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不法滞在の移民からハリウッド女優へ、『リトビネンコ暗殺』マルガリータ・レヴィエヴァが舞台裏明かす【インタビュー】

  • 2023.2.22

世界中を震え上がらせた“リトビネンコ事件”の10年間に及ぶ捜査の全貌を完全映像化したドラマ『リトビネンコ暗殺』より、毒殺されたリトビネンコ氏の妻マリーナ役を演じたマルガリータ・レヴィエヴァのインタビューが到着した。(フロントロウ編集部)

注目俳優マルガリータ・レヴィエヴァが、話題作の裏側を明かす

自分はウラジーミル・プーチンに暗殺されたー。そう訴えて亡くなったアレクサンドル ・リトビネンコ(デヴィッド・テナント)の暗殺事件と、そこから10年に及んだ、ロンドン警視庁の捜査官と妻マリーナ・リトビネンコの闘いを、当事者の全面協力のもと映像化したノンフィクションドラマ『リトビネンコ暗殺』。

本作で、毒殺された亡き夫の遺志を胸に、事件の真相を訴え続ける妻マリーナ・リトビネンコを演じたのが、マルガリータ・レヴィエヴァ。MCUドラマ『デアデビル:ボーン・アゲイン』やスター・ウォーズドラマ『アコライト』など、今後の話題作の出演も決まっている 旧ソ連出身のアメリカ人俳優は、どのようにマリーナ役を作り上げたのか? そこには、マリーナ役とリンクするマルガリータの人生のストーリーがあった。

画像: マルガリータ・レヴィエヴァ ©ゲッティイメージズ
マルガリータ・レヴィエヴァ ©ゲッティイメージズ

この役はどのようにして生まれたのでしょうか?

マルガリータ・レヴィエヴァ(以下 マルガリータ):マリーナ役のオーディションがあったとき、私はスペインで別の作品の撮影中でした。かなりハードなスケジュールだったので、その頃はとても疲れていました。そんななか、『リトビネンコ暗殺』のオーディションを受けることになり、「やりたいけど、どうやって時間を捻出すればいいのかわからない」と思ったんです。

オーディションのテープは月曜日の朝に提出することになっていて、その週末は疲れていたせいか、とても気分が落ち込んでいました。ビデオ通話をしていた友達に、このオーディションに取り組むことに気が乗らないと伝えました。彼女は「PCの横に携帯電話を置いて、カメラの電源を入れればいい」と言ったんです。私は「キャラクターも知らないし、練習もしてないし、暗記もしていない。やることが多すぎる」と言うと、彼女は「あなたの中にすでにマリーナがいるのを感じるわ。だから、とにかく台本を読みなさい」と言ったんです。それで、読んでみました。その結果には私たち2人ともが、とても驚きました。私自身から溢れ出る何かが伝わってきたのです。

マリーナはとても素晴らしい女性です。彼女の勇気、回復力、誠実さにはいつも感心させられ、興味を強くそそられました。私が彼女を演じることに関しては、自信がない部分もありました。でもオーディションを受けたとき、「あ、できるかもしれない」と思ったんです。

画像1: 注目俳優マルガリータ・レヴィエヴァが、話題作の裏側を明かす

現在はアメリカにお住まいですが、もともとはロシア出身なのですか?

マルガリータ:サンクトペテルブルクで育ちました。私は若い頃、新体操の選手で政府に“所有”されていました。そう言うととてもドラマチックに聞こえますが、当時は選手である以上、それが事実だったのです。幼い頃から厳しい訓練を受ける。それが、私のサンクトペテルブルクでの生活でした。11歳の時、母は私と双子の兄を観光ビザでアメリカに連れて行ってくれました。マリーナとサーシャ(※アレクサンドルの愛称)のリトビネンコ夫妻のシナリオと同じように、「休暇に行くのよ。荷造りしなさい」って。そして、ロシアを永久に去るつもりだと母は告げたのです。

ロシア系ユダヤ人の家族として、私たちが経験した反ユダヤ主義は、母が下した決断の大きな部分を占めていました。ユダヤ教について話すことは許されなかったので、私はユダヤ教についてあまり知りませんでした。当時のロシアでは、パスポートに宗教が記載されていました。私はロシア人ではなく、ユダヤ人だったのです。ユダヤ人と知られるのが嫌で、パスポートを隠していました。幼い頃、親に連れられてシナゴーグに行ったとき、デモがあって中に入れなかったことがありました。そのときは、トラブルになりかねないから、あまり話せなかったんです。兄は学校で「キケ」と呼ばれてよく喧嘩をし、母はユダヤ人であるために行きたい学校へ行けませんでした。そういうことが生活の一部だったんです。

アメリカには観光ビザで行き、当時は不法滞在でした。私たちはすべてを捨てました。父も、家族も、祖父母も、何もかも。父はサンクトペテルブルクからモスクワへ引っ越しました。私たちは不法滞在者だったので、ロシアに10年ほどは帰ることができず、どんな書類も手に入れるのに長い時間がかかりました。でも、戻れるようになってからは、またモスクワに通うようになりました。

この制作が始まる前に、この物語について詳しく知っていたのでしょうか?

