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食事放談 はるかの部屋 Theme#10 鍋奉行のすゝめ。

  • 2023.2.16

冬のお手軽料理の定番、鍋。
されど、“ミスター鍋奉行”マッキー牧元さんに言わせればおいしく食べるためのコツはさまざま。名店の技を盗みながら、良い鍋裁きを。

鍋の満足度は、その内容プラス誰と囲むかで決まりますね。

年中無休で食を探求し続けるライターの小石原はるかさんが、グルメなゲストを迎えて対談。〝タベアルキスト〟として食情報を発信するマッキー牧元さんとともに語るテーマは、鍋だ。

小石原はるか(以下、小石原) 鍋がおいしい季節ですね。簡単そうに見えて実は奥が深いジャンルだというのは、牧元さんの著書『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)を読んでもよくわかります。良い具材をそろえてくれているお店でも、自分で上手に仕上げるのがなかなか難しくて、果たしてそのポテンシャルを100%享受できているかどうか……。牧元さんのように鍋を熟知している方が鍋奉行だと心強いのですが。

マッキー牧元(以下、牧元) まずお伝えしたいのは、鍋奉行というのは鍋をおいしく作ることだけでなく、場を和ませるのが一番の仕事なのです。その上で、大事なのは火加減。沸騰させないで70~80度でゆっくり火を通せばいい。その方が旨味の流出が少ないので。

小石原 特に寄せ鍋が難易度高いですね。

牧元 一気に全部の具材を入れがちですが、それはダメ。低い温度から煮るのか、沸く寸前に入れるのか、食材それぞれの性質に合わせる必要があります。寄せ鍋をうまく作ろうとすると、料理の基本が学べますよ。

小石原 鍋に全ての材料を盛り合わせて煮込むイメージですが、それにとらわれなくてよいのですね。

牧元 いかにも。鍋に具材がセットされていたら、一旦すべて取り出してから始めるくらいです。

小石原 さすが! ところで、牧元さんが一番好きな鍋料理はなんですか?

牧元 我が家で一番多いのは豚しゃぶです。具材は、肩ロース肉もしくはロース肉とバラ肉、細長く刻んだネギ、豆腐、以上。これは四谷の〈三櫂屋〉で出会ったおいしさです。

小石原 削ぎ落とされたシンプルさ、気になります。お店では貴重ですね。

三櫂屋

名物の豚しゃぶを中心に、刺身や珍味などのおつまみも豊富で、居酒屋のように楽しめる店。川越産の豚肩ロース、2種の湯葉それぞれの味わいが染み出した鍋に、たっぷりのネギを加えるのがこの店のスタイルだ。
住所:東京都新宿区舟町4 北村ビル2F

牧元 僕はもう家でおいしいしゃぶしゃぶが作れるようになりましたが、手間の多い鍋は外で食べるのがいい。たとえばすき焼き。〈人形町今半〉の鍋は半年使いこんでからデビューさせるほどで、〝炊くように焼く〟あの技術を習得するのも大変です。水炊きなど、とろとろしたスープは家では時間がかかるし、お店ごとの流儀を知るのも楽しい。

人形町今半 人形町本店

肉質の柔らかい黒毛和牛の雌牛を熟成させ、さらに風味豊かに仕上げて提供。特製の割下で堪能した後は、牧元さんも絶賛する「ふわたまご飯」で〆る。肉も野菜も卵も、炊き加減は鍛錬した店員さんにお任せして。
住所:東京都中央区日本橋人形町2-9-12

小石原 ふぐは食べたいけれど、お値段がどうしても張りますね。そんな中、〈ふぐ倶楽部 miyawaki〉は養殖ふぐではありますがカジュアルにふぐデビューできます。コースで9900円!

ふぐ倶楽部 miyawaki

“日本で一番敷居の低い本気のふぐ屋”とうたうこの店では、丁寧に育てられた養殖ものを使うことで価格を抑えめに。あご、くちばし、かまなどさまざまな部位を扱うてっちり鍋のほか、唐揚げや焼きふぐも。
住所:東京都中央区銀座1-22-12 右側 昭和2年ビル

牧元 そちらは知りませんでした。最近は予約が取れなくなってきたけど、僕は〈ふぐ 牧野〉が一番好き。カウンターがあって、一人でも行けます。実は、ふぐ鍋って鍋奉行の力量が試されるんですよ。部位によって加熱時間が違うので、それを均等に炊けるようにするのがキモ。

ふぐ 牧野

てっさや焼きふぐなどのふぐ料理と並んで人気なのが「かに大根鍋」。あっさりとした毛ガニとそのだしにバターの塊をのせ、コクを足したスープが大根に染みている。今年は改修工事で休業予定にて、2024年以降のお楽しみに。
住所:東京都台東区松が谷3-8-1

場の盛り上がりと火加減に 常に気を配るのが鍋奉行なのです。

小石原 基本は骨付きの部位から入れていくのがいいんですよね?

牧元 そう。そして野菜はふぐの後に入れます。が、僕はほとんど入れません。水炊きでもなんでもそうですが、特に生野菜は煮ているうちに水分がどんどん出てきて、スープの味が薄まってしまいますから。そうすると最後の締めにも影響が。下茹でした白菜や、塩水につけて乾煎りしたエノキなんかはOKですよ。

小石原 では、心を鬼にして野菜は残す、と(笑)。ほかの人が決めたお店に行く場合もあると思いますが、その時は?

