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映画愛にあふれた名画座談義。〈名画座かんぺ〉のむみち×太田和彦×山内マリコ

  • 2023.2.22
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『名画座かんぺ』発行人・のむみち、アートディレクター・太田和彦、小説家・山内マリコ

山内マリコ

名画座って昔からあると思っていましたが、そうでもないんですね。

太田和彦

僕が1964年に上京した当時は、映画館はたくさんあったけど、古い映画をかける名画座はあまりなかった。

のむみち

映画館通いがこんなに忙しくなったのは……。

太田

ここ5年くらいだね。俗に五傑といわれるのが、神保町シアター(*1)、ラピュタ阿佐ヶ谷(*2)、新文芸坐(*3)、シネマヴェーラ(*4)、フィルムセンター(*5)。

*1:神保町シアタ
2007年、神保町にオープン。各回入れ替え制で上映。10年には太田和彦編「映画と酒場と男と女」という特集も。

*2:ラピュタ阿佐ヶ谷
1998年、阿佐ヶ谷に開館。昭和の女優シリーズは人気。昼興行のほかモーニング、レイトショーも。

*3:新文芸坐
池袋で40年以上営業していた旧文芸坐が1997年に閉館し、2000年に新文芸坐が開館。従来の2本立て上映で、オールナイト上映も好調。

*4:シネマヴェーラ
ユーロスペースが入る渋谷キノハウスに2006年開館。洋画古典「映画史上の名作」や、カルト作の特集「妄執、異形の人々」など幅広いラインナップを2本立てで。

*5:東京国立近代美術館フィルムセンター(現:国立映画アーカイブ)
1970年開館。上映・展示だけでなく、フィルムの収集、保存、復元も行う国立施設。各回入れ替え制だが、1本520円(一般)で映画が観られるのがうれしい。

のむみち

私が作っている『名画座かんぺ』はこの5館が中心。

山内

神保町シアターに初めて行ったのは高峰秀子特集だったんですが、軽い気持ちで行ったら満席で入れなかったんです。それまで名画座って閑散としているイメージだったので、昼間なのに何?この激アツの映画館は?とびっくりして。

太田

神保町シアターができて名画座のイメージが変わったね。清潔感があって順番入場で。中高年も安心して行けるし、あなたたちのような知的な美人女性が行けるようになった。

のむみち

私は新文芸坐がいちばん好き。あのスクリーンが。

太田

大きくていいよね。並木座とか昔の名画座は、小津(安二郎)、成瀬(巳喜男)、黒澤(明)ばかり上映してた。ところがいまは名作を卒業した人へといった感じで、掘り出し物大会のよう。企画競争みたいで頭が下がること、下がること。

山内

そうですね。古い日本映画って、小津、成瀬、黒澤くらいしかないのかと思ってました

太田

監督特集や俳優特集もたくさんやっているけど、いろいろなアレンジがあって面白いね。神保町シアターの「川口家の人々」(*6)なんてよく考えたな。企画賞ものだよ。

山内

女の人が喜ぶ企画も多いです。乙女映画を特集した「春よ! 乙女よ! 映画よ!」とか。

太田

ファッションに注目した「女優とモード 美の競演」もいい特集だったね。

のむみち

私が今年通ったのはラピュタの「事件記者 BUN-YA SPIRITS」(*7)。これは全作制覇しました。

太田

すごい。僕は2〜3本。

のむみち

上映期間中はクラブ活動みたいで楽しくて。5人くらいコンプリートした仲間がいて、打ち上げやりました(笑)。

太田

それはいいね。

山内

今度のラピュタの加東大介特集も楽しみですよね。

のむみち

すごく楽しみ。観ていてあんなに幸せになる顔はない(笑)。私、女優では飯田蝶子、男の俳優では大木実が好き。

山内

私は1位は若尾文子!あややとデコちゃん(高峰秀子)の特集は必ず行きます。あと岡田茉莉子も好き。

太田

あやや(笑)。男からすると若尾文子は怖いよ。やはり女性は見る目が違うな。でも、名画座の一番人気女優は若尾文子、男優は田宮二郎。これは双璧だね。

山内

あと、出ているとうれしいのが、川崎敬三。

太田

おおー、あいつはいいやつだよ(笑)。『東京おにぎり娘』(*8)のときの川崎敬三はよかったな。

山内

太田さんが好きなのは?

太田

男では大坂志郎、日守新一、そして加東大介。この3人が出てくるとものすごく得した気持ちになるな。あと、出てくるとうれしいのは小沢昭一。必ず何かやるんだ、口笛吹きながら出てきたりね。

のむみち

女優さんは?

