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目先のことだけを見ている人が多すぎる…これから「変動金利」で住宅ローンを組む人が負う本当のリスク

  • 2023.2.27

住宅ローンは変動金利型がいいか固定がいいか。経済コラムニストの大江英樹さんは「これには絶対的な答えはありません。ただ現状では変動金利を選ぶ人が大多数で、彼らは積極的にリスクを取りに行っているわけですが、その自覚が乏しいことを危惧しています」という――。

住宅ローン計算
※写真はイメージです
結論の出ない論争

住宅に関しては昔から様々な論争が存在します。そもそも「持ち家を取得すべきか」それとも「賃貸の方が良いか」というのも言わば古典的な論争で、なかなか決着は付きません。私の知り合いのFPや評論家の方々の中にも持ち家派と賃貸派に分かれて論争が続いている方々がいます。

でも正直言ってこれについてはどちらが絶対正解という答えはありません。単純に経済的な損得だけで言うと、需給バランスから考えてこれからは持ち家よりも賃貸の方が良いかもしれませんが、年老いてくるとなかなか新しく家を借りることもできなくなります。したがって、持ち家を主張する人が求めているものは、経済的なことよりもずっと自分の家に住めるという“安心感”であると言っても良いでしょう。つまりこれは大袈裟に言うと、人生をどう考えるか、どう生きるかという哲学の問題にもなってくるため、一概にどちらが良いということは言えないのです。

変動金利か固定金利か

これに対して、持ち家派の中でも住宅ローンの利用の仕方として変動金利を選ぶ人と固定金利を選ぶ人に分かれます。金融機関によってもデータが異なるでしょうから一概には言えないもののこれまでのところは変動金利を利用している人が7割以上いると言われています。ところが、ここからは金利が上昇していくのではないか? ということを不安に思う人が急速に増えてきたことで、住宅ローンを利用するには変動金利が良いか固定金利が良いかに悩む人が増えてきているようです。

でもこれに対しても絶対的な答えはありません。原理原則を言えば、これから金利が上昇するのであれば変わらない固定金利にすべきでしょうし、逆にこれから金利が下がるのであれば変動金利にした方が良いということは誰でも分かります。

問題は、ここから金利が上がるのか下がるのかが誰にも分からないということです。確かに評論家やアナリストは様々な予想をしますが、その通りになるとは限りません。むしろ予想が外れることも多いのです。ここから株が上がるかどうか、為替が円安か円高かということと同じぐらい金利の予想も難しいものです。

ローンの判断基準

したがって、単に金利が上がるか下がるかの予想をしても仕方ありません。要は自分の状況、つまりリスク許容度や借入を考えている期間、自分が持っている資金の量等を考えてどう行動するのが良いかの原理をしっかりと知っておくことが大切です。

私は住宅ローンの専門家ではありませんから、細かい手続きや仕組みについては詳しくありませんが、資産運用が専門ですので、その観点から住宅ローンということを考えてみると、結構勘違いしている方が多いのではないかという気がしています。

不動産の見積もりを取るアジアの女性
※写真はイメージです
家を買うという行為は「投資」

そもそも家を買うというのは消費ではなくて「投資」なのです。逆に家を借りるということが、むしろ毎月一定の料金を支払って一定期間の居住権という権利を購入している「消費」と考えるべきでしょう。今回は持ち家と賃貸の比較ではありませんので、あくまでも「投資」として家を買うという面だけで考えてみましょう。

ただし、ここで言う投資というのは購入した家自体の値上がりを狙うということではありませんし、サラリーマン大家さんとして賃貸事業で収益を挙げるということでもありません。あくまでも自分が住むという前提で購入する場合の話です。それでもやはり住宅購入は「投資」なのです。ではなぜ家を買うのが「投資」なのかというと、住宅ローンがまさに「資金調達」そのものだからです。

世の中における全ての事業は①資金を調達し、②その資金を何かに投下し、③そこから収益を挙げる、という流れで成り立っています。個人が家を買う場合も①住宅ローンを組み、②そのお金で家を購入し、③「安心感」という利益を得る、ということになります。この住宅ローンの金利が調達コストですね。言うまでもなく調達コストが安ければ安いほど利益は上がりやすくなります。もちろん個人が自分の住む家を買うわけですから、買った家が収益を生むわけではありませんが、少なくとも調達コストを低くすることで、生活における自分のキャッシュフローを改善することができます。

固定金利の場合は、金利はずっと変わりませんからキャッシュフローにも変化はありませんが、変動金利の場合は金利が上がったり下がったりすることで自分が負担する費用は変わります。つまり変動金利を利用するということは、将来の金利変動によって自分の収支が変わってくることになるわけで、まさに投資と同じくリスクを取っているということになるのです。

変動金利を選ぶ人が取っているリスク

変動金利を利用している人が多いのは、固定金利に比べて金利が低いからでしょうが、今後、もし金利が大幅に上昇すると負担は大きくなります。これは大きなリスクです。なぜ変動金利が低いかというと、それは将来の金利上昇、それによる自分の負担の拡大というリスクを負っているからなのです。投資の大原則は「リスクを取らない限りリターンは得られない」ということですから、まさに変動金利を利用している人は積極的にリスクを取りに行っているということになります。

リターンとリスクバランスの概念、言葉と黒板に描く
※写真はイメージです

よく日本人はあまりリスクを取るのが苦手だと言われていますが、にもかかわらずなぜ多くの人が変動金利を選んでいるのかというと、それは今の金利が低いということだけを考えているのと、このリスク=リターンの仕組みをあまり理解していないからだろうと思います。

「目先はとりあえず金利の安い変動にしておいて、金利が上がってくれば固定金利に変えれば良い」と思っている人は多いと思いますが、それは実は非常に甘い考えなのです。通常はそういう場合、金融機関が変動金利から固定金利への借り換えに応じてくれるケースはまず無いでしょう。私はローンの専門家ではありませんが、常識的に考えて貸す側にとって不利になるような取引にそう簡単に応じるとは思えないからです。当然、もし借り換えするのであれば、他の金融機関を利用することになるでしょうが、それとて新しいところと話をするはずですから必ず借りられるという保証はありません。

借り換えはそれほど容易ではない

それにそもそも変動金利が上がる時は、既に固定金利は上がってしまっています。変動金利は短期金利を基準にして決められるため、政策金利の動向に影響を受けますが、固定金利は長期金利がベースになります。すなわち市場で決まるのが原則です。言うまでもなく市場に参加している人達は先を読んで行動しますから、まず長期金利が動くのが先で、このため固定金利の方が先に上昇しやすいのです。現に昨年末に日銀が長期債のYCC(イールドカーブコントロール)の上限を拡大したことで、銀行の住宅ローンも固定金利が少し上昇しています。したがって、それほど自分に都合の良いように思惑通り動くと考えない方が良いでしょう。

ここからもし変動金利で借入をしようということであれば、それは積極的にリスクを取りに行くことになります。例えば自己資金は豊富にあるのなら、仮に大きく金利が上昇し始めた時に、それを使って返済することも可能です。(これもケースバイケースのようですから、常にうまくできるわけではありませんが)つまり、投資をするにあたっては余裕のある資金でやりましょうということと同じ意味なのです。

結局、変動金利か固定金利かを考える場合に大切なことは、今の金利が高いか低いかの損得だけで考えることではありません。リスクを自分がどれだけ取れるのか? ということを考えることが最も重要なことだと考えた方が良いでしょう。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。

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