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差別に抗う4人の危うい計画とは? デビュー作にして芥川賞候補作!

  • 2023.2.7

デビュー作がいきなり芥川賞候補となり、大注目の安堂ホセさん。『ジャクソンひとり』は、彼にとってまだ2作目の小説作品だという。

「2020年頃、自分の中にある話をどういう形で表現しようかと考えた時、小説にしようと思ったんです」

その際執筆した作品は文藝賞の最終選考まで残った。翌年再び応募し、見事受賞を果たしたのが本作だ。

「前作は一人称で思い入れを書きすぎたので、もうちょっと自分と距離を置いた、三人称の軽い小説にしようと考えました」

主人公はブラックミックスで、ゲイとの噂があるジャクソン。スポーツブランド専用ジムの整体師だ。会社で偶然、彼の服にプリントされたQRコードが読み取られたところ、現れた動画はブラックミックスの男のあられもない姿。ジャクソンが否定しても社内の人々はその男が彼だと信じて疑わない。これは誰かによるリベンジポルノなのか――。

「性暴力を扱う時、リアルさが欠けていたほうが読み手もダメージを受けないと思って。それで本人も自分なのか分からない状況にしました」

整体師という設定も絶妙だ。

「男性がリベンジポルノを受けた時、被害者なのに警戒されて疎外されることがある。他人の体に触る仕事をしている人なら、そのあたりがより見えてくるかなと思いました」

その後ジャクソンは、動画の男は自分だと主張する他の3人のブラックミックスの男と出会う。

「マイノリティの人が周りを怖れるあまり自分で狭めていた世界が、立場が同じ人と会うことで壊れていく。ポジティブな崩壊を書きたかった」

4人が集まった時の会話が脱線していくあたりから、タランティーノ作品的な映像が浮かんだと伝えると、

「子どもの頃から観てきた監督です。今観ると描かれる価値観に疑問があるけれど、山場と山場の間のシーンも妥協せずに面白くさせるところとかがよくて。コーエン兄弟の映画も、結構本筋から脱線するじゃないですか(笑)。ああいう感じが好きです」

本作もまさにそう。彼らは入れ替わり作戦による復讐を思いつくが、「計画が雑ですよね(笑)」と安堂さん。実際、計画は思わぬ道筋を辿り、やがてラストはとんでもない展開に。

「小説って自由に書けるんだと嬉しくなって、はっちゃけました(笑)」

オフビート感を漂わせながら、彼らが抱く理不尽さも戸惑いも怒りも盛り込み、“当事者が当事者を描いた”感がひしひしと伝わる本作。

「自分と同じ立場の人が読んだ時に寒くない小説にしたかった。当事者以外のことは考えませんでした。当事者以外に届けたいと思ったら媚びた寒い小説になりますから。ただ、刊行した後、“純日本人だけど海外で同じ経験をした”といった、自分が想像もしなかった人からの感想をもらって、勉強になっています」

次作も本作と地続きの世界を考えているそう。それはぜひ読みたい!

あんどう・ほせ 1994年、東京都生まれ。2022年、本作で第59回文藝賞受賞。好きな映画監督はアラン・J・パクラ、ロベール・アンリコ、七里圭、憧れの作家は松浦理英子。

安堂ホセ『ジャクソンひとり』 リベンジポルノを機に出会ったブラックミックスの青年4人の犯人捜しと、復讐計画の行方は? なんとも痛切で痛快な文藝賞受賞作。河出書房新社 1540円

※『anan』2023年2月8日号より。写真・土佐麻理子(安堂さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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