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ベル・エポックの文化が凝縮したホテル、メゾン・プルースト。

  • 2023.2.16
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3年の工事を終えて扉を開いたメゾン・プルースト。オークションなどで集められたベル・エポック期の30点の絵画が壁を飾り、プルーストの世界へと誘われる。場所はショー会場としてもおなじみのCarreaudu Templeと通りを挟んで向かい側。客室から、その建物を見下ろすような位置にある。photos:Benjamin Rosenberg

作家マルセル・プルーストが亡くなったのは、1922年11月18日。昨年はその没後100周年ということで、彼にまつわる展覧会、演劇などが多く企画された。マレ地区に今年1月にオープンした5ツ星ホテル「Maison Proust(メゾン・プルースト)」は非公式オープンが昨年11月18日と、偶然にも彼の命日に重なったそうだ。パリにすでに「Hotel Souquet」「Hotel Athène」を所有するコレクション・メゾン・パルティキュリエールがオーナーのメゾン・プルーストは、ほかの2ホテル同様に室内建築はジャック・ガルシアに任された。プルーストの寝室に使われていたブルーを基調に、彼らしくこっくり深みのある色合いで重厚な雰囲気がホテル内に満ちている。23室とスイートルームというこぢんまりとしたホテルながら、地下にはスパと驚きの10m長さのプールが。

バーで飲むのはカクテル“ラ・マドレーヌ”!!

彼の代表作である全7巻の大作『失われた時を求めて』を読んでいる人も、読んでいない人もこのホテルの魅力をたっぷりと味わうことができるのは地上階だ。ホテル内は客室もパブリックスペースもベル・エポック期の絵画が飾られ、室内装飾も当時を彷彿させる素材でまとめられている。宿泊客以外にも開かれている地上階でも、プルーストが生きた時代にタイムスリップしたような気分にどっぷりと浸れるというわけだ。プルーストの時代をイメージして、各スペースをサロンと呼んでいる。通りに面したガラス張りのジャルダン・ディヴェールと呼ばれるサロンは、午前7時から営業。コンチネンタル、アメリカン、あるいはアラカルトの朝食でゆったりとした朝の時間をここで。壁を飾るポートレートは、かつてサロンを開いていた女性“サロニエール”たちだそうだ。中央にヒョウ柄のナポレオン3世期の家具を配した図書室は、天井を見上げるとガルニエ宮にいるかと錯覚してしまうサラマンダーの装飾だ。書棚には革装丁の本がぎっしり並び、プルーストの献辞が書かれた『スワン家のほうへ』、彼が書いた手紙を展示している。

左: 外光が降り注ぐジャルダン・ディヴェール。朝食はコンチネンタル(22ユーロ)、アメリカン(36ユーロ)、アラカルトから。テーブルに置かれたジャムが創業1852年の「Fouquet(フーケ)」というのも、ベル・エポックのブルジョワ感を醸し出している。右: 宿泊せずとも、ここでジャック・ガルシアによる室内装飾の魅力に浸れる。家具やディテールにも注目を。photos:(左)Mariko Omura、(右)Benjamin Rosenberg

マルセル・プルーストによる献辞が書かれた1913年初版の『スワン家のほうへ』などを展示する図書室。ゴールドの天井画はオペラ・ガルニエのロトンド・デュ・ソレイユにインスパイアされた。photos:Mariko Omura

ビロードのカーテンで図書室と仕切られたバーは赤と青でまとめられている。シャンデリアの灯りでどこか謎めくこの空間で味わえるのは、ノンアルコールも含め13種のカクテル。アルベルティーヌ、シャルリュス、ゲルマント公爵夫人といった『失われた時を求めて』の登場人物をテーマにしたオリジナルだ。フランス文学ファンはより心地よく酔えることだろう。さて、このバーのシグネチャーカクテルは「ラ・マドレーヌ」(17ユーロ)。彼の著作を読んでいない人でもプルーストといったらマドレーヌ、となるのはフランスでも同じらしい。

カクテル“ラ・マドレーヌ”(17ユーロ)。お味は飲んでのお楽しみ! photo:Benjamin Rosenberg

時間がゆっくりと流れていそうなバー空間。壁の絵画やカウンター後方のヴェネツィアン・ミラーの両サイドのカリアティド(人物柱)にも注目を。photos:Mariko Omura

