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オペラ・ガルニエで、パトリック・デュポンにオマージュを捧げるガラ。

  • 2023.2.26

Patrick Dupond(パトリック・デュポン/1959〜2021)。写真はジョン・ノイマイヤー創作の『Vaslaw』が1980年にオペラ座バレエ団のレパートリーに入り、彼が主役を踊った際に撮影された。©︎ Jacques Moatti

2月21日、22日、23日とオペラ・ガルニエでは『パトリック・デュポンへのオマージュ』と題し、2021年3月に61歳の若さで突然この世を去ったエトワール・ダンサーのパトリック・デュポンを讃える公演が開催された。1980年、21歳の時にエトワールに任命された彼はダンサーとして国際的に活躍し、1990年から5年間バレエ団芸術監督を務めている。飛翔、回転といった華々しいテクニックに加えて、チャーミングな人柄も相まって、ダンサー仲間そして観客に愛されたダンサーだ。オペラ座のエトワールの中で世界的に最もよく知られているのが彼といっていいだろう。

デフィレで始まる3日間の公演でプログラムされたのは、ジョン・ノイマイヤーがニジンスキーをテーマに創作した作品でパトリックのためにアレンジを施したという『Vaslaw』、大親友のジャン=マリ・ディディエールと最初に踊り、そしてルドルフ・ヌレエフとも組んだ『le Chant du compagnon errant(さすらう若者の歌)』、そして芸術監督時代に彼が好んで何度もプログラムに入れたというクラシックバレエのテクニック満載の『Etudes』の3作品だった。パトリック・デュポンのファンだったと思しき大勢の女性たちがパリ・オペラ座を埋め、感動にあふれる3日間となった。 

ピンクのリボンがガルニエ宮を飾り、華やかにガラが開催された。

2月21日、オペラ・ガルニエはピンクのリボンと白い花で優美に飾られた。photo:Virgile Guinard

多彩なゲストが集まった。左からパリ・オペラ座総裁アレクサンダー・ネーフとヴァネッサ・パラディ、クララ・ルチアーニ、 フェリックス・ド・ジヴリーとアルマ・ホドロフスキー。photos:(左・右)François Goizé、(中)Dominique Maître

左から、カール・ラガーフェルトのお気に入りパリジェンヌのひとりだった作家アンヌ・ベレスト、俳優パナヨティス・パスコ、振付家ブランカ・リー。photos:François Goizé

公演後、新芸術監督ジョゼ・マルティネスを囲んだエトワールたち。女性は彼の左ふたり(レオノール・ボラックとミリアム・ウルド=ブラム)以外、全員がシャネルでエレガントにポーズ。photo:François Goizé

初日の21日は、Aropによるガラ公演だった。ちなみにパリ・オペラ座の光輝のための協会であるAropは、2月に開催したパリ・オペラ座の資金援助のためのオークションで成功を収めたばかりである。この晩のガラは前回同様にスポンサーをChanel(シャネル)とRolex(ロレックス)が務めた。トゥシューズとシャネルを連想させるサテンの大きなピンクのリボンが飾られたガルニエ宮内、18時30分に劇場の扉が開くと同時に煌びやかな装いの観客たちが大階段を満たし始め……。ガラはパトリック・デュポンの写真が映し出されたスクリーンからスタート。バレエ愛好家で知られるジャーナリストのクレール・シャザルが進行役を務め、オペラ座総裁アレクサンドル・ネーフ、オーレリー・デュポンの後任として昨年12月5日から職務についている芸術監督ジョゼ・マルティネスによるスピーチが行われた。その後、パトリック・デュポンの語りも交えた映像で構成されたショートフィルムの上映。13歳の時の学校時代に撮影された映像に始まり、古典大作、ローラン・プティやモーリス・ベジャールの作品、コンテンポラリー作品などオペラ座での舞台の抜粋が次々と紹介されて彼の愛すべきキャラクター、芸術性の幅広さを証言するものだった。デフィレで行進したパトリックが両腕を高々と挙げたあと観客席に向かって深くお辞儀をしたところでフィルムが締めくくられ、そしてシーズン開幕ガラとして9月に開催されるパターン同様にバレエ学校の生徒、カンパニーのダンサー全員による華やかなデフィレが続いた。女性エトワールのチュチュとティアラは、2021年9月24日に開催された前回のガラ同様にカンパニーのメセナであるシャネルの製作によるものだ。白いチュチュにメゾン・ルサージュが施した刺繍が瞬き、ティアラは会場の奥の奥まで届く華やかな煌めきを放ち……。