牧元 お願いだから入れないで、と頼みます。ははは。

小石原 牧元さんのお人柄だからこそ、鍋奉行をお願いしたくなるんですよね。

牧元 ふぐだけの旨みで作るスープがおいしいんですよ。僕の会の雑炊は5段階で食べてもらいます。まずご飯に鍋つゆをかけた、お茶漬け風。次に鍋つゆにご飯を入れて軽く煮込み、刻み柚子で香りをつける。3回目は卵で閉じて、4回目はつゆとご飯を煮詰めておじや。最後に、煮詰まったものをご飯にかけます。そうすると、ご飯にスープが吸われていく変化が味わえる。これをいつもやるのですが、みんな目を丸くして「こんなにおいしいものがあったのか!」と言うんですよ。

小石原 たしかに、それでは野菜まで手が回らないかもしれない(笑)。

牧元 あるお店が雑炊を3回くらいに分けて出してくれるのですが、それをアレンジして行きつきました。

小石原 なるほど。名店に学べ、ですね。牧元さんのお眼鏡にかない、かつHanako世代におすすめの鍋はありますか?

牧元 水炊きなら〈げんかい食堂〉。ランチもやっていて、安くておいしいです。

鶏の旨みを凝縮したとろりと濃厚な白湯を体験。 本店〈水たき玄海〉と同じ福島産伊達鶏の白湯(パイタン)スープを手頃に。柔らかいハーブ鶏のもも肉と、軟骨・もも・胸肉で作る肉団子入り。スープには蒸しニンニクやネギを入れ、肉には自家製ポン酢をつけて。「親子丼と水たき鍋のセット」(ランチのみ)は3,000円。
本店〈水たき玄海〉と同じ福島産伊達鶏の白湯(パイタン)スープを手頃に。柔らかいハーブ鶏のもも肉と、軟骨・もも・胸肉で作る肉団子入り。スープには蒸しニンニクやネギを入れ、肉には自家製ポン酢をつけて。「親子丼と水たき鍋のセット」(ランチのみ)は3,000円。

住所:東京都新宿区新宿5-5-1 TEL:03-3356-0036
営業時間:11:00~15:00(最終入店14:20)、土日祝~15:30(最終入店14:50)、17:00~21:00(最終入店19:00)※夜営業は平日のみ
定休日:月 席数:44席

小石原 〈ねぎま〉のねぎま鍋は?

牧元 すごくいいですよね。ねぎま鍋は、脂が少し抜けたしなやかな中トロを、黒胡椒で食べるのが魅力。

江戸前料理の入り口に、すっきりとした香りの一杯。 冷蔵技術が乏しかった江戸で生まれた庶民の鍋が、現在では高級品に。が、ここではリーズナブル。具材は、刺身のように分厚い大トロ、筒切りの白ネギ、せり。酒をたっぷり使った極上鰹節のだしにマグロの脂が染み出し、思わず飲み干したくなる。一粒ずつ潰した黒胡椒をかけて。女将自慢の料理を交えたねぎま鍋・燻製盛り合わせ付きコース5,940円が人気。
冷蔵技術が乏しかった江戸で生まれた庶民の鍋が、現在では高級品に。が、ここではリーズナブル。具材は、刺身のように分厚い大トロ、筒切りの白ネギ、せり。酒をたっぷり使った極上鰹節のだしにマグロの脂が染み出し、思わず飲み干したくなる。一粒ずつ潰した黒胡椒をかけて。女将自慢の料理を交えたねぎま鍋・燻製盛り合わせ付きコース5,940円が人気。

住所:東京都豊島区北大塚2-31-19 B1 TEL:080-8739-8566
営業時間:18:00~22:00LO 定休日:日、月、祝 席数:14席

小石原 黒胡椒はマストですね。この2軒はお店の方が鍋を作ってくれますが、自分で仕上げるスタイルのお店なら腕が磨けそうですね。

牧元 自主トレ、大事です。訓練した結果が、今の僕なんですよ。

小石原 鍋奉行のテクニックで、すぐに真似できそうなことはありますか?

牧元 鍋のフチがフツフツとしているのをキープするのが鍋奉行の役割。最初にお話しした、火加減のことですね。

小石原 なるほど。アクをどの程度取ったらいいのかも悩みます。

牧元 そんなに綺麗に取らなくても、7〜8割なくなれば大丈夫。おたまの背で集めるといいですよ。エビやカニでアクが出るのは、加熱のしすぎです。

小石原 やはり火加減大事!ですね。余熱で火が通るのはわかっているのに、ついグラグラさせたくなっちゃうんです…。

牧元 作るのは鍋奉行に任せて、〝待ち娘〟に徹するのもいいですよ!

小石原 本当にうまいことおっしゃる!

小石原はるか Host

こいしはら・はるか/うどん、焼きそば、肉と、好きなものにはとことんハマる“偏愛系”ライター。『東京最高のレストラン』(ぴあ)には毎年寄稿。最新刊は『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)。

まっきー・まきもと/食ジャーナリスト。〈味の手帖〉取締役編集顧問。“タベアルキスト”と名乗り、年間700軒ほどで外食。さまざまなメディアで発信している。『超一流のサッポロ一番の作り方』(ぴあ)など著書多数。

photo : Kaori Ouchi text : Kahoko Nishimura

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