マルガリータ:自分で調べ始めたことでよりたくさんのことを知りました。この事件が起こったとき、ニュースにショックは受けましたが、同時に驚くこともありませんでした。毒物がどれだけ追跡されたのか、どこにあったのかなどについては知らなかったためルーク・ハーディングの『A Very Expensive Poison』(日本語版未訳)という本を読むなどして、調べ始めました。この話の範囲を知るだけでも興味深かったです。

本作の脚本に入っているアレックス・ゴールドファーブが、たまたま私の継父の友人でした。アレックスは自分の脚本を継父に送り、感想を求めたのです。継父はそれを読み、私に電話をかけてきて、「私の友人の脚本が、かなり面白いものになりそうだ」と言いました。「すごくいい女性の役があるから、読んでみたら」と。それで読んでみたら、脚本も役柄も気に入ったので、「ぜひこの人と会ってみたい」と言ったんです。それでアレックス・ゴールドファーブと会ったんだけど、彼は私が継父の娘だと知って驚いたと。彼は私がマリーナ役を演じることを望んでいたらからです。それで私たちは脚本を一緒に書くことを決めました。

このドラマに出演する前に、約2年間、私はアレックス・ゴールドファーブと脚本を練っていました。ただ、彼がアレクサンドル・リトビネンコの最後の数週間の非公式なスポークスマンを務め、サーシャの生と死についてマリーナと共に本を書いていたアレックスその人だとは気がついていませんでした。彼は『リトビネンコ暗殺』がもし映画化されたら、私がマリーナに適役だろうと言っていました。そして後に、私がこのドラマのオーディションを受けた際に、ジョージ・ケイの台本にアレックス・ゴールドファーブという名前を見つけて、「この名前、知ってる」と思ったんです。そして、それが2年間一緒に脚本を書いていたアレックスだと気づいたんです。

画像2: 注目俳優マルガリータ・レヴィエヴァが、話題作の裏側を明かす

マリーナとは会ったことがありますか?

マルガリータ:ロンドンで長い時間を一緒に過ごしました。とてもありがたかったです。HBOのドラマ『DEUCE/ポルノストリート in NY』では、私の役は実在の女性をモデルにしていたのですが、本人は関わりを持ちたがらず、会うこともありませんでした。なので、実在のモデルに直接会うのは初めてでした。私は彼女がこのキャスティングに満足していないんじゃないかと思い、怖かったです。でも実話に基づく芝居を書いている友人が、いいヒントをくれました。彼女は、「何か恐ろしいことを経験し、その物語が語られる人は、そのことに本当に感謝している」と言ったんです。それを知ってから最初のミーティングに臨むことができたのはよかったです。

マリーナはとても気さくな人でした。私が彼女を演じることをとても喜んでくれて、私がアレックスを知っていることを知ると、さらに喜んでくれました。それ以来、私たちはとても仲良しになりました。実際に会ってみると、彼女のポジティブさ、楽観性は並大抵のものではないことがよくわかります。彼女は被害者ではないという信念を持っている。これは彼女の身に起こったことではないのです。これは神の呪いではないのです。これは人生であり、起こるべくして起こったことなのです。彼女は、周囲の愛やサポート、友人たちにとても感謝しています。マリーナは本当に愛というレンズを通して人生を見ている。サーシャと一緒にいたときの愛が、ずっと続いているのだと。アレクサンドルは、この愛と、今彼女を支えているすべての人たちと一緒に、彼女を残していったのです。もちろん、彼女にとって戦いであることは間違いありませんが、戦いのようには感じません。

私は夫が亡くなって数週間後にマリーナがTVでインタビューを受けた映像を見て、よくやり遂げたな、と感心しました。それまで人前に出たことがなかったのに。彼女は、「とても簡単でした。緊張しなかった。自分のことじゃないから。私は彼の物語を伝えなければならなかったのです」と。彼女が夫の代弁者であるという発想。彼女を見ているとジャンヌ・ダルクを思わせます。自分の信念や信仰をしっかりと持っている人。それは揺るぎないもので、個人的なものよりもずっと大きなものです。マリーナはそんな力を持っています。でも同時に、彼女は小柄で優しい女性でもある。光とポジティブさに満ち溢れ、彼女はいつもその空間を保っているのです。彼がいなくなっても、まだ一緒にいるのだと思います。2人の心の間にある紐は、まだ繋がっているのです。

画像: マリーナ・リトビネンコ(左)とマルガリータ・レヴィエヴァ
マリーナ・リトビネンコ(左)とマルガリータ・レヴィエヴァ

マリーナは、夫が毒殺され、精神的に病んでいたわけではないことを周囲に納得させなければならなかったのですか?

