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杉咲花さん、「撮休」で本人役。意識したのは他者として演じること

  • 2023.2.9

俳優に急に訪れた休日の出来事を描いたWOWOWのオムニバスドラマ「撮休」シリーズ。第4弾となる今回は映画「ちょっと思い出しただけ」の松居大悟さんや、映画「愛がなんだ」の今泉力哉さん、映画「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱さんといった気鋭のクリエーターを脚本・監督に迎え、俳優の杉咲花さんが本人役を演じます。2月10日から放送、配信される本作の撮影を通し、見つめた「自分」について杉咲さんに話を伺いました。

――多忙な日々に突如訪れた撮影の休み、“撮休”を杉咲花はどんなふうに過ごすのか。全6話はそれぞれ、まったく異なるストーリーで監督や脚本もさまざまな方が携わっています。偶然出会った人々や、気の置けない友人……。作品の中で杉咲さんはいろいろな人に振り回され、時にちょっぴり残念な結末に辿り着く場面もありましたよね。個性的な脚本・監督陣の思い描く“杉咲花のお休み”ってこんな感じなのね、とクスッと笑えました。

杉咲花(以下、杉咲): たしかに受け身であったり、振り回されていたりするような描写が多かったですね。外側から見ていると滑稽なことでも、本人としては素直に悲しいという。けれど、そのあっけなさを愛おしく感じてしまうのは、愛のある眼差しで描かれているからなのかなと感じていました。

――「杉咲花」本人を演じるというのは、普段の作品と役作りのアプローチで変わる部分はありましたか?

杉咲: 特に変わらなかったです。杉咲花という役名ではあるけれど、回ごとに異なる輝きを放っていて。自分自身を基準に演じた場合、「こうありたい」という理想の自分像を追い求めてしまう気がしたので、他者として演じることを心がけていました。

朝日新聞telling,(テリング)

「物語として心から楽しんだ」

――作品への出演が決まってから、脚本や監督、スタッフさんと打ち合わせなどはあったのでしょうか?

杉咲: 三宅監督とは撮影前に一度お会いして、「こういったテーマでやってみたいと思っているんです」といくつかの案を教えていただきました。ですが、その打ち合わせを通して物語の内容が決まっていったというわけではなく、カジュアルな会話を交えてコミュニケーションを取るということに重きを置いていた時間だったのかなと感じ、とても楽しい時間でした。

――完成した6作品をご覧になっていかがでしたか?

杉咲: シンプルに物語として心から楽しんでしまいました。いずれも、ご一緒したいと思っていた制作陣の方々でしたので、本当に嬉しかったです。

――「これはすごく自分っぽいな」と思ったシーンはありますか?

杉咲: 第6話「五年前の話」(脚本:和田清人・三宅唱、監督:三宅唱)で俳優仲間と一緒に住もうとする中で、不動産屋さんに決断を迫られるシーンがあって。向こうに悪気はないのですが、無言の圧が漂っているような状況下で「はい……はい……」と返事をしてしまうところは、少し共感してしまいました。後から何かしらの回避策があるような状況であれば、流れに身を任せてしまうこともあるかもしれません(笑)。

朝日新聞telling,(テリング)

深いところで萌歌ちゃんと繋がることができた

――第3話 「両想いはどうでも」(監督・脚本:今泉力哉)では、杉咲さんと両思いながら交際にはまだ至っていない、泉澤祐希さん演じる草に懇々と話をしていく様子が印象的でした。杉咲さんご自身と重なる部分はありますか?

杉咲: 人とのコミュニケーションにおいて相手がどう思っているのかが気になったり、伝えたいことがあったりする場合は、比較的共有したくなるほうかもしれません。

――そういうコミュニケーションってなかなかカロリーを使うので、「もし、あれが本当の撮休だったら杉咲さん全然安らげていないな」と思ってしまいました(笑)。

杉咲: 確かに(笑)。ですがカロリーを要するようなコミュニケーション内容であったとしても、大切な相手とのやりとりを優先したくなる気持ちはすごくわかります。

――一方、第1話の「丸いもの」(監督・脚本:松居大悟)での、上白石萌歌さんとセッションするシーンは切なくて優しくて、とても温かかったです。

杉咲: 個人的に、松居作品の過ぎゆく時間に抗うような演出がとても好きで。まさにそんなシーンになっていたと思うのですが、その撮影をした日がこの作品のオールアップだったことも相まって、なんだかぐっときてしまいました。現場での松居監督は口数が少なくて、声も小さめだけれど、じっとお芝居を見つめ続ける姿が印象的で。心の距離が近い感じがすごくしました。

萌歌ちゃんとは一度共通の知人と一緒にご飯に行ったことはあったのですが、共演は初めてでした。劇中で萌歌ちゃんが弾き語りしたandymoriの「16」という曲は私も大好きだったのですが、これには奇跡的な裏話があって。脚本が上がった頃はどの曲を弾き語りするのか決まっておらず、松居監督のなかで「16」を歌ってもらいたいと思っていたそうなんです。そして萌歌ちゃんとの顔合わせで、彼女が持参した楽譜ノートの1ページ目も、なんと「16」が書かれてあったという。

――それはすごい偶然ですね!

杉咲: あの弾き語りのシーンを撮った時に、とても深いところで萌歌ちゃんと繋がることができた気がしたんです。萌歌ちゃんは歌っていて、私はタンバリンを叩きながら、ただただずっとお互いの目が合っていて。それだけで、「なんて儚くて尊い時間なんだろう」と感じて、泣きそうになってしまいました。

朝日新聞telling,(テリング)

――おふたりの間に流れる空気は、画面からしっかり伝わってきました。

杉咲: 撮影期間は短かったのですが、本作に携わった全ての時間が多幸感に溢れていて、クランクアップした後は喪失感ですごく寂しくなってしまったほど楽しい現場でした。

■田中 春香のプロフィール
大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。

■家老芳美のプロフィール
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。

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