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ココナラ会長の南章行・横石崇対談。フリーランスも会社の熱量に集まる時代へ。これからの企業と個人の関係

  • 2023.2.16
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ココナラ会長の南章行・横石崇対談。フリーランスも会社の熱量に集まる時代へ。これからの企業と個人の関係

「THE MATCH」は、世間を賑わせるビジネスやお金にまつわる話題をテーマに毎回ゲストインタビュアーをお招きし、対談形式(対決形式)で語り合うコーナーです。

第3回となる今回は、株式会社ココナラで取締役会長を務める南章行氏と、働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」を10年にわたってオーガナイズし、2022年に閉幕させた&Co.代表取締役の横石崇氏による対談をお送りします。

「クリエイターエコノミー」や「ジョブ型雇用」などの言葉がフォーカスされ、個人のスキルに焦点が当たることが増えている昨今。この流れが加速していくと、人々の働き方はどのように変化していくのでしょうか。二人の対話を通じて、これからの企業と個人の関係の在り方について考えます。

この10年で起きた“働き方”の地殻変動

━━横石さんは2013年に「Tokyo Work Design Week」を立ち上げ、南さんはココナラを2012年に創業しています。二人とも約10年にわたって“働き方”をテーマに活動をしているわけですが、この期間の変化について最初にお聞きしたいと思います。

南さん:前提の話になってしまうのですが、横石さんはどうして「Tokyo Work Design Week」を始めたんですか?

横石さん:広告の会社で働いていたときに東日本大震災があって、ボランティアとして東北に行ったんですよ。

南さん:東北のどちらへ?

横石さん:岩手県の陸前高田市です。震災が起こった年のゴールデンウィークを利用して。そのときは炊き出しのボランティアをしたのですが、あるとき町の顔役に呼ばれて「もうここには来なくていいよ」って言われたんです。何かやらかしたのかなと焦ったところ、「ここはもう大丈夫。それよりも子どもたちの未来が心配だから、ここじゃなくてもできることをやってほしい」と。

それで考えた末に“働き方のフジロックフェスティバル”みたいなものをつくれないかと思って始めたのが「Tokyo Work Design Week」でした。音楽フェスって普段は聴かないようなジャンルの音楽も聴けるじゃないですか。そうやって多様な働き方を知るきっかけをつくれたらいいなって。

2人は偶然にも震災直後の陸前高田を訪れていた

南さん:実は僕も、震災がきっかけでココナラを起業しているんですよ。しかも、ゴールデンウィークに陸前高田と気仙沼に足を運んでいて。

横石さん:えーっ! 一緒じゃないですか。

南さん:現地で泥かきをすると、生活用品とか、人が生きていた証がいろいろ出てきますよね。そうやって多くの人が亡くなった事実に触れたことで、今の自分は生かされてるんだということを実感し、それならば「自分にしかできないことをやろう」と起業を決意したんです。

横石さん:現場に行ったからこそ感じ取れることがたくさんありましたよね。

南さん:僕は震災の少し前から働き方に着目していたのですが、それにしても10年前は副業なんてまったく考えられませんでした。本業以外でお金がもらえる仕事ができるなんて、社会的に受け入れられないと思ってましたし。

横石さん:今では考えられないですよね。

南さん:しかも、本業で身につけたスキルって誰も褒めてくれないんですよね。会社の中だと当たり前になりすぎてしまうので。

僕自身、企業買収ファンドにいたときは「君はどうしてロジカルシンキングができないのかな」と常に指摘されていたんです。でも、会社をやめて外へ出た瞬間に「なんでそんなにロジカルに整理しようとすんの? 左脳だけで語るのやめてくれない?」と文句を言われて(笑)。

横石さん:どっちやねん、っていう(笑)。

南さん:本人は大したことないと思っていても、実はすごく磨かれたスキルになっていたりするんですよね。しかも、誰かの役に立つという。だから、あなたを求めている場はいくらでもあるんだよってことを知ってほしい。

横石さん:僕は美術大学出身なんですが、絵がうまい人たちに囲まれていたので自分はなんて才能がないんだと落ち込むことがありました。

美大時代の想い出を振り返る横石さん

南さん:美大のような場所にいくと、自分よりすごい人って大勢いますよね。それで多くの人は諦めていくわけじゃないですか。

横石さん:そうなんですよ。僕も自分のことをどこかでアマチュアだと思っていて。それは素晴らしい才能を持っている人を知っているからなんですが。でも、そんな自分のことを認めてくれて、しかも期待してくれる人がいるというのは圧倒的な充足感につながりますよね。

個の時代を絶望の時代にしないために

━━近年は「クリエイターエコノミー」のような言葉を耳にする機会も増えました。そういう意味では、個人が働きやすい環境になりつつあるのでしょうか?