マルガリータ:理解しがたいことです。自分がその立場になったらと思うと。自分の配偶者が毒殺されただけでなく、今度は自分も夫も信じてもらわなければならない。彼らに起きたことが現実離れしていますからね。ロンドンの路上で誰がイギリス人を毒殺するんだ?誰がそんなことを?サーシャの最後の声明についてマリーナと話したのは興味深かったです。彼が生前に口述し死後に読み上げられたもので、ロシアの指導者ウラジーミル・プーチンを非難するものだった。そしてプーチンは、「リトビネンコ氏は残念ながらラザロではない」と言って、サーシャの言葉の真実性を疑わせたのです。その話が出るたびに、マリーナは「でも彼はラザロなんだ」と言う。ここにいなくても、彼はあそこでプーチンを告発し、自分の事件を語り、正義を勝ち取るのです。このドラマでは、マリーナがずっとやってきたこと、つまり彼の話をし、真実を伝えるということをすることができるんです。

サーシャはいつもこの人たちが自分を殺すと言っていた。だからロシアを離れたんです。刑務所で死んだり殺されたりするのは嫌だった。それが彼の日常だった。毒を盛られた直後、マリーナは彼が生き延びられると信じていました。だからこそ、最後の数日間は、警察の取り調べを受ける時間が長く、耐え難いものになったのです。2人の時間は短くなったのだから。彼らはイギリスなら安全だと感じていたし、マリーナは今でもそう思っている。プーチンとその政権にとって裏切りには報復がつきものだから、サーシャは殺されたのだと考えています。これ以上何ができるというのでしょう。彼らは自分たちを裏切った人間を殺したのです。

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病院のシーンの撮影では、マリーナとサーシャがどう感じたかを考える時間はあったのでしょうか?

マルガリータ:振り返る瞬間はありませんでした。その場にいる間中、ずっとそうでした。監督のジム・フィールド・スミスは、この作品のためにとても尽力してくれました。彼は最初から、このドラマをドキュメンタリーのように撮りたい、と言っていました。ロケ地の多くは、これらの出来事が起こった実際の場所です。彼は、私たち全員をキャスティングしたのには理由があると言いました。私たちを登場人物として見て、お互いに交流できる空間を作りたかったのでしょう。それを聞いて、とても助かりました。彼の演出、セットデザイナー、プロダクションチーム全体が、私たちがこの物語を生きていると感じられるような環境を提供してくれたのです。みんなそれぞれ違う仕事をしています。役者も皆、それぞれのスタイルを持っています。でも私は、マリーナとして撮影現場にいるとき、これらの人々や場所の状況を生きているように感じました。

ハイゲート墓地では、アレクサンドル・リトビネンコの本物のお墓で撮影をしました。あれはとてもパワフルでした。このシーンは、物語に大きな影響を与えました。また、マリーナとサーシャの息子、アナトーリを演じたジェームズ・エズラヴとの法廷でのシーンでは、撮影中も写真やビデオを見て、物語に入り込んでいました。撮影の休憩時間に、マリーナとアナトーリが裁判所で撮った写真を見て、それを彼に見せました。私は言いました。「これは誰のためにやっているのか」ってね。こんな話をすることは滅多にないです。

アレクサンドル・リトビネンコ役のデヴィッド・テナントとの共演はどうでしたか?

マルガリータ:事前にデヴィッドと仕事をしたことのある人たちから話を聞いていたのですが、私が聞いていた通りの、それ以上の人でした。みんな、彼が非常に才能豊かであることに加えて、いかに素敵な男性であり寛大な俳優であるかを語ってくれましたが、それはすべて真実でした。病院でのシーンで、アレクサンドル役のデヴィッド・テナントが、ニール・マスケル演じる刑事ブレント・ハイアットに、正義を果たすことを約束するように言うシーンがありました。最初のリハーサルから、彼がこの言葉を口にしたとき、ベッドの周りに座っていた私たちは号泣していました。どうしたら、あのシーンを全員で泣かずにすませることができるのだろう、と。本当に集中しなければならなかった。そして、そのシーンを撮影するために、みんなで我慢しようということになりました。サーシャの話を聞いているような気分で、彼と一緒に部屋にいるような感覚でした。彼の言葉を聞いて感情的にならないなんて、人間離れしていますよ。

病院のシーンはとても凝縮されていたので、デヴィッドと私は1週間強一緒に仕事をしました。彼はサーシャを体現し、残りの撮影に必要なものを私たちに与えてくれたので、この物語を実現するのにとても役に立ちました。撮影現場で、病院での日々や、彼が警察に向かって「約束してくれ」と言うシーンを思い出すことが何度もありました。私は、「よし、約束したんだもの。彼のためにこれをやらなければならない」と思いました。デヴィッドと一緒に仕事ができたことは、本当に素晴らしいことでした。

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マリーナもサーシャも、イギリスの警察に絶大な信頼を寄せていましたか?

