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「これからもずっとマスクを外したくない」児童5000人調査でわかった子どもたちの切実な思い

  • 2023.2.21
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全国の小中学校や高校で「卒業式はマスクなし」とするところが増えてきた。学校における感染症対策の今後はどうなるのか。2022年、約5000人の学童にアンケート調査を行った高久玲音・一橋大学経済学研究科准教授は「約2割の生徒がマスクを外すことに抵抗を感じている。教師など大人が脱マスクを強く指導することは避けるべき」という――。

教室で並ぶ子供たちを非接触体温計で体温を計っていく教師の手元
※写真はイメージです
マスク生活はわれわれが背負うべき永遠の十字架か

2020年3月2日に全国の学校が突然の一斉休校となってからこの3月で3年になる。突然の休校から文字通り切れ目なく続いた3年間の制約の多い生活は子どもの日常を一変させた。コロナ禍以降、子どもの体力低下や体重の増加などが報告されるだけでなく、自殺の増加など子どものメンタルヘルスの深刻な悪化を示す例も示されている。国立成育医療研究センターの研究でも摂食障害の子どもの数がコロナ禍で増加したまま高止まりしているという(参考1)。

感染拡大当初、コロナウイルスが「未知の感染症」であったころはともかく、オミクロン株に変異し重症化率が低下したことが明らかになった後もなお、1年にわたってそれまでと同じ感染対策が続けられたことには、極めて厳しい批判もある。例えば、全国に先駆けて黙食を原則撤廃した千葉県の熊谷俊人知事は、「最も重症化しづらく、最もマスクによる弊害が考えられる幼児・小学生が事実上、マスクを常時つけ、私たち大人が当たり前のように経験してきた貴重な経験を一部、一方的に奪われ続けてきたことは日本人が永遠に十字架として背負うべきものだ」(参考2)と述べている。

2023年度からは学校でもマスク着用緩和へ

ただ、ここに来て、長らく続いたマスクや黙食といった学校感染症対策にもようやく出口の兆しが見え始めた。2022年末には、給食の時の過ごし方について、適切な対策を行えば会話は可能だとする通知を文部科学省が都道府県の教育委員会などに出している。さらに2023年2月10日には、学校の授業において4月1日以降、基本的にマスク着用を求めないとする通知が、各地の教育委員会に出された。

子どもたちの現状と意向について調査が必要

子どもたちの生活は平時に移行していく重要な局面を迎えている一方で、あまりに長きにわたって学校で感染対策が事実上強制させられていたことから、平時に戻る際に一定の混乱が起こるかもしれない点には注意が必要だ。例えば、マスクについては大人であっても「外しても良いと思うが、周りの目が気になり外せない」といった方も多く、多感な子どもたちがどう考えているか、大人以上にうかがい知れない部分が多い。また、そもそも子どもたち自身が感染対策についてどう思っているのか、(それ自体ある種の政治的・行政的怠慢だと思うが)十分な資料がないのが現状だ。

そこで、筆者らは子どもやその保護者が学校で行われている感染症対策についてどのように思っているのか明らかにすべく調査を行い、主要な結果を2022年12月に学術誌から公表した(参考3)。調査対象者は小学校4年生から高校3年生までの合計5004人(556人×9学年)だ。調査はできる限り子ども自身に答えてもらえるように、調査会社に登録しているモニターにお願いをした。アンケートが実施された2022年6月末は感染が落ち着いていた時期であり、今後の学校の感染症対策の在り方についても一定の示唆を持つものと考えられる。

【図表】子どもたちはマスクを着けていたいのか/外したいのか
2~3割の子は「ずっとマスクを外したくない」

調査を集計してまず驚いたのは、場面によらず「これからもずっとマスクは外したくない」と回答した児童の多さだ。屋外では基本的にマスク不要という専門家の指針が調査当時からメディアを通じて周知されていたが、18%の児童は「これからもずっとマスクは外したくない」と回答している。電車や図書館などの公共性の高い場になると、この割合は3割に達する。学校においても、ポストコロナを迎えてもなお着用の意向は強く、25%の児童は授業中にマスクを着用すると答えている。属性別に見ると、着用意向は女児で強い傾向があった。

こうした結果は、長らく続いた感染対策の結果として、少なくない子どもの間で感染状況と関係なくマスクの着用意向が強く根付いていることを示唆している。マスクを外したくないという児童が一定数いることを念頭に、段階的に着脱のガイドラインを考えることが重要になるだろう。

給食時の黙食廃止は子どもの満足度を高める

さらに調査を仔細に見ると、一部の学校で既に黙食が廃止されていたり(調査対象者の7%)、先生によっては独自に「国語や算数の時間でもマスクを着用しないで良い」と生徒に伝えていたり(調査対象者の6%)していたこともあり、先生や学校の指導にもバラツキがあった。そこで、そうした指導が児童にどういった影響を与えるのか検証できた。

検証方法についてやや専門的な補足をすると、感染対策の実施状況は地域の感染状況などの交絡因子の影響も受けるが、たまたま任期中だった政治家の嗜好(e.g., 熊谷知事が黙食反対だったので黙食が廃止された)などで決まる側面も多く、地域属性を調整すればランダムな介入に近い側面もある。そのため、クロスセクションデータによる分析でも因果関係がそれほどバイアスなく抽出できている印象を個人的には持っている。

詳細は割愛するが、もっとも重要な結果として、黙食の廃止は「給食の時間が楽しい・満足」と感じる子どもを13.5%ptほど大きく増加させるようだった。また、マスクを外すことを許可する指導も、全般的には子どもの学校生活に関する満足度を向上させるようだった。

