1. トップ
  2. メイク
  3. 吉川康雄の野望とは⁉ メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.32

吉川康雄の野望とは⁉ メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.32

  • 2023.2.7
  • 375 views

UNMIXを通して、ポジティブな気持ち、楽しい思いを少しずつ伝えていけたらいいな、と思っています

UNMIXポートレート
『UNMIX』のポートレート。一般の人々をモデルに、その人が心地よい瞬間を切り取る。季節感もストーリーも何もなく、その人の魅力だけを探し求める撮影。

2023年を迎え、気づけばもう2月! 「年が変わったからといって何か特別なことはしません」と笑う吉川さん。でも、この先、吉川さんが「UNMIX LOVE」の運営や化粧品を開発していくうえで描いている将来的なビジョン、ぜひ聞いてみたいです!

「僕は昔から、その年の目標というのを設定しないし、将来の自分がこうありたいというのはあまり考えません。それよりも、進行中のことや、今、自分がやれることを一生懸命やる、ということを大切にしていて、それをベースにしたビジョンはいくつかあります。

まずは、自分自身の平和を意識したい。現在は世界的に不安な状態ですが、悲観しているだけでは意味がないし、個人の力だけでどうこうするのは難しいと思うんです。だからといって戦争や不安な現状を見ないようにする、ということではなくて、こんな時代で簡単ではなくとも、自分の心を元気にして、いいエネルギーを出していきたい。それができたら、まわりの人たちも力が湧いてくるかもしれないし、できることも広がっていくかもしれない。僕だけの力ではできない、何かいいことにつながるのではないかと思うんです。その手始めとして、自分が生きているまわり、例えば毎日のライフラインを保ってくれる人たちや、娘の友人たち、自然と出会う人たちとの縁など、目の前のことに感謝していきたいと思っています。

『UNMIX』を通して出会う人たちや、かかわるチームの人たちもそうです。プロジェクトを通してみんながウキウキできる、インスピレーションを広げるきっかけになる、少しでもポジティブな気持ちになる…そんなブランドにしていきたいんです。僕が何かをやるというのではなく、『UNMIX』を知った人たちが、それぞれ何かを感じて、そこからいいことが広がっていったらいいな、と思っています。

では、『UNMIX』のプロダクトで何ができるのか? プロダクトを作るには想いがなければと僕は思うのですが、『UNMIX』は『化粧ってなんだろう、自分の顔に色を塗ることってどういうことなんだろう』という意味を考えながら創っています。

自分のなかにある疑問に向き合うと、まだまだ気づけることがいっぱいある。僕もまだ発展途上ですからね(笑)。出てきたプロダクトやメッセージが正解! とは言いきれないけれど、そこをみんなで考えていけばいいんじゃないかな」

メイクをすることで発見できる“ちょっと違ったアングルの自分”を楽しめたら、メイクはもっと楽しくなる!

美しい花々
すべての人は、美容だけでなく環境を大切に生きています。『UNMIX』では、その情緒をモデルに重ね、ムードを表現しています。

これまでのメイクは、自分がネガティブだと思うところを“隠す”メイクだったのに対して、吉川さんが『UNMIX』を通して提案するのは、自分のいいところを引き出し、“今日の私、イケている”と思えるようなメイク。このことで、メイクすることが楽しくなったという人も多いはず。

「僕のなかから湧き出たこの考えをひとつのきっかけに、もっと本質的なビューティを探っていきたいと思っています。

『メイクの本質とはなんだろう?』ということについてですが、僕のなかでその疑問は、いわゆる日常のメイクと、ペインティングアートのような、民族的メイクアップとの違いってなんだろう? というところから始まっています。日常のメイクに対して僕が感じる“厚化粧感”や違和感、何かになるために “顔に塗る”という意識と、そこに向けて作られる化粧品、『お化粧しなきゃ』という意識を持たせるような社会的メッセージといったものを見てきて、“単純に不思議”という思いが頭の中にいつもあったんです。