マルガリータ:刑事たちの仕事ぶりは格別でした。マリーナから実際のストーリーを聞きました。ただ彼らの仕事ぶりや献身的な姿を見たり体験したりするだけで胸を打たれるものがあったようです。警察は、自分たちがやるべき仕事を正しく行いました。サーシャと、彼が残した妻との約束を守ろうとしました。2人とも本当に英国警察を信頼していました。サーシャは英国籍であることをとても誇りに思っていた。彼にとっては、自分が壊れたり腐敗したりしていない社会体制の一部だと実感できるというのが、とても意味のあることだったのです。

ニュース性や政治を抜きにすると、これは一人の、40代前半の夫であり父親であるイギリス人がロンドンの路上で殺害された事件でもありますね

マルガリータ:役作りの一環として何度も見たインタビューには、見るたびに私の心を掴んだマリーナの発言があります。なぜこの物語を語るのか、それを思い出させてくれる言葉です。マリーナとアレックス・ゴールドファーブが本のプロモーションをしているときの初期のインタビューで、マリーナに「人前に出ることをどう感じるか」と尋ねる質問がありました。彼女は、「結局のところ、本当に善良な人間が殺されたんです。そして、私がいなければ、誰もそのことを知ることができない」という趣旨を語っていました。政治的なことをすべて取り除けば、彼は妻と息子を愛し、家族にもっと良い生活をさせたかっただけの善良な人なのです。

では、なぜプーチンへの抗議を続けるのか、と思う人もいるかもしれない。それは、亡くなったサーシャが善人であり、正義と道徳を信じたからです。彼は、このようなことが平然と行われていて、誰もそれに対して何もしないのはフェアではないと思っていたのです。マリーナは、そんな彼のことを理解していたと思います。彼にとって何が重要かを知っていた。彼女は彼を愛していた。誰も彼女を止めることはできないのです。

画像5: 注目俳優マルガリータ・レヴィエヴァが、話題作の裏側を明かす

2006年にロンドンで起きたアレクサンドル・リトビネンコの放射能汚染による殺人事件の責任はロシアにあるとする2021年9月の欧州人権裁判所の判決は、撮影中に発表されたのですか?

マルガリータ:その判決が発表されたのは、ハイゲート墓地での撮影の2日目でした。私が出勤すると、みんなが 「聞いた?」と言っていたのを覚えています。ケータリング係からPAまで、スタッフの誰もがそのニュースに興奮していました。みんなこの話に夢中になっていたんです。ドライバーであれ、裏方であれ、この話に参加できることに興奮している人に何人会ったかわからないくらいです。

自分のキャリアの中で、この役割を振り返っていかがですか?

マルガリータ:まだ記憶に新しいところです。私のキャリアの中でも、より難しく、より挑戦的な仕事のひとつであったことは間違いありません。それは、マリーナの名誉を守りたかったからです。自分の演技を心配するわがままな俳優ということではありません。話し方であれ、外見であれ、私はそれを正しく表現したかったのです。マリーナの物語に深く関わっているため、何度も感情移入しました。同時に、マリーナは常に危機に瀕しているような人物ではありません。彼女は自分をしっかり持っています。だから、それを尊重しつつ、あまり感情的にならないようにしたかったんです。彼女を称えたいという思いが強かったのです。

英国でもっと仕事をしたいです。私が尊敬する作品の多くはイギリスから発信されているので、私はイギリスでエージェントを獲得しました。その一翼を担えたらと思います。私はアメリカの女優ですが、ロシア人でもあります。だから、ヨーロッパ的な感性を持っているような気がします。このドラマは多くの人に見てもらいたいし、大きな影響力を持つものだと思います。イギリスでは、この物語はとても親しまれています。アメリカではそれほど多くの人が知っているわけではありません。もっと多くの人に知ってもらいたいですね。

ドラマ『リトビネンコ暗殺』は字幕版と吹替版が、「スターチャンネルEX」で独占配信中、「BS10 スターチャンネル」で独占放送中。(フロントロウ編集部)

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