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老舗シューメイカー〈チャーチ〉の再生、進化、そして変わらぬこと

  • 2023.2.12
アッパーに裏地を縫い合わせる工程、責任者のキャロルさん、ソールの縫い目にワックスを施す様子

守りたいのはイギリス伝統のクラフツマンシップ

皮革製品・靴製造業の中心地、ノーザンプトンで1873年に開業し、以来英国を代表する紳士靴を、昔とほとんど変わらぬ製法で作り続けている〈チャーチ〉。250以上に及ぶ工程のほとんどが熟練の職人による手作業で進められ、革の切り出しから数えると、1足の靴が完成するまでに約8週間を要する。

最盛期には3000軒以上も軒を連ねていた靴工場も、今では数えるほどになってしまった。そうした状況の中でも、〈チャーチ〉はクラフツマンシップの伝統を守りながら、なおも新しいもの作りに挑戦している。

チャーチ_1950年代の面影を残す外観
以前は別の工場が入っていたという。1950年代の面影を残す外観が印象的。

プラダ社が〈チャーチ〉を買い取ったのは、英国が誇る伝統工芸の技に強く惹かれたからだった。最初に着手したのは、クラシックなプレーントウのオックスフォードを、細身でエレガントに変身させること。トラディショナルなスタイルをベースに、工程や素材で妥協することなく、現代的なシェイプやデザインを取り込むことで、“ノーザンプトン・シューズ”に新たな息吹を吹き込んだ。

ブローグにトリプルソールを取り入れ、モンクストラップにダブルのバックルを施し、プレーントウにスタッズを打ち込むなど。あくまでも〈チャーチ〉の伝統を踏襲しながら、ラグジュアリーブランドのDNAを取り込む柔軟性が、まったく新しい世代の紳士靴を生み出しているのだ。

“守りたいのはイギリス伝統のクラフツマンシップであり、変えていきたいのは時代に合ったスタイル”というシューメーカーが、いちばん大切にしているのが、ブランドの財産ともいえる職人たち。親子3代にわたって工場に勤務している家族もいれば、勤続50年以上の女性もいる。

責任者のキャロルさん
ワックスがけの腕を買われて引き抜かれた、責任者のキャロルさん。

下描きもなくアッパー部分をミシンで縫っていく熟練の技、飾りスティッチを入れるために1902年製の機械を使いこなすスキル、サイズやスタイルナンバーをライニングに書き込む緻密な作業など、無駄なく工程は進んでいく。グッドイヤーウェルトに欠かせないコルクをソールに塗り込む工程も、仕上がりの風合いを左右するワックスがけも、そのすべてが人の手によるものだ。

最高級ラインのクラウン・コレクションに使うハンドスティッチ糸に至っては、綿糸に蜜蝋を塗り重ねて手作りされる。ノーザンプトンの他工場ではほとんど外注してしまう作業だが、専門の職人を擁する。質実剛健な靴の街にあって、伝統を継承しつつ進化を遂げるファクトリーの代表格となっている。

生後9ヵ月の仔牛の最高級タンレザー
スイスやドイツから、生後9ヵ月の仔牛の最高級タンレザーを輸入。
靴の型紙である「ナイフ」で、パーツを1枚ずつ革からくりぬく様子
靴の型紙である「ナイフ」で、パーツを1枚ずつ革からくりぬく。
アッパーに裏地を縫い合わせる工程
アッパーに裏地を縫い合わせる工程は、勤続27年のベテランが担当。
踵(かかと)部分を成形する、特別なマシン
蒸気を当てて革を延ばし、踵(かかと)部分を成形する、特別なマシン。
綿の枠を施すことで、本体から靴底を剥がして修理しやすくする
綿の枠を施すことで、本体から靴底を剥がして修理しやすくする。
コルクの柔軟性を活かし、グッドイヤーウェルトが足型を記憶する
コルクの柔軟性を活かし、グッドイヤーウェルトが足型を記憶する。
ソールの縫い目にワックスを施す様子
ソールの縫い目にワックスを施し、ハンドメイドらしい風合いを。
フィニッシングのクリームを塗る様子
フィニッシングのクリームを塗ることで、個性や表情が生まれる。
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