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浮かぶ「花王のひとひら」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.70

  • 2023.2.16
出典 andpremium.jp

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

出典 andpremium.jp

浮かぶ「花王のひとひら」。

梅なら北野天満宮、桜なら醍醐寺や仁和寺、沙羅双樹なら東林院、紫陽花なら三室戸寺と花の名所を数えればきりのない京都。では牡丹はといえば、迷うことなく乙訓寺(おとくにでら)の名が挙がる。奈良・長谷寺の末寺として聖徳太子が開いたとされる古刹。その境内には長谷寺に由来する2000株もの牡丹が植えられ、4月の末から5月にかけて色とりどりに咲き誇る。和傘や簾に守られ咲く姿は、華やかさもひときわだ。
かつて唐では花王とも呼ばれた牡丹。風格漂う 花そのものではなく、はらりと落ちた花びらを水 に浮かべた『みたて』のあしらいは、藤原道綱母による「蜻蛉日記」の一節から思い描いた。「まづ僧坊に下りゐて見出だしたれば、前に籬(ませ)ゆひわたして、またなにとも知らぬ草ども繁きなかに、牡丹草ども、いとなさけなげにて花散りはてて立てるを見るにも、散るかつはとよ、といふことをかへしおぼえつつ、いとかなし」。訳せば、寺の僧坊に座り見渡せば、低い垣根に名前も知らない 草がしげる中に牡丹が花びらの散った情けない姿 で立っている。その姿を見るにつけ「花も一時」の歌を繰り返し思い浮かべては寂しくなる、というもの。移ろう姿から、逆に華やかに咲き誇る様を思わせる仕掛けとなっている。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2021年6月号より。

花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

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