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謎の化け物に「地獄に堕ちる」と宣告された人々の末路は…宗教、人間が複雑に絡み合うホラー『地獄が呼んでいる』

  • 2023.2.19
謎の化け物に「地獄に堕ちる」と宣告された人々の末路は…宗教、人間が複雑に絡み合うホラー『地獄が呼んでいる』
Netflixシリーズ『地獄が呼んでいる』独占配信中

韓国の漫画・ウェブトゥーン原作の話題作!

韓国の漫画はウェブトゥーンと呼ばれていて、縦読みの構成でスクロールしながら読んでいく。歴史は浅いものの、今ではウェブトゥーン初の映画・ドラマが数多く制作されている。ドラマひとつとっても、『Sweet Home -俺と世界の絶望-』『D.P. -脱走兵追跡官-』『その年、私たちは』などなど、ホラーから恋愛ものまで多様なジャンルの原作が映像化されていて、どれもかなりのクオリティだ。

今回とりあげる『地獄が呼んでいる』もウェブトゥーンが原作(原作タイトルは『地獄』)で、ヨン・サンホとチェ・ギュソクがクレジットされている。

『地獄が呼んでいる』のシーズン1は全6話構成で、1部と2部に分かれている。1部は「お前は地獄に堕ちる」と謎の物体により告知された人間が、告知通りに殺害されてしまう事件が発生する。

被害者は突如出現するギリギリでゴリラのような生き物に囲まれ、ボコボコにされ、最終的には焼却される。ギリのギリでゴリラのような生き物は仕事を終えると、なんと空間転移をしてどこかへ帰っていく。

突如現れるゴリラに近似した化け物が人を激しく殴打し囲んで償却するという怪事件を追う刑事と、新興宗教の教祖や狂信者たち、そして「告知」を受けた子どものシングルマザー、彼女に相談された弁護士など、様々な属性の人物が登場し、群像劇を繰り広げる。

第2部では、1部の「その後」を描いている。詳しくはネタバレになってしまうので避けるが、より「信仰」や「人の手で人を裁く」「神の意図の解釈」など、宗教的・人間的な内容に踏み込んでいく。

そしてギリギリで高性能なゴリラと判断できそうだが結局よくわからん生き物の衝撃、韓国社会のみならず、全世界対応の宗教や信仰、群集心理などに対しての問題提起など、漫画原作ながらも骨太なストーリーが『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホによって映像化されているのだから、面白くないわけがない。

ユ・アインとパク・ジョンミンのハイスキルな演技に注目

秀逸な物語だけではなく、役者陣のハイスキルな演技も見どころのひとつだろう。新興宗教団体「心理教会」の議長であるチョン・ジンスをユ・アインが務めている。彼は俳優業の他にもモデルとして活動していて、今風だか死語だか解らないが、一言で評するならば「シュッとしたイケメン」である。

だが本作のチョン・ジンスは、怪しさの中にも憂いを秘めた「もうめちゃくちゃ胡散臭いんだけど、妙にカリスマがある」新興宗教の長を余裕綽々で演じてみせる。善人なのか悪人なのかも判然とせず、感情も読めないカリスマだが、終盤の名シーンでは一転、人間らしい感情の高ぶりも見事に表出させる。

また第2部に登場するパク・ジョンミンもさすがのスキルだ。彼は韓国の助演男優賞をとりまくっているが、もうそろそろ助演だろうが関係なしに主演男優賞を授与してもいいのではないか。と思うのはさておき、今や韓国にとってマフィア映画のジョー・ペシみたいなものと査定して問題ない程には、なくてはならない安定の存在といえるだろう。

パクは『サバハ』では胡散臭い新興宗教関連の人物を演じていたが、今回はテレビ局のプロデューサーなので怪しくない。死を告知された我が子のために奮闘する。新興宗教側から真反対の立場への転身、そして掴みどころのない存在から一転して人間味のある人物へ軽々とシフトしてみせた。

パク・ジョンミンは第2部の主人公格だが、第一部では誰が起用されているかというと、『息もできない』で映画史上トップ3に入るほどの男泣きを魅せたヤン・イクチュンである。『息もできない』の頃は韓国版長渕剛(『とんぼ』あたりの)みたいな素晴らしきドチンピラ感があったが、本作はいかにも「韓国映画に出てくる刑事」といった出で立ちで、ともすれば地味になりそうな役柄ながらも、隠しきれない存在感を放っている。

正直、暫く鑑賞してから「あ、これ、ヤン・イクチュンでは…?」と気付くほどの変わりっぷりではあるが、劣化ではなく成熟だろう。古いクリシェだけれども「燻し銀」と言っても言い過ぎではない。本作でのヤン・イクチュン使いは「豪華」の一言であり、役者のための物語ではなく、物語のための物語を作り、有名だろうが無名だろうが適切に「人物を動かせる」のは「さすがヨン・サンホ」と思わず唸ってしまう。引き際があっさりしているのも良い。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』のヨン・サンホによる見事な映像化

ヨン・サンホは『新感染 ファイナル・エクスプレス』で、未だジャンルとして浸透していない(韓国で)ゾンビ映画を撮り、ちょっとしたブームを作り上げた。『地獄が呼んでいる』でもまた、よくわからんゴリラのようなものを登場させるという、ともすれば安っぽくなりがちなホラー表現を、実質的な重みすら感じてしまうほど見事に映像化している。

ときに『地獄が呼んでいる』も素晴らしいが、本コラムが掲載される頃には彼が原作・脚本を務めた『呪呪呪/死者をあやつるもの』が公開されているはずだ。こちらはドラマ『謗法~運命を変える方法~』の後日談的な位置づけだが、ドラマを知らなくてもチキチキ異能バトル韓国版呪術廻戦として楽しめるので、ヨン・サンホのペンの方はぜひご覧いただきたい。

また、『呪呪呪/死者をあやつるもの』には、『地獄が呼んでいる』で培われた技術や演出を使用しているシーンも多々あるので、『地獄が呼んでいる』を鑑賞してから行けば「ああ、すごくヨン・サンホっぽくて最高」と別角度からの感動を味わえるはずだ。両作ともおすすめでございます。(text:加藤広大/ライター)

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