太田

女優は全部好きさ。古い映画のいいところは、俳優が圧倒的にいい。女優はきれいで、男は男らしい。それと、いまはなくなってしまった昔の風景や風俗がある。戦後の銀座や勝鬨橋のあたりの風景とか、恋人同士の慎ましやかな心の通い合いとか。いまみたいに「壁ドン」の時代じゃないから、喫茶店で向かい合って「あの……」なんて言って。そういうモラルだったり、失われてしまったものが残っているのがいいね。

山内

同じ日本語なのに、言葉遣いも違いますね。きれいな日本語で、うっとりします。

のむみち

その当時の流行語が出てくるのも面白いですよね。

名画座のフリーペーパー

*6:「川口家の人々」
映画原作や脚本を多く手がけた川口松太郎、その妻の女優・三益愛子、その2人の息子である俳優・川口浩、その嫁の女優・野添ひとみ。この映画一家の作品を集めた2012年の特集。

*7:「事件記者 BUN-YA SPIRITS」
1958年からNHKで放送された人気ドラマ『事件記者』を59年から映画化。警視庁記者クラブを舞台にした記者たちの群像劇。この特集では日活版10本と東京映画版2本が上映された。

*8:『東京おにぎり娘』
新橋でおにぎり屋を始めた娘の下町人情もの。中村鴈治郎と若尾文子が父娘を演じ、川崎敬三はヒロインに想いを寄せる男の一人を演じた。'61日/監督:田中重雄/出演:若尾文子。

名画座が映画を発掘してくれるおかげで、この幸せがある

山内

昔は映画館で観る意味がよくわからなかったんですが、映画館で観ると感動のレベルが違うんですよね。

太田

映画は映画館で観ないと観たとは言えないんです。少なくとも文章を書く人は。例えばゴッホの絵について書くときに、印刷物を見て書くなんて話にならない。それと同じ。映画は映画館で映すように作られているんだから、正しい観方をしないと映画に失礼だよ。

山内

もっと若い人にも名画座に来てほしいです。次の世代の育成をしないと。

のむみち

山内さんみたいな方に、どんどん名画座のよさを広めてほしいです。

太田

これだけいろいろな映画がかかるいまの環境は、本当に素晴らしいよ。

山内

観たいものがたくさんあって忙しいのが悩みの種ですが。

太田

こういう名画座が古いフィルムを熱心に探し出してかけてくれるから、この幸せがあるわけで。文化庁は表彰すべき。

のむみち

太田さんが名画座をやったら?

太田

嫌だよ、映画が観られなくなるじゃない。居酒屋を始めたら飲みに行けないのと同じだよ(笑)。でも企画は20本くらい提案してるよ。

のむみち

すごい!なかでもイチオシはどんな特集ですか?

太田

名画座が発掘した監督(*9)の特集が観たいね。このメンバーで企画会議をやるか。

山内&のむみち

いいですね!

『名画座かんぺ』発行人・のむみち、アートディレクター・太田和彦、小説家・山内マリコ
1年ほど前、『名画座かんぺ』をラピュタで手にした太田さんは「これはいい人が現れた」と思ったそう。撮影協力/ラピュタ阿佐ヶ谷

*9:名画座が発掘した監督
近年の名画座での特集上映により、これまであまり知られることのなかった田中重雄、鈴木英夫、中村登、清水宏などの監督たちの再評価が高まった。

3人の名画座愛

アートディレクター・太田和彦の映画について星取り評付き記録ノート
2009年に名画座にはまったというのむみちさんは、ファミリーカレンダーを使って自分のためのスケジュール表を作ったのがきっかけで、12年から名画座の上映情報を掲載した『名画座かんぺ』を手書きで制作。都内名画座を中心に配布。
『名画座かんぺ』発行人・のむみちが制作した『名画座かんぺ』
1964年に上京して以来、観た映画について星取り評付きでノートに記録している太田さん。かつて大井町にあった名画座、大井武蔵野館(99年閉館)に通い、『OMF(大井武蔵野館ファンクラブ)会報』を手書きで作成していたことも。
名画座や特集上映のチラシ
2005年に上京してから映画館で映画を観る楽しさを知ったという山内さんは、名画座通いを始めてからブログ「The world of maricofff」をスタート。新鮮な目線で綴られ、楽しさが伝わってくる。名画座や特集上映のチラシも集めている。

profile

『名画座かんぺ』発行人・のむみち

のむみち(『名画座かんぺ』発行人)

1976年生まれ。古書往来座で働く傍ら名画座スケジュールを載せた『名画座かんぺ』を発行。1年分をまとめたアーカイブスも販売中。

Twitter:@conomumichi

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アートディレクター・太田和彦

太田和彦(アートディレクター、作家)

おおた・かずひこ/1946年生まれ。居酒屋に関する著書が多数、『シネマ大吟醸』など映画にまつわる著書も。文庫『居酒屋吟月の物語』が14年12月6日発売。

profile

小説家・山内マリコ

山内マリコ(小説家)

1980年生まれ。大阪芸術大学卒業後、2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。ほかに『さみしくなったら名前を呼んで』など。

Twitter:@maricofff
Instagram:@yamauchi_mariko

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