南さん:環境は大きく変化したと思います。ただ、好転しているかというと判断が難しいですね。メリットもデメリットもあるので。

横石さん:この10年で「組織から個へ」という大きい流れがあったとしたら、自由による代償も生まれましたよね。

南さん:そう。自由である一方、責任もセットでついてくるというか。

昭和の時代は、就職したら定年まで同じ会社にいるのが当たり前でした。でも今は、会社が最後まで面倒を見てくれない。定年までは運良くなんとかなるとしても、老後の面倒は見てくれないわけですよ。

つまり、「自分で稼ぎなさい」という個へのプレッシャーがある。それなのに、ほとんどの人は個人で生き抜く術を知らない状態だと思うんです。

横石さん:先日、セルフブランディングをテーマにしたワークショップを開催したんですが、「自分のキャリアを象徴するハッシュタグを書いてください」とお願いすると何人かは「#会社員」みたいになるんです。

南さん:なるほど……。

「自由には責任とプレッシャーがある」と南さん

横石さん:「自分には得意なことはないから」って感じなんですけど、僕はそんなふうに諦める必要はないと思っていて。東日本大震災のときのように、直感で動いてみて跳ね返ってきた先に、「そういえばこれって人の役に立つな」というものが見えてくるかもしれないじゃないですか。頭で考えるよりも、手や足で考えたほうが早いと思うんです。

南さん:多くの人は、教えてもらい、学び、できるようになってからアクションを起こそうとするんですけど、実はそれでは永久に自分からアクションできるようにならないんですよね。だから、まずは動く。これがいちばん大事ですよね。

横石さん:一歩踏み出したいと考える人にとって、ココナラのようなプラットフォームが重要な役割を果たすと思うのですが、南さんはどう考えていますか?

南さん:おっしゃる通り、ココナラはあらゆる人が時間・場所・環境などの制約から解放され、スキルを媒介に活躍できる機会を提供したくて幅広いカテゴリを扱い、かつオンライン取引のみにすることで多くの人が一歩踏み出せるようにサービスを設計しました

今思い出した話なんですが、創業して間もない頃、デザインスクールや美大出身のユーザーからフィードバックをもらうことがけっこうあったんです。

なかには「絵が大好きだったのにまったく関係ない仕事に就きました。でも、ココナラと出会い、何か描いてみようかなと思って挑戦してみたら、自分の絵が売れました。今では本業と変わらないくらいの収入を得ています」みたいなコメントもあって。これには涙が出ました。

絵の話になり思わず、笑みが溢れる横石さん

横石さん:今までのクリエイターの生き方って、たとえば漫画家だったら出版社の扉を開いて編集者に気に入られたり、コンテストに応募しないと世の中に出られなかったりするような、ものすごく狭い市場だったじゃないですか。そこに南さんが良い意味でのアマチュアリズムというか、プロではないアマチュアのスキルでも世の中の役に立つという価値提供を実現した。これはすごいことだと思います。

南さん:先ほども話したように、個の時代ってただワクワクするものではなく、放っておくと絶望の時代になると思うんですよ。新しい社会インフラとして、シェアリングエコノミー的なものをシステムとして組み込まないかぎり、個人は生きていけなくなる。そうすると日本はどんどん住みにくい国になってしまう、そういう危機感があります。

横石さん:同感です。どうやら国は助けてくれないし、メディアは「働き方改革」という言葉だけを切り出して騒いで終わるし、役者は揃っているのにいつまで経っても前進していかない。そんなジレンマがありました。副業も在宅勤務も夢のような話として受け止められていましたよね。みんなで動かないといつまでも変わらないぞと。ただ、コロナ禍で状況は一変します。

南さん:間違いなくコロナが何年か時間を早めた気がします。会社の枠組みから外れることが当たり前になり、オフィスに行かなくても仕事ができると多くの日本人が気づいた。これはものすごい変化。

コロナ禍で芽生えた「働き方」への意識の変化を語る南さん

フリーランスも会社の熱量に集まる時代へ

横石さん:物事が変わるのって「基盤」「制度」「感情」の3つが揃ったときだと思うんです。

僕の見立てでは、基盤と制度は揃っていたけれど、企業の上層部が抱える「いやいや、みんなで集まらないと仕事が進まないでしょう」という感情が変化を阻害していたのかなと。

ただ、コロナ禍でそうも言ってられなくなり、思わぬ形で3つが揃ったのが、ここ数年の話でした。では、これからの働き方はどうなるのか。南さんはどう考えていますか?