その答えを見つけるために、『UNMIX』を始めたのかもしれません。自分に触れる美容という行為には、自分に対する気持ちが現れるはず。そんな大切な行為だからこそ、自分を支えるためにあるべきだって思ったんです。同時に、いろんなネガティブな気持ちを作り出してきた今までの美容のあり方や社会の押しつけは、少しずつでも変わっていったほうがいいとも思いました。メイクはその人をウキウキさせるものじゃないと始まらないという考えのもと、“その人がその人であることを楽しめる”ことを目標に『UNMIX』は生まれた。だとしたらそこにはいろんな美があるわけで、僕は化粧品を作る者として、自分の持っている“美意識”をもっと広げていかなきゃって、つくづく思います。『楽しみ』っていろんな種類があっていいし、感じ方があっていいと思うから。

僕の思う『楽しみ』とは、例えば自分のいいところに気づいたり、または、嫌いなところを発見したけどこんな私でもいいんだ、とか、もっと好きな生き方をしたいとか、今までこうだったけどこれでいいんだよね、とか、自分についての新たな楽しい発見や許容があること。自分が年齢を重ねることを受けとめ、それを楽しめたり、人と違って当たり前ということを受け入れられるようになったりするのも、新しい自分の発見だと思うんです。

今では多くの人が口にする“自分を大切にしよう”という気持ち、これももちろん大事ですよね。ただ、自分を大切にするだけで終わってはいけないと思うんです。それでは単なるエゴイストになってしまう。自分を大切にすることを通して“自分の個性の存在価値”を感じられたら、“自分とは違うけど、他人の個性にも存在価値がある”って思えるでしょう? そうしたら、その人と同じ空気を吸って生きていくための工夫を大切にできるかも。自分がポジティブでいられたら、人との関係もポジティブでいられる。そのためにまず、自分のポジティブに目を向けて楽しむ。“そのためのもの”のひとつに、『UNMIX』のプロダクトがなれることを目標にしています。

メイクすることで自分に触ることは、体を鍛えるエクササイズのようなもので、精神のエクササイズだと思うんです。そうやって自分がポジティブになっていけたら、なんだか人生が楽しくなりませんか? それが『UNMIX』の目指している姿であり、僕のビジョンのひとつです。

自分の姿に不満がない人なんてあまりいないと思う。タレントだって女優だって同じです。でも、容姿は選べるようなものではありません。それをどうやって受け入れるかは、ある意味、すべての人にとっての人生の課題のようなもの。あきらめるのではなく、どうやって自分を好きになって心地よく前に進むか? どんな人だって、内面を含め、自分のことがイヤになることもあるはず。それにどうやって向き合っていくのかが大切なんじゃないかな。

『化粧』って、けっこう軽くとらえられがちだけれども、実は自分に向き合うための大切なものなんだと思います。だから、たかがメイクなんて言われても、無視して堂々とハマって、いろいろ感じてほしい。そしていつかは自信を持って楽しんでほしい! その楽しいバイブはきっとまわりに広がって、いい感じのエネルギーになっていくと思うんです」

「ちょっといいかも」から、「そんなメッセージがあったんだ」と感じてもらえるプロダクトを考えています

ミニマルにデザインされたUNMIXのプロダクト
いろんな人のライフスタイルにマッチするように、ミニマルにデザインされた『UNMIX』のプロダクト。

覆うのではなく、「ハッと息を飲むような、“ひと”という生き物の美しさを感じさせる肌」にこだわる吉川さん。今後、そんな吉川さんの思いを込めたベースメイクアイテムが登場する予定はあるのでしょうか?

「かなり頑張っているんですけどね、まだちょっと…制作中(笑)。完成したらもちろんyoiにはいち早く紹介しますが、なかなか前に進めないんですよね。3歩進んで2歩下がるみたいな、もうすごく闘っている感じなんです。勢いにのってなんでもOKというのも違うし、作り上げるものに正解はないから迷うこともしょっちゅうで。

ほかにもいっぱい伝えたいことややりたいことがあるけれど、皆さんが受け入れて消化できるペースで出していきたいな。それぞれの想いが込められたプロダクトと、受け取る人が一緒に進んでいくような感じ。『このプロダクトが好き』から始まって、『UNMIX』のメッセージを知って初めて『あっ、そうだったんだ』と感じてもらうくらいがちょうどいいのかな、と思っています」

真摯なまでに化粧品開発に取り組む吉川さん。プロダクトを通して皆さんに幸せを届けるのが、どうやら吉川さんの最終的な野望のようです。

吉川康雄の野望とは⁉ メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.32 _4
1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

元記事で読む
の記事をもっとみる