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『逆転のトライアングル』カンヌ最高賞を獲得した、豪華客船で起こる悲喜劇

  • 2023.2.26
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陽光降り注ぐ豪華客船が、危険な笑いの大嵐に突入。

『逆転のトライアングル』

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売れっ子モデル、ヤヤが恋人と揉めまくる序から、巨船に招待されての群像喜劇(破)、孤島漂着の逆転劇(急)へ。装われた優雅さに、世の不均衡を撹拌する笑いが毒を撒く。カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞。

豪華客船に乗ったことがある。アラスカクルーズ。もちろん自腹ではなく、とある雑誌の企画で参加させていただいた。美味しい食事に高級シャンパン、カジノにプール、映画館。なんでも揃ったゴージャスな世界。だけど、すぐに気が付いた。アレ、なんかおかしい。なんだこの違和感は?船の上でキラキラ着飾った金持ちセレブたちと、船底でひたすら掃除や洗濯を続けるアジア人クルー。水着でジャグジーに入りながら崩れ落ちる氷山を見るだけでもしっかり矛盾に満ちているのに、それにも増して世界の格差が凝縮してそこにあり、なんとも気味が悪いのだ。そして追い打ちをかけるように襲い掛かる船酔い。橋田壽賀子先生、ごめんなさい。豪華客船は二度と無理!と涙しながらエチケット袋に嘔吐し続けたのだった。

さて、どういうわけか、おそらく豪華客船に乗り、同じように違和感を覚えてしまったであろうスウェーデン人がここにいる。前半、この世界の矛盾と気味の悪さを皮肉たっぷりに表現し、中盤から徐々に怪しくなる空模様。嵐の中、大揺れの客船で嘔吐しまくるセレブたちとそれを冷ややかに見つめるアジア人クルー。そして後半たたみ掛けるようなヒエラルキーの大逆転。ザマアミロの大連発。しかし当然それだけでは終わらない意味ありげなエンディング。笑っていいんです。監督も笑ってほしいと言っています。どれだけ頑張っても金持ちにはなれない私たちは、ひがみ根性を丸出しにしてハラを抱えて笑うしかない。だけど大声で笑い飛ばしたその先に、少しだけ心に風が吹いて、なんだかちょっとムナシイ。

私は同じことを感じながら、同じ映画監督として、こんなに面白い映画を作ってしまったスウェーデン人の彼、オストルンドの才能に嫉妬して、海に向かってちくしょーと叫び、余計に心に風が吹き、だいぶムナシイのだった。

 

文:荻上直子/映画監督2003年、映画『バーバー吉野』でデビュー。監督作品に『かもめ食堂』(06年)、『彼らが本気で編むときは、』(17年)、『川っぺりムコリッタ』(22年)ほか。Amazonプライム・ビデオ「モダンラブ・東京」配信中。今年初夏、『波紋』が公開予定。

『逆転のトライアングル』監督・脚本/リューベン・オストルンド出演/ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソンほか2022年、スウェーデン・ドイツ・フランス・イギリス映画147分配給/ギャガ2月23日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて順次公開https://gaga.ne.jp/triangle新型コロナウイルス感染症の影響により、公開時期が変更となる場合があります。最新情報は各作品のHPをご確認ください。

*「フィガロジャポン」2023年4月号より抜粋

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