南さん:これから先、労働者人口は確実に減っていくので、どんどん売り手市場になっていきますよね。そうなると、個人の希望に企業が合わせていくようになるので、働き手はスキルさえあれば選択はそこまで難しくなくなります。週3勤務で残りは副業の時間に充てるというモデルケースも増えていくのではないでしょうか。

この10年における労働市場の変化とこれからについて、南さんと横石さんの話は尽きなかった

━━ココナラで2023年1月からITフリーランス向け業務委託案件の紹介サービス「ココナラエージェント」を始めましたよね。それは今言われたような背景があるからですか?

南さん:サービス開始の理由は、ニーズの話と僕らの戦略の話の両方があります。これから先、特定の能力を持つクリエイターを必要に応じて業務委託で採用して、プロジェクト単位で働いていくことが大企業でも本格化していくと思うんですね。そうなると、クリエイターを派遣するビジネスを展開する流れは社会的に必然じゃないですか。

横石さん:そうですね。

南さん:戦略的な話だと、リアルで会わずにオンラインで完結するマーケットをココナラは一足飛びで切り拓いてきたわけですが、それが根付いているかと言われたら全然そんなことないし、むしろDXすらままならない会社が日本にはたくさんある。そういう企業にもココナラのサービスを利用してほしいと考えました。

エージェントサービスを活用していただくことで、僕らが企業とクリエイターの間に入ってコミュニケーションを取り、外と内をつなぐ。そうすることで、チームでプロジェクトを円滑に動かしていけると信じています。

2022年で10周年を迎えたココナラ

━━ココナラの手がけるエージェントサービスが、ほかと異なる点はどこにあるのでしょうか?

南さん:2012年からスタートしたココナラは、すでに40万人以上のスキル人材が登録しています。高度なスキルを保持する人材も多く、企業との最適なマッチングが期待される点がひとつ。あとはココナラエージェントが大きくなっていく過程でどう変化していくかはわかりませんが、今のところ集まっている求人はスタートアップが中心なんですよ。スタートアップは基本的にチャレンジ精神に満ちていて、ミッションも明確。だから面白いプロジェクトが集まるんじゃないかなと考えています。

あるスタートアップは、ロゴを筆頭に、資金調達の相談や会社設立の登記、マーケティングもココナラを活用しています。そういうスタートアップの社長にココナラエージェントを紹介すると、すごく反応がいいんですよ。

横石さん:エージェントサービスは、南さんがミッションドリブンで会社を興したこととも親和性が高いように感じます。それにクリエイターにとっても、企業が目指す方向を「パーパス」や「ミッション」を通して理解したうえで仕事をしたほうが良いものも生まれやすいと思うんですよ。

求人票って、こういう仕事内容で、報酬はいくらでという条件が先にあるじゃないですか。でも、それは一方で「これは自分が関わらなくてもいい仕事なんじゃないか?」という疑念につながることもあると思うんです。

南さん:これからは、成し遂げたいことが明確にあるプロジェクトのほうが、人も集まりやすくなると思います。これだけ売り手市場になると、特にスキルがある人は、お金を稼ぐことが当たり前すぎて、気持ちが乗らないものはやりたくないと言えてしまう時代なので。

「売り手市場の世の中では、お金より気持ちが優先になる」と語る南さんと横石さん

横石さん:僕は、渋谷区で「Shibuya Startup University」というスタートアップ大学に携わっているのですが、世の中を変える素晴らしいアイデアや構想はあっても一人で実現するには限界があったり、なにをやるにしても手が足りない生徒がほとんどです。そういう人たちにとって、ココナラは良いパートナーを見つける選択肢のひとつになるんだろうなと思います。

南さん:そうなってくれたら嬉しいです。あらゆる形で必要なものを供給する触媒となり、みんなが自分らしく生きられる社会を築いていきたいので。

南 章行(みなみ・あきゆき)

慶応義塾大学卒、英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)修了。住友銀行(現三井住友銀行)でアナリスト業務を経験した後、アドバンテッジパートナーズにて約7年で5件の企業を担当。その傍ら、NPO法人ブラストビート、NPO法人二枚目の名刺の立ち上げに参画。2012年1月に自ら代表として株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立。一般社団法人シェアリングエコノミー協会理事。

横石 崇(よこいし・たかし)

多摩美術大学卒。2016年に&Co.を設立。ブランド開発や組織開発、社会変革を手がけるプロジェクトプロデューサー。アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」や渋谷区発の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、シェア型書店「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。法政大学兼任講師。著書に『これからの僕らの働き方』(早川書房)、『自己紹介2.0』(KADOKAWA)がある。

撮影/武石早苗
取材/村上広大
文/瀬口あやこ(アニィ)

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