給食を食べ始める前に「いただきます」を言う小学生たち
※写真はイメージです
座学ではマスクを外したくないという意外な結果

こうした結果を見ると、一部に流布している「黙食やマスクにはデメリットがない」といった見解は間違いだろう。「学校が楽しい」「学校に満足している」というのは教育上重要なアウトカムと考えられ、感染対策を行うメリットとそれによって犠牲になる教育上のメリットは公平にてんびんにかけられるべきだ。多くの子どもにとって感染は数日の出来事にとどまるが、学校生活は毎日続く点も忘れてはならない。

全般的に感染対策を緩めることで児童の学校生活に対する満足感は向上するようだったが、一点注意すべきことがある。それは「強すぎる指導」についてだ。データを見ると、体育や音楽などマスクを外すことにメリットを感じやすい時間であれば、おおむね「マスクを外してもいい」という指導は児童から好意的に受け止められていた。しかし、国語や数学など座学の時間の指導は逆に「マスクを外したくない」という意向を強めるようだった。これは、筆者にとっては意外な結果だった。

橋下徹氏は「マスクを外す強い指導」を主張するが…

調査当時、座学の時間にマスクを外していいと指導を受けた児童は6%程度と少ないことから、こうした指導は一般的な基準からみて「強すぎる指導」に該当するだろう。おそらく、子どもは大人の着脱動向なども勘案しながらマスクについて判断しており、「大人もやっていないことをする」ように指導されることに拒否感をもったのかもしれない。「大人はオフィスでマスクを着けて仕事しているのに、なぜ私は国語の時間にマスクを外せとイチイチ言われないといけないの?」というわけだ。また、心理的に、当時の標準から逸脱した指導に対して違和感を持った可能性も考えられる。

感染対策を緩めるにしても「どれくらい緩めるのか」についてのコンセンサスが現時点ではないように見えることから、この点は特に注意したい。例えば、マスクに関する強硬派の意見として、橋下徹氏は2023年1月の報道番組で「大人の議論よりも子どもですよ。メリット、デメリット比較すれば、マスクなしの教育の方が圧倒的にメリットあるし、マスクした教育の方がデメリット大きいから、そこは強烈な要請、指導が必要だと思います」と述べている(参考4)。

しかし、解析結果から判断すると、橋下氏の言うような「強烈な要請、指導」が必要と考える大人・指導者が仮に多かったとしても、「教育だから」という理由で、大人もやっていないことを子どもに半ば強制する事態にならないよう注意する必要はあるだろう。一部の子どもたちには逆効果になってしまう可能性もある。

ランドセルを背負って学校に行く娘にマスクを装着させる母親の手元
※写真はイメージです
黙食を止めると脱マスクのナッジになる

マスクに関する指導は場合によっては逆効果になりうるという発見と対照的なのは、黙食の廃止だ。黙食の廃止は、「マスク」と明示することなく児童が自然にお互いの笑顔を確認することになるので、「マスクを外させるナッジ」になっている側面がある。実際に、黙食を廃止した学校では「マスクを外したい」という意向が大きく強まるようだった。黙食は大人が全く実施していないこともあり、マスクの場合と異なり逆効果になることもなかった。こうした結果の傾向は、学年(小中高)や男女でも一貫して見られており、どの属性の子どもでも同じだった。

当事者不在の学校感染症対策を今こそ変えるとき

以上の結果や、文部科学省の通達以降も慎重を期して黙食を続けている学校が多い現状を考えると、学校で実施されている日常的な感染対策を緩和する際には、まず黙食の廃止を徹底することが肝要に思われる。

最後に、学校感染症対策では、いわゆる「当事者不在の意思決定」という構図が3年間続いていた点を指摘したい。危機であればこそ、専門家だけではなく幅広い利害関係者を含めた意思決定が重要になる点が、リスクコミュニケーションをはじめさまざまな学術分野から主張される(参考5)なかで、文部科学省や教育委員会は保護者や子ども自身から丁寧な意見聴取の機会を設けようとはしておらず、今後予定される感染対策の緩和についても影響調査をする機運は見られない。直面したことのない事態を迎えるにあたり必要なのは、フラットな視点で虚心坦懐に実態を観察しデータに基づく議論を行うことだろう。今後の教育や将来のパンデミックへの知見を蓄積する意味でも、教育行政の取り組みには期待したい。

※参考文献
1.2021年度コロナ禍の子どもの心の実態調査 摂食障害の「神経性やせ症」がコロナ禍で増加したまま高止まり | 国立成育医療研究センター
2.政府の5類感染症への見直しにあたり|熊谷俊人(千葉県知事)|note
3.高久玲音,&王明耀. ポストコロナに向けた子どもたちの学校生活の現状―2022年6月の学校生活調査の結果と予備的解析―. 社会保障研究, 7(3), 224-235.
4.橋下徹氏 子供たちのマスク着用で私見「マスクなしの教育の方が圧倒的にメリットある。強烈な要請を」― スポニチ Sponichi Annex 社会
5.吉川 肇子(2022)『リスクを考える:「専門家まかせ」からの脱却』(ちくま新書)

高久 玲音(たかく・れお)
一橋大学経済学研究科准教授
1984年生まれ。2015年に慶応大学で博士号取得(商学)。一橋大学経済学研究科准教授。専門は医療経済学、応用ミクロ計量経済学。全世代型社会保障構築会議構成員も兼任。

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