転入届や免許更新などの行政的な手続きも終えた。荷解きをしながら、しばらく食事は楽で健康的なものを、と思い、ホーロー鍋(ふるさと納税の返礼品、バーミキュラ22㎝)でポトフを作ることに。塩を揉み込んだ豚ロース肉、野菜の甘味、そしてほんの味付け程度のコンソメが体に染みる。さすがに口が濃い味に飽きていたし、あの生活が続いたら体にいいわけがない。体組成計は数値が怖くて、まだダンボールから出せていない。

ポトフは万能だ。手軽に野菜をたくさんとれて、トマト缶を入れればミネストローネ風に、牛乳や豆乳でシチューやミルクスープに、カレー粉を入れてもいい。味変の可能性が詰まっている。困ったときのポトフさま。

さて、面倒くさがりな自分にはハードだった月日が、やっと一段落つこうとしている。ネット云々のトラブルさえ解決すれば、いい物件と契約できたと思っている。前の町もよかったけれど、新しい町はより都会で、かつ緑も多い。部屋の風通しもよくて、これからの暖かい季節も気持ち良く過ごせそうだ。さぁ、まずは体組成計をダンボール箱から取り出し、数ヶ月ぶりにその上に立つことから始めなければ。

こだま・あめこ

作詞家、作家。アイドルグループ、テレビアニメなどに作詞を提供。小説『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)。

photo & text : Ameko Kodama edit : Izumi Karashima

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