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初めての宿坊体験【後編】 朝のお勤めから写経まで、心が引き締まるプチ修行

  • 2015.11.20
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お寺の参拝者のための宿泊施設「宿坊」。宿坊に泊まると、写経や精進料理、朝のお勤めなど、普通の旅では味わえない特別な体験をすることができます。ことりっぷ編集部が、千葉県鴨川市にある日蓮宗のお寺、清澄寺で宿坊を初体験。後編では、写経や朝のお勤めといったプチ修行の様子を詳しくレポートします。

凛とした空気に背筋を伸ばす。荘厳かつ神秘的な朝のお勤め

多くの宿坊では、宿泊者は早朝に行なわれるお勤めに参加することができます。朝のお勤めとは、お坊さん達がお経を読みあげ、全国の檀信徒のご先祖様供養、また家内安全を祈念する儀式です。

築333年の大堂の中には知恵を授けるといわれる虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)が祀られています。6時きっかりに、太鼓の音が鳴り響き、大勢のお坊さん達が「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」の御題目を唱えながら大堂に入ってきました。

朝のお勤めはお坊さんの大切な日課であり、毎日欠かさず行なわれているもの。日々鍛えられているだけあって、太い声が腹の底までずしりと響きます。その声が美しく調和して、まるでひとつの音楽を奏でているようでした。

読経の最中に火打ち石で不浄を払い、厳かに仏壇が御開扉されます。厨子の奥に光に照らされた御本尊・虚空蔵菩薩の姿が浮かび上がります。途中、ご焼香をするために立ち上がり、お坊さんの案内で御宝前(仏様の前)まで歩きます。ご焼香のときは虚空蔵菩薩に最も近づくことができるので、その姿を目に焼き付けるチャンス。近づくと、その手には知恵の宝珠を持っているのがわかりました。

虚空蔵菩薩の御開扉が終わると、お坊さんの案内で渡り廊下を歩き、2つ目の部屋へ移動します。こちらは祖師堂といって、日蓮聖人(にちれんしょうにん)像が安置されています。ここでも同じようにお経を聞き、ご焼香を行ないます。

早起きして参加した甲斐あり、ありがたいお経が体にジワーっと染み入るような普段できない体験をすることができました。

野菜や豆類などで作られる精進料理は美味しくてヘルシー

精進料理を味わえるのも、宿坊ならではの体験です。多くの宿坊では、宿泊者のための夕食・朝食として、精進料理が出されます。精進料理とは、仏教の戒律に基づいて、肉や魚を使わず、野菜や豆類、海藻などをメインに調理されたもの。質素なイメージがありますが、今回宿泊した清澄寺の宿坊で頂いた精進料理はなかなかの豪華さです。

しっかりとした深みのある味付けなうえ、味や食感にバリエーションがあるので食べやすく、どんどんお箸が進みます。お肉を使っていなくても、品数が多いのでとても満足感があり、美味しく頂くことができました。

朝食ももちろん精進料理を頂きます。夕食に比べると品数は少ないですが、物足りないということはありません。早起きをして朝のお勤めに出た後なので、適度にお腹が空いていて、全てが美味しく感じられます。

正座して意識を集中。写経で精神を研ぎすます

清澄寺では、写経を体験することもできます。写経とは、心身を落ち着けて、経典を書き写す作業です。

「法華経というのは、1番目から28番目まであって、全部で69,384文字あります。どの写経も法華経の一部を抜粋したものですから、短いものよりも長くて大変なほうが徳が高いというわけではありません。」とは、清澄寺主事の齊藤英博さん。

「法華経の正式名称は『妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)』。南無というのはインドの言葉で『帰依する、命がけで信じる、実践する』。つまり、皆さんよく耳にする『南無妙法蓮華経』というのは、妙法蓮華経を信じるという意味になります。ですから、たったの7文字ですが、これを唱えたことで69,384文字を唱えたことと同じになるのです。」(齊藤さん)

今回私たちが挑戦したのは、中レベル、96文字の「寶塔偈(ほうとうげ)」。まずは手に塗香を塗ってお清めします。お手本に写経用紙をかぶせて上から筆ペンでなぞり書きするので、字に自信がなくてもスムーズに書くことができます。もちろん、自信のある人は直に書いてもかまわないそうですよ。

写経の間はやはり正座が基本。どうしても痛い時は足を崩しても構わないそうですが、その際には必ず手を休めるよう注意されます。お経は一文字一文字が仏様なので、だらけた格好のまま書くことは許されないのです。大事なお経に息がかからないように、口に紙をくわえます。

呼吸を整え、筆先に全神経を集中させます。写経の際には、ご先祖様の供養をしたり、自分の願いごとを託したりと、何かしらの想いを持って挑むといいそうです。書き上げた写経は納経塔に納められ、お坊さん達が祈念してくれます。

浄心行でリラックス。暗闇の中で心を落ち着けよう

お寺の修行というと、座禅をイメージする人が多いですが、日蓮宗に座禅はありません。座禅に近いものとしておすすめなのが「浄心行(じょうしんぎょう)」。浄心行とは、物事を行なう前に心を落ち着けるためのもの。正座をして両手をへその下で重ねる定印(じょういん)を結び、薄暗い部屋の中、目をつむって少しの時間、瞑想します。

「両足の間にお尻を入れるような状態で正座をすれば安定しますよ。」とお坊さんが教えてくれました。

「生活が乱れていたり心が落ち着かない時、そんな状態から一歩引いてリラックスすることが目標です。力んでいるものをほぐして柔らかくするためのものなので、長くやったり辛さを我慢すればいいという訳ではありません。リラックス法のひとつとして捉えて頂ければいいですよ。」(お坊さん)

背筋をピンと正して正座をし、手で印を結びます。目は薄目(半眼)くらいに開けておくといいそうです。深く息を吸って、吐いて、と何度も繰り返していくうちに、自然と心が休まっていくのを実感します。

いつの間にか部屋の灯りが消され、襖がそっと閉じられます。初めのうちは、「やっぱり足が痛いな。正座を崩してもいいかな?暗くてよくわからないけど、後ろでお坊さんに見られてるのかな?」なんて余計な事を考えてばかりでしたが、時間が経つにつれて雑念は消えていき、痛かったはずの足も気にならなくなっていきます。暗闇の中、聞こえてくるのは自分の呼吸の音だけ。

「いかがでしたか?」との声と同時に、パッと部屋の灯りがつきました。10分が経過したとのことでしたが、深く瞑想していたせいか、あっという間でした。頭を空にして体と心を整える方法として、日常生活でも取り入れることができそうです。

慌ただしい日常生活を忘れて、お坊さんたちの修行の一部を体験できる宿坊。静かに心を落ちつけて、自分自身を振り返る貴重な体験をすることができました。

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