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経過した時間より到達した質に意味がある。イーヴォ・ポゴレリッチが語る、コロナ禍と音楽

  • 2023.2.8
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリッチが語る、コロナ禍と音楽。経過した時間よりも到達した質に意味がある

2021年の来日公演は直前で中止になってしまったこともあり、3年ぶりとなった今回の来日公演。少し風邪気味なんです、と言いながらゆっくりとした口調で語り始めた。

巨匠が見つめる自身の今と、コロナ後の世界

久しぶりの来日になりますが、自分にとって日本という国は格別なところなんです。東京に住んでいる方がどれだけそう感じるかわかりませんが、我々外国人にとっては来るたびに何か新しいものを発見できるところです。

昨年リリースのアルバムでは、ショパンは約四半世紀ぶりと、久しぶりの録音になりましたが、私はほかのアーティストとはちょっと違う時間の捉え方をしているかもしれません。何年かかったかというのはあまり意味を持たないことで、経過した時間よりも到達した質そのものに意味があるんです。

私が初めてステージに立ったのは9歳の頃でした。以来、常に音程、和音、構造、旋律など、さまざまな側面から音楽と向き合い、和声の変化、メロディなど、さまざまなアプローチを取り入れようとしてきました。それは時間がかかることなんです。私が行うことを記録することで、何かを示せると思えた時がレコーディングのタイミングであり、アルバムは、私が楽器から何を得ることができたのかについての記録ともいえます。

イーヴォ・ポゴレリッチ

コロナの影響で音楽に変化があったかというとそうでもないのですが、人々は変わりました。すぐにではないでしょうが、数年後にはクラシック音楽の重要性が増してくるのではと思っています。皆、電子機器経由のコミュニケーションに飽き飽きしていますよね。

人間は最終的にはデジタルではなくリアルに何かをしたいと思うものです。今はまだ兆ししか見えないかもしれませんが、そういった波が始まりつつあると思います。なぜなら、人々は実際に対面で会う必要があるからです。一緒にいること、一緒にレストランに行くこと、もちろん、オペラやバレエ、コンサートに行くことも重要なことです。多くの人がそう感じる時が必ず来ると思います。

「台本を読んでいると、どうしてもいいシーンにしたいと思ってしまうのですが、カメラの前に立ったら、そういった欲を手放してみる。ただ、そこにいるということを心がけていたら、本番の時間を思い出せないくらい、目の前の出来事に純粋に向き合えた瞬間がありました」

現場で何が起きようと、素直にそれを受け止める。そんな姿勢が相手役の演技をも生き生きと引き出すのだろう。取材中もこちらの目を真っすぐに見て、誠実さの塊のような受け答えをしてくれた。ちなみに、現実の撮休の過ごし方はこんなふう。

「最近、ハンモックを買ったので、ハンモックに揺られながらお昼寝をしたり映画を観たり、本を読んだりしています」

Information

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番、夜想曲&幻想曲

『ショパン:ピアノ・ソナタ第3番、夜想曲&幻想曲』

ショパンコンクールの翌年の1981年から95年にかけて4枚のショパンのアルバムをリリースしていたが、約四半世紀ぶりの録音となったショパン・アルバム。後期の作品を中心に構成されている。2022年2月発売。ソニー・クラシカル/2,860円。

profile

イーヴォ・ポゴレリッチ

1958年ベオグラード生まれ。モスクワで学び、80年にショパン・コンクールで本選に届かず落選したことが話題に。世界を舞台に活躍。数多くの作品をリリースするが、98年以降20年近く録音から離れていた。2019年にソニー・クラシカルと契約を結び、録音を再開。世界の音楽ファンが動向を注視し続けている。

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