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額やオブジェを重ねて、パリっぽいインテリアを創る。

  • 2023.2.11

色や装飾を巧みに取り込んだ空間づくりや、部屋の片隅や窓辺に置くオブジェにも愛らしいこだわりがある。そんなパリジェンヌたちの暮らしを彩るパリの日常に欠かせない素敵なものたちを紹介。それらが生まれる手仕事の工房を訪れるなど、ロマンティックな暮らしの背景にある、繊細で美しい物語を紐解いてみました。

クリエイティブスタジオ「サンラザール」共同創始者/クレマンティーヌ・ラルーメ

サロンの壁にはいくつもの額がリズミカルに配置され、棚にはオブジェが並ぶ。すべてが思い出を語りながら、クレマンティーヌの人となりを描き出す。

コンセプトストア・メルシーのロゴやパッケージをデザインして注目を浴びたクリエイティブスタジオ、サンラザール。その後も人気店メゾン・プリソンやセザンヌなど、パリの現在を発信するメゾンのブランディングを次々に手がけ、物語のあるパーソナルな空間を演出するホテルデザインでは右に出るもののない存在だ。共同創始者クレマンティーヌ・ラルーメのアパルトマンは、そんなサンラザールのエスプリがそのまま形になった空間。

「仕事上の出会いが私自身のライフスタイルに影響し、再びクリエイションに繋がります」と彼女は言う。それは、手仕事とクオリティを愛し、アーティストの感性を支持し、出自の違うオブジェを調和させる、いまのパリスタイルを反映したインテリアだ。

虹のようなグラデは『都市の肖像』コレクションの背表紙。小さな写真やカードもちりばめて。

額装された写真や古い文書。イラストの描かれたノートには、ヴァカンスの写真をクリップで留めて。

色とりどりの小さなパッケージをさりげなく紐でまとめれば、それがひとつのデザインに。

ブロカントや蚤の市で見つける古いグラフィックやパッケージは、自宅のインテリアにそのまま加わることもあれば、自身のイラストを加えて額装され、クライアントのホテルの寝室を飾るアートになることもある。ホテルや店舗のためにデザインした照明はオリジナル商品となり、自宅の暖炉の上にそっと置かれていたりする。彼女のクリエイションとプライベートは常にリンクし、絡み合いながら進化している。

サンラザールのペーパーバッグはメルシーでも人気のロングセラー。キッチンではゴミ箱、洗面所では洗濯カゴ、書斎やリビングではモノの整理にと、家中で活躍する。

クレマンティーヌが家族と暮らすアパルトマンは全7室。

「このアパルトマンは、19世紀にパリのノートルダム大聖堂の修復を手がけたウージェーヌ・ヴィオレ=ル=デュックによる建築で、彼のアトリエだった場所。3年前に仮住まいのつもりで引っ越したのだけれど、気に入って腰を落ち着けてしまいました」

レストラン放出のビストロテーブルに家族が集う。壁際の木製ボックスは、踏み台に、腰掛けにとさまざまに使えるサンラザールの製品。

道端で見つけた静物画がキッチンにしっくりなじむ。マリオン・グローとコラボレーションしたグリーンの水差しと穴開きの陶製ボウル、蚤の市で購入したガラスのカラフ。

18歳の娘が作る色とりどりのうつわは、アペロのお客さまへのサーブに活躍。

家族が集まるリビングは、南向きの大きなガラス窓から燦々と太陽が差し込む広々した空間。この空間を形容するには、まさにアキュミュラシオンという言葉がぴったりくる。それは、たくさんのオブジェが集まり重なり合うという意味。リビングに足を踏み入れると、白い大きな壁を埋め尽くす大小の額に目を奪われる。ぎっしりとLPレコードが詰まった腰の高さほどの棚には、一対の大きなランプの間に大小のオブジェがずらりと並び、レコードの下には大きさもさまざまなアート本とともに、単行本のコレクションも顔を見せる。実にたくさんのモノがありながら、圧迫感どころか、心地いいハーモニーを感じるリビングルーム。珍しいオブジェのコレクションを陳列した19世紀のキャビネ・ドゥ・キュリオジテ、その現代版とでも言えばいいだろうか。好きなものをただ集めるにとどまらず、モノが集まった様子に美を見いだし、展示することで、空間のパーソナリティを表現する。壁に掛かる額には、写真あり、イラストあり、押し花アートあり。祖母の水彩画、義理の姉が撮影した写真、姉妹の描いた絵や家族写真。アートフェアで気に入って購入した現代アートもあれば、仕事でコラボレーションしたアーティストたちのデッサンや写真もある。

子どもたちの作った陶器のオブジェも、ガラスケースに収納すれば、立派なオブジェ。

「私にとってインテリアはセノグラフィ(展示デザイン)。私自身の気分や気持ちを表現するものです。どの額も、どのオブジェも、いつ、誰と過ごした瞬間だったかを思い出させてくれる、個人的な想い入れのあるものばかり」

出版界出身で、書店で時間を過ごすのが大好きという彼女は、オブジェとしての書物への愛着もひとしお。内容はさておき、美しい装丁に魅せられて本を買ってしまうことも多い。たとえば、昔、研修先でごっそりもらった文庫本は、まとまった数の同じ装丁が揃うことから生まれるグラフィック性に惹かれて、そのままコレクションとして棚に並べている。同様に、サンラザールで出版するアーティストの都市別作品集『都市の肖像』も、まとめて並べた時の色のグラデーションが美意識をくすぐる。

「空っぽだと居心地が悪い。いつも自分の愛するたくさんのものたちに囲まれていたいんです」

寝室には、書き物机と並んで、お母さまが昔ブロカントで見つけて購入したというスクレテール(事務机)。ここにも実にたくさんの小物がちりばめられている。ホテルの内装のために製作した陶製ランプはサンラザール。壁の絵画は、顔を見せない女性像を描く画家、ギデオン・ルービンのもの。

ベッドの足元には、自社製品のベンチを置いてアクセントに。シンプルで機能的なデザインが、アートとヴィンテージに調和する。

古いものと、個性を発揮する現代デザインをミックスするのもクレマンティーヌ流。インディア・マダヴィのスツール、自社デザインの木製ベンチやヒット商品のペーパーバッグもあれば、アンティークの家具や照明もある。木製プレートの味わいに趣を感じるキッチンの食卓は、閉店したレストランが放出したビストロテーブル。マリオン・グローのカラフやデザイナーもののコーヒーカップ、掘り出し物の食器、娘が制作した色とりどりの陶器が溶け合って、温かな食卓を彩る。寝室にオークションで購入した現代アーティストの作品が掛かっているかと思えば、キッチンには道で拾った静物画がしっくりなじむ。そのどれもが仲良くまとまってひとつの世界を創り上げているのは、一貫した審美眼が存在するからにほかならない。

「シンプルで美しいフォルム。時にはディテールもポイントになる。素材なら、飾り気のない自然な素材感」

そう好きなものを自己分析した後、彼女はこう結んだ。

「そして、時間の経過を美しく感じさせるものが好きですね」

Clémentine Larroumetグラフィックデザインを学ぶ。建築出身のアントワーヌ・リカルドゥとともに、2000 年、Be-Poles の名でデザインスタジオを設立。ブランディング、店舗やホテルの内装デザイン、雑貨や家具のエディティングも幅広く手がける。2021年会社をサンラザールに改名。https://saint-lazare.co

*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋

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