デフィレで行進した男性エトワールはマチュー・ガニオ、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルクの4名。女性はドロテ・ジルベール、アマンディーヌ・アルビッソン、ミリアム・ウルド=ブラム、ローラ・エケ、リュドミラ・パリエロ、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサントの7名。マチアス・エイマン、エミリー・コゼット、セ・ウン・パクが不在だった。photo:Mariko Omura

この日のデフィレはガラだけの特別趣向として、最後にオペラ座の現役を退いたエトワールたち36名が次々とステージに姿を現した。フランソワ・アリュに始まり、アリス・ルナヴァン、ステファン・ビュリオンなど最近オペラ座を去ったダンサーたちに続き、マニュエル・ルグリ、イザベル・ゲラン、エリザベット・プラテルなどのヌレエフ世代のダンサーが登場し、そして最後はバレエ学校長も務めたクロード・ベッシーが締めくくった。デュポンを知らない世代も感動させ、会場内に拍手は鳴り止まず。この趣向は1990年にデュポンが芸術監督となって開催したデフィレで、40年に遡る過去のエトワールたちを招待したことにインスパイアされているそうだ。このアイデアを再現したジョゼ・マルティネスは、新芸術監督として素晴らしいスタートを切ったといっていいだろう。

左: 長老クロード・ベッシーの後に登場した芸術監督のジョゼ・マルティネス。後方に並ぶのはエレオノーラ・アバニャート、フランソワ・アリュ、クレールマリ・オスタ、カール・パケット、アニエス・ルテステュ、エルヴェ・モロー、ローラン・イレールたち。右: ドミニク・カルフーニ、クロード・ド・ヴュルピアン、ルディック・モディエール、イザベル・ゲラン、マリー=クロード・ピエトラガラ、キャロル・アルボ、レティシア・ピュジョル、マリ=アニエス・ジロ。彼女たちの後列には、ニコラ・ル・リッシュ、マニュエル・ルグリが。photos:Mariko Omura

オペラ座バレエ団の歴史に残る贅沢で感動的なデフィレだった。photo:Agathe Poupeney /Opéra national de Paris

デフィレの後、幕間を挟んで『Vaslaw』。この作品がオペラ座で最後に踊られたのは1998年とかなり前のことで、当時のエトワール、カデール・ベラルビとニコラ・ル・リッシュが6公演を交互に踊った。今回の公演ではヴァスラーヴ役にエトワールのマチアス・エイマンが久々に配されてオペラ座ファンを興奮させたのだが、あいにくと彼の復帰はまたしても実現せず。男性エトワールの絶対数が不足していることもあり、彼に代わってプルミエ・ダンスールのマルク・モローにこの大役が任された(ちなみに翌日の第2配役では作品を創作したジョン・ノイマイヤーが監督を務めるハンブルク・バレエ団のアレクサンドル・トルシュがゲストダンサーとして踊った)。ニジンスキーのメンタルな世界を描いた作品である。ここのところ配役に恵まれているマルクは力強くもあり、繊細でもあり、また動物的でもありと身体表現で見事にニジンスキーの内面に迫った。パ・ド・ドゥを踊る4組目のカップルはプルミエ・ダンスールのアルチュス・ラヴォーとエトワールのローラ・エケ。彼女はこの作品中の唯一のエトワールとして、テクニック的にも芸術的にも成熟した踊りで、作品に輝きと厚みを与えた。

この作品でノイマイヤーにインスピレーションを与えたのはヴァスラーヴ・ニジンスキー。バレエ・リュスで彼が振り付けた『春の祭典』が1913年、シャンゼリゼ劇場で初演された際、ストラヴィンスキーの音楽ともども前衛性が大きなスキャンダルとなった。騒然とした会場内、この晩集まっていた大勢のセレブリティの中にはココ・シャネルの姿も見受けられた。ガブリエル・シャネルとダンスにまつわるひとつのエピソードだ。

