1. トップ
  2. ファッション
  3. 50年代の独立したパリ女を讃えて。ディオールの23-24秋冬コレクション。

50年代の独立したパリ女を讃えて。ディオールの23-24秋冬コレクション。

  • 2023.3.3

マリア・グラツィア・キウリが2月28日チュイルリー公園に設けた会場で発表したディオールのプレタポルテ2023~24年秋冬コレクションは、ディオールが創作を捧げた1950年代の女性たちへのトリビュートである。エディット・ピアフ(1915~1963)、ジュリエット・グレコ(1927~2020年)そしてクリスチャン・ディオールの12歳年下の妹カトリーヌ・ディオール(1917~2008年)の3女性にフォーカスを置いて、マリア・グラツィアはフレンチ・スタイルを掘り下げたのだ。

ディオールのプレタポルテ2023〜24年秋冬コレクションより。ほとんどが黒x白のルックでスカートの多くはミモレ丈。パンツルックは1ルックのみだ。photo: Laura Sciacovelli

ファーストルックは胸元の開いた白いシャツと膝下丈の黒いタイトスカートだった。黒い長手袋、片耳に下がるエッフェル塔のピアス、ヒールに合わせた黒いソックスはその後に続くほかのルックでも繰り返し登場。また小物としては釣鐘型の帽子、キャップも印象に残るアイテムだった。今回のコレクションでは96ルックと多数が紹介されたが、その多くはモノクローム。ちどり格子柄、花柄、パンテール柄、チェックもカラーだけでなく、時にはモノクロームで表現されていた。

シンプルながらもエレガンスと力強さを放つさまざまな黒の装いに重なるのは、エディット・ピアフ、ジュリエット・グレコの名だ。今更二人を紹介するまでもないが、その歌声と抜きん出た舞台上での存在感で、人々を奮い立たせた女性たちである。彼女たちはパリのエスプリを表現し、実存主義的な思想に触発されることで自らの根幹を再確認するワードローブを生み出していた。「服を纏うという経験は、思考の形、世界に働きかけ、世界と調和する手段を触覚的に体現するものです」とマリア・グラツィアは語っている。

左:ファーストルック 中:カナージュのキルティング・ジャケット。右:ティアラが印象的なラストルック。

3人目の女性、カトリーヌ・ディオール。南フランスの小さな村に暮らし、そこで育てた花を市場などで販売して希望のメッセージを届けていた女性だ。名香Miss Dior に名前を残すエレガンスの持ち主であるが、その前、第二次世界大戦時は収容所暮らしも体験したフランスのレジスタンス運動のメンバーであった。彼女こそが、Miss Diorの香りのイメージソースでナタリー・ポートマンが表現している芯の強い独立した女性像のインスピレーション源である。兄クリスチャンが愛し、カトリーヌが栽培した花ばなはルビー、エメラルド、トパーズイエロー、ブルーといった原色のアプストラクト・プリントとなって、コレクションに色彩を添えていた。クリスチャン・ディオールはドレスに花模様を織ったシルクをよく用いたが、マリア・グラツィアが用いたのはメタリックな糸を織りこむことによって輪郭が柔軟であいまいとなり 抽象的効果を持つファブリックである。

この三名に共通するのは反抗的で、強さと脆さを併せ持つフェミニニティである。第二次世界大戦後、何事にも屈服することなく独立自尊の精神で信念を曲げずに生きた彼女たち。ショー半ばに流れたのはエディット・ピアフの『Non, je neregrette rien』である。このタイトルを刺繍したメッセージTシャツもコーディネートもいくつか。’’後悔することは何もない’’と繰り返されるフレーズが、力強く会場に響いた。

会場構成は2012年に女性アーチストとして初めてヴェルサイユ宮殿で展覧会を行なったポルトガル人アーチストのジョアナ・ヴァアスコンセロスに託された。天井一面を立体的に覆う巨大なテキスタイル・インスタレーションは有機的フォルムで、角度によっては生き物の触覚のようであり、また女性の子宮のようにも見えたり・・・。作品は「ワルキューレミスディオール」と命名されている。ワグナーの歌劇の題名としても知られる’’ワルキューレ’’とは、北欧神話において主神オーディンに仕える武装した女神たちのことだ。マリア・グラツィアにとって強く自立した女性であったカトリーヌ・ディオールは大きなインスピレーション源で、過去にも彼女にオマージュを捧げるコレクションを発表しているほど。今回インスタレーションについて、マリア・グラツィアがジョアナに依頼したのは »カトリーヌとの対話 » だったそうだ。

ジョアナ・ヴァスコンセロスによる有機的フォルムのテキスタイル・インスタレーション。photo: Adrien Dirand

インスタレーションは布のパッチワーチワーク、かぎ針編みといった職人仕事が作り上げている。photos: Adrien Dirand

©Pedro Moura Simão

そのモニュメンタルで呼吸をする生き物のようなインスタレーションの下で発表されたコレクション。会場には大勢のセレブリティの姿が見受けられた。フランスからはエルザ・ジベルスタイン、アナイス・ドゥムーチエ、クロチルド・クーローといった女優たち、ルーシー・ドゥ・ラ・ファレーズ、モニカ・ベルティの娘デヴァ・カッセル、オリヴィエ・パレルモ、ジャンヌ・ダマスといいったスタイルアイコンたち、そしてイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュの次女でディオール・ブック・トート・クラブのアンバサダーであるニンヌ・ドゥルソなどが。海外からはジス、シャーリーズ・セロン、仲里依紗、三吉彩花・・・。彼女たちはメゾンのDNAが新解釈された21世紀のフェミニティを体現したショーを楽しんだ。

ジス

仲里依紗

シャーリーズ・セロン

三吉彩花

デヴァ・カッセル

ジャンヌ・ダマス

ニンヌ・ドゥルソ

元記事で読む
の記事をもっとみる