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認知症になって性格が良くなった人が大勢いる…和田秀樹が「認知症ほど誤解の多い病はない」と断言するワケ

  • 2023.2.12
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認知症になったら何もできなくなる、そう思っていないだろうか。精神科医として30年以上高齢者医療に携わっている和田秀樹さんは「よく知られている病気でありながら、認知症ほど誤解されている病はない。周囲の“ボケたのだからやめさせよう”という発想ほど、認知症の進行を早めてしまう」という――。

※本稿は、和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

新鮮な緑とシニア
※写真はイメージです
認知症に対する「誤解」

認知症になると「何もかもできなくなる」と思っていないでしょうか。

認知症は、「何もかもできなくなる」病気ではなく、少なくとも初期は一言でいうと「記憶できなくなる」病気です。初期は「記憶の入力」が難しくなり、症状が進むにつれて「長期記憶」が失われていく病気です。

つまり、初期は、新しいことを覚えられなくなり、中期以降は、これまで覚えていたことを忘れていくのです。

一方、記憶力は衰えても、初期、中期の前半あたりまでは、「知能」は正常に保たれています。この場合の「知能」とは、判断力や思考力という意味です。

そのため、「認知症」と診断されてからも、普通に暮らしていける人が少なくありません。実際、認知症患者さんには、一人暮らしを続けている人が大勢います。手慣れた家事をこなしたり、テレビやパソコンなどの機械も使い慣れたものであれば、使い続けられます。本や雑誌を読んだり、俳句をつくったりすることもできます。

挨拶や世間話もできますし、孫のお守りをさせると、認知症と診断されたおばあちゃんがいちばん上手ということもあります。

認知症で人間関係が改善した人も

なかには、人間関係が以前よりも好転するというケースもあります。じっさい、認知症を発症してから、「性格がよくなった」といわれる人が大勢います。

たとえば、社会的地位が高く、健康な頃はいばりちらしていた人が、認知症になると、性格が穏やかになるケースがあるのです。腰が低くなって愛想もよくなり、近所の人から「最近、ご主人、気さくに声をかけてくださるのですよ」などと、奥さんがいわれたりします。

仕事も、新しい仕事を始めるのは難しくなりますが、慣れた仕事であれば、十分続けることができます。

認知症発症後も仕事を続ける各国の大統領

とくに、仕事の手順などに関する「手続き記憶」は、「意味記憶」(言葉やものの名前など)に比べると忘れにくいので、長年続けてきた手仕事などは、症状が相当進んでからでも続けられます。

なかには、「重職」を続けた人たちもいます。

ご存じの方も多いと思いますが、米国のレーガン元大統領は、退任後、認知症であることを公表しました。退任から4年後の1993年、82歳のときにアルツハイマー型認知症と診断され、翌94年、国民に対してそのことを発表したのです。

サンディエゴ郡管理ビルでの選挙集会で演説するロナルド・レーガン大統領
※写真はイメージです

周囲の話によると、大統領を2期8年務めた1期目の3年目あたりには、すでに認知症の症状が出ていたといわれます。実際その後も進行はゆるやかで、発症後10年ほど生きて天寿を全うしました。

また、英国のサッチャー元首相も、退任後、認知症であることを公表しました。こちらも、時系列からして、在任中に発症していたとみられます。

つまり、米英両国のかつてのリーダーは、ともに在任中に認知症を発症していたとみられるのです。そして、記憶力には問題が生じていたでしょうが、知能(思考力・判断力)は残存していたので、その問題が表面化することなく、一国のリーダーという重職を務められたというわけです。

認知症は「なにもできなくなる」わけではない

認知症と診断されても、「人生終わり」と絶望する必要は、まったくありません。認知症と診断されてからでも、普通の生活を送っている人は、いくらでもいるのです。

困った症状は薬でおさえることができますし、介護保険を使って受けられるサービスも増えています。そうして、できることを「続ける」ことが、病気の進行をおさえ、「人生の質」を高めることにつながります。

家族など周囲も、認知症の患者さんから、「できること」を奪わないことです。経験でつちかった能力や技術は、認知症になっても、しっかり覚えていることが多いのです。認知症患者の脳と体に残る能力や技術を侮あなどることなく、できることを一日でも長く維持できるようにサポートしていきたいものです。

現代の医療でどこまで治療できるのか

残念ながら、今の医療水準では、認知症を根本的に治療することはできません。

ここで、あらためて、認知症の「定義」を確認しておきます。

医学用語辞典風にいうと、認知症とは「脳の損傷によって、それまで獲得された知的能力が低下した状態の総称」ということになります。

つまり、認知症は「状態の総称」であり、「病名」ではないのです。アルツハイマー病やレビー小体型認知症(これらは病名)などの100以上の病気によって、引き起こされる「症状」の総称が認知症なのです。

実際的に、臨床医が診察するときには、患者に「記憶障害」と「判断の障害」が認められ、「社会生活に支障」を来たしていると認められたときに、認知症と診断します。

日本の認知症チェックリストの質問に答える人間
※写真はイメージです

つまり、「認知機能」が低下し、生活に支障の出ている状態を認知症と診断します。

そうした困った「状態」は、アルツハイマー病などの病気を原因とする脳の「変性」によって引き起こされるのですが、今の医学ではそうした「変性」をもとに戻すことはできないのです。

専門的にいうと、脳の変性とは、「神経細胞が減ること」「大脳が萎縮すること」「神経伝達物質が減少すること」「神経細胞内に神経原線維変化が起きること」などを指します。

完治はできないが、発症を遅らせることはできる

これらの変性は、現代の医療では、薬を使って、多少遅らせることはできるものの、根本的に食い止めたり、もとの健常な状態に戻すことはできないのです。

そのため、認知症の完治は難しいのですが、進行を遅らせることはできます。

薬も多少は役に立ちますが、それ以上に大切なのは、「できることをやめないこと」です。とりわけ、初期の間は、それまでと変わらない生活を送ることが、認知症の進行に歯止めをかけます。中期以降も「できること」を続けることで、病気の進行が穏やかになります。

続けることこそ症状の進行を遅らせる特効薬

では、なぜ、できることを続けることで、症状の進行を遅らせられるのか――。

和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)
和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)

そのメカニズムは、今の医学では、理論的な説明は難しいのですが、多数の疫学的調査と臨床的経験から専門医の間では常識的になっていることです。

私自身は、その理由のひとつは、私たち人間がそもそも脳の機能の10%ほどしか使っていないことが関係しているとみています。認知症が進行しても、「できること」を続けていると、それまで使っていなかった健常な神経細胞が、失われた部分を補完するのではないかと思うのです。

つまり、できることを続けることが、脳の余力を引き出し、結果的に進行を遅らせるというわけです。

だから、認知症と診断されたとき、最も避けたいのは、「もうボケたのだから、◯◯をやめよう」、あるいは周囲の「やめさせよう」という発想です。

そうして、脳や体を使わなくなる(使わなくさせる)ことが、認知症の進行を早めてしまうのです。

和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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