左: ヴァスラーヴ役のマルク・モロー。右はロクサーヌ・ストヤノフとフローラン・メラック。公演『若きダンサーたち』でクリストファー・ウィールドンの『アフター・ザ・レイン』を踊った際に、芸術性・身体的に良い組み合わせであることを観客に知らしめたふたりは、この作品でも見事にシンクロしていた。右: マルク・モロー、アルチュール・ラヴォー、ローラ・エケによるパ・ド・ドゥ。photos:Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

次の『le Chant du compagnon errant(さすらう若者の歌)』は、エトワールのジェルマン・ルーヴェとユーゴ・マルシャンが配役された。パトリック・デュポンがこれを友人と踊ったように、バレエ学校時代からの仲良しとして知られるユーゴとジェルマンという組み合わせが、ガラ公演に感動をプラスし、観客の心を掴んだ。『Vaslaw』はバッハの「プレリュードとフーガ」がステージ上でピアノ演奏され、こちらの作品はパリトン歌手が歌うギュスターヴ・マーラーの「さすらう若人の歌」。ダンスだけでなく音楽も楽しめる贅沢な2演目だった。

ジェルマン・ルーヴェ(ブルー)とユーゴ・マルシャン。翌日の公演ではマチュー・ガニオ(ブルー)とオードリック・ブザールが踊った。photos:Jonathan Kelleman/ Opéra national de Paris

2度目の幕間後、世界は一転しオーケストラによる演奏でハラルド・ランダーの『エチュード』だ。エトワールのポール・マルクとヴァランティーヌ・コラサント、そして今年スジェに上がったギヨーム・ディオップの3名のソリストに加え、コール・ド・バレエのダンサーは女性39名、男性10名と団員の約3分の1に相当する合計52名がステージ上でクラシックバレエのテクニックを華麗に披露。エトワール2名は鍛えられた体幹を武器に、まっすぐな軸を保って難易度の高いテクニックも楽々とこなし、カドリーユ時にエトワールの役を演じて以来注目を浴びているギヨームは踊る喜びをステージ狭しと弾けさせた。パリ・オペラ座バレエ団らしいエレガンスがステージを満たして、ガラ公演が終了。

『Etudes』 photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

左: ヴァランティーヌ・コラサントとポール・マルク。右: スター性を発揮したギヨーム・ディオップ。この晩『Vaslaw』でプルミエ・ダンスールのオードリック・ブザールが踊ったソロを、翌日の公演ではギヨームが踊っている。パリ・オペラ座の期待の星だ。photos:Jonathan Kellerman/Opéra national de Paris

2つの幕間にはパリ・オペラ座のメセナであるTaittinger(テタンジェ)のシャンパンとアミューズ・ブーシュが来場したゲスト全員にサービスされ、公演の終了後にはグラン・フォワイエで750名が参加して恒例の夜食(スーペー)が開催された。Le Foodingのマリーヌ・ビドーの指揮のもと、アミューズ・ブーシュはLe Servanのタティアナ・レーヴァ、前菜はLa Fenièreのナディア・サミュ、メインはOiseau Oiseauのスヴェン・シャルティエ、デザートは最近オペラ通りにChocolatier Jade Géninを開いたばかりのジャッド・ジェナンというフランス・ガストロノミー界の若いスターシェフたちが腕をふるった。公演の終了が22時30分過ぎと遅かったため、ディナーがデザートにいたる頃にはディスコに変身した階下のロトンド・デザボネから音楽が響き始め……パトリック・デュポンを偲ぶガラの夜は果てしなく続いた。

ガラのスポンサーはChanel(シャネル@chanelofficial)とRolex(ロレックス@rolex)。 舞台終了後、白をメインにした花々が装飾されたグラン・フォワイエでディナーが開催された。photos:(左)Mariko Omura、(右)Virgile Guinard

左: 前菜。ビーツの極薄スライスはローズオイルと花弁でバラが香り立つ。 中: メインは仔牛のウエリントン(写真)またはかぼちゃの花。右: デザート。驚くほど軽いチョコレートタルト。photos:Mariko Omura

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