ジャルダン・ディヴェールとバー、そしてルームサービスのためのメニュー「Les Petis Mets(レ・プティ・メ)」を開いてみよう。小皿を意味し、空腹を上品に満たしてくれる料理が並んでいる。スモークサーモン、トリュフ入りタラマとトースト、フォアグラ、ガスパチョ、ブッラータ……温かい料理としてはペンネが。フレンチチーズの盛り合わせなどもあるので、これとグラスワインでフランス滞在をより思い出深いものにするのもいいだろう。

レ・プティ・メから。トリュフ入りタラマとトーストは18ユーロ、ハンドカット・スモークサーモンとトーストは28ユーロ。photos:Benjamin Rosenberg

プルーストの世界に包まれて眠る。

ドゥ・リュクス(20㎡/600ユーロ)、ジュニアスイート(30㎡/850ユーロ)など客室は6カテゴリー。写真はエグゼクティブ・スイート「Marcel Proust」。photo:Benjamin Rosenberg

2~4階の3フロア12室は、プルーストの心に残ったセレブリティーにオマージュを捧げる内装だ。サラ・ベルナール、グレフュール伯爵夫人、ロベール・ドゥ・モンテスキュー……。ジャック・ガルシアは家具、壁の布の素材や色などにそれぞれの個性を再現するような素材をセレクションした。5階ではクロード・モネやポール・セザール・エリューといった印象派たち、6階では作家たちにオマージュを捧げる内装である。また最上階の7階はプルーストのアパルトマンとして繋げることができる3室。部屋のカテゴリーが複数あるだけでなく、各室のインテリアはまったく異なる。ホームページでは部屋のインスピレーション源となった人物についても詳しく紹介。プルーストファンはリピーターにならざるを得ないというホテルである。

左はドゥ・リュクス のアナ・ドゥ・ノアイユ、右は有名なオーストリア王妃シシーの姉でナポリ王妃アメリアというように部屋のインスピレーション主によって内装は異なる。photos:(左・中)Mariko Omura、(右)Benjamin Rosenberg

カーテンや壁布など多くはピエール フレィから、部屋名の人物に合わせて色やモチーフ、素材をガルシアはセレクションした。ランプの手書きは『失われた時を求めて』からの抜粋なので、各部屋ごとに内容が異なる。photos:(左・中)Benjamin Rosenberg、(右)Mariko Omura

かつてホテルだったという建物と隣の建物を繋ぎ合わせ、3年がかりの工事で完成されたメゾン・プルースト。その室内装飾にはフランスの20種近いサヴォワールフェールが活用されたそうだ。たとえば、ビロードのカーテンの奥の小さなフロントの半円型の壁はペイントを施したガラスで覆われている。ベル・エポックにパリの個人邸宅でもてはやされた装飾だ。ここではパラダイスをテーマに鳥たちが自然の中を舞う光景が描かれ、ゲストを迎える。また地上階のジャルダン・ディヴェールの壁を覆うのは、パリの邸宅で19世紀によく見かけられたモチーフが浮き彫りされた革の装飾。最近再び脚光を浴びているフランスの職人仕事にも出合えるホテルなのだ。

ペイントが施されたガラスの壁に囲まれたフロントデスク。メゾン・プルーストのオリジナルパフュームキャンドル(ジャスミン、バラ、タバコ)がベル・エポックを薫らせている。photos:Mariko Omura

地下1階はスパ、そしてプールとハマムを備えた“サロン・ドー”で構成されている。ここは一転してオリエンタルの世界。これはプルーストが子ども時代に暮らした叔母レオニーの家には、将軍の夫が仕事先から持ち帰ったオリエンタルなオブジェが飾られていた、ということにインスパイアされた内装だそうだ。黒と白の不均一なタイルが空間を埋め尽くしている。宿泊客はサロン・ドーを1日1時間貸切ができる。プルーストというとリッツ・パリのティーサロンが有名だが、メゾン・プルーストはホテル丸ごとがマルセル・プルーストの世界。新たなパリ体験を!

一転してオリエンタルな雰囲気のサロン・ドー(10mのプールとハマム)。宿泊者は1時間の貸切ができる。photo:Benjamin Rosenberg

Maison Proust26, rue de Picardie75003 ParisTel 01 86 54 55 55 https://www.maison-proust.com@maisonproustofficial

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