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96歳、ひとり暮らし。意外と難しい「頼り方」のコツは?

  • 2023.2.6
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老後、どこでどう暮らす? 現在61歳の岸本葉子さんは、自分の家の不便や親の介護を通して、老後の住まい事情が気になるようになったという。同じように、年齢を重ねてこの先の住まいのことを考えるようになった人は多いのではないだろうか。

体が自由に動かなくなれば、施設に入ったり家族に頼ったりするかもしれない。でも、もし大きな病気もせず健康だったら? 90代でも、ひとりで生活を組み立てている人はたくさんいる。岸本さんは、東北の都市部でひとり暮らしをしている96歳の女性を取材した。岸本さんの著書『ひとり老後、賢く楽しむ』(大和書房)に、女性の暮らしの様子がまとめられている。

女性は定年後も頼まれて、76歳まで働いていた。3人いる娘は、みな東京在住。70歳、67歳、63歳で、母親同様、まだそれぞれパートタイムやフリーランスで働いている。バラバラに住んでいて、適度な距離を保った関係だそうだ。

96歳になったから娘に実家へ帰ってきてもらっていっしょに住もうとか、娘のもとへ身を寄せようとかいう発想はないそうです。
足腰はさすがに衰えてきたけれど、台所にはまだ立っている。地元のタクシーの割引会員になって外出はタクシー。買い物を済ませたら馴染みの運転手さんに家の中まで運んでもらうそう。そういうシステムを自分で作り上げている。

人に頼む以上は、自分のやり方を押し付けない

女性は95歳のときから、週3回デイサービスに行きはじめた。その他には、掃除のへルパーが週1回、ご飯を作るヘルパーが週2回、それぞれ1回1時間ずつ来ている。掃除は早々に手放し、料理は自分でもできるけれど毎日台所に立つのはつらくなったということだ。

ヘルパーにお願いするうえで、女性はこんなスタンスでいるという。

頼む以上は自分のやり方を押し付けない。掃除の人は必ずしも自分の気に入るようにはできないけれど、それはいいことにする。ご飯を作る人も野菜の切り方などが自分と違っていても許せる。任せたからにはその人の好きなようにしてもらう、それが外の人を入れても上手くいくコツのようでした。
と言っても、丸投げではありません。ご飯ならメニューからお任せではなく、きちんと要望を出している。食材は買い物に行くなり届けてもらうなりして用意し、ヘルパーさんに「こういうのを作ってください」とお願いしているそうです。調味料などの在庫も記憶していて、食材の管理、お金の管理はできるのです。

岸本さんは、きょうだいと協力して親の介護をしたときに、「自分と違うやり方を受け入れること」の難しさを知ったのだそう。96歳の女性のような割り切り方は、簡単なことではない一方で、老後人に頼らざるを得なくなれば大切な心構えになってくる。

96歳の女性は娘3人を育てながら76歳までお勤めをしていたくらいだから、なんでもおできになるだろうし、人のやり方を見て手際が悪いと感じることもたくさんあると思います。そこを割り切れるのはすばらしい。自分が台所に立つならもっと上手くできても、今の自分は毎日は立てないわけだから。

食べたいものを、食べたいだけ食べる

朝は必ず自分でごはんとみそ汁と一品を用意して仏前に供え、お昼はそれを下げて食べる。夜は作ってもらったものや昨日の残りを食べるというルーティン。カツやうなぎやすき焼きなど、食べたいものを好きに食べているそうだ。

食べたいものを食べるというのは、とても大切。仮に自分で手を動かして作ることができなくなっても、「何を食べたい」という欲求は最後まで手放さない方がいいなと思いました。

他人に家へ入ってもらうだけでなく、人のいるところへ出ていくのも好きなのだとか。デイサービスでは初対面の人ともしゃべり、整形外科、内科、眼科へもひとりで通っているそうだ。人と接するのは刺激になる一方で、疲れることもあり、何もない日はほっとする。岸本さんは、女性の印象を「自分の体力と必要に合わせてスケジューリングして、自分に適したペースで上手に人と交流している感じ」と語る。他にも年賀はがきの相手を記録したり、花の世話をしたりと、かくしゃくとした様子だ。

また、昔ながらの家なので段差が多く、それがかえって衰えを防いでいるのではと岸本さんは言う。

たしかに「年をとったらバリアフリー」と考えがちですが、家を一歩出れば段差だらけ。バリアフリーに慣れてしまうと、出かけるのが怖くなりそうな気がします。

まるごと全部誰かに頼ってしまうのではなく、今の自分に何ができて何ができないかを把握し、必要なことだけを人に頼むという姿勢。自分で暮らしをコントロールすることは、老後、できるだけ長く健康でいるために重要なことかもしれない。

そのときそのときの自分の現実を把握し、頼むところと自分でするところとを判断し、生活をマネジメントしていく。
そういう力をより長く保つことの方が、老後ではより大事になっていくのかもしれません。

『ひとり老後、賢く楽しむ』では、96歳の女性をはじめ、下は50代まで、幅広い世代に「ひとり老後」の住まいと暮らしについて取材している。持ち家、賃貸、施設などの選択肢や、老後資金や趣味、人間関係まで、老後のあらゆる心配事をリサーチした頼れる一冊だ。

■岸本葉子さんプロフィール
きしもと・ようこ/1961年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学教養学部卒業。生命保険会社勤務後、中国留学を経て文筆活動へ。日々の暮らしかたや年齢の重ねかたなどのエッセイの執筆、新聞・雑誌や講演など精力的に活動し、同世代の女性を中心に支持を得ている。主な著書『ちょっと早めの老い支度』『俳句、はじめました』(角川文庫)、『50歳になるって、あんがい、楽しい。』『50代の暮らしって、こんなふう。』『50代ではじめる快適老後術』『ひとり上手』(だいわ文庫)、『50代、足していいもの、引いていいもの』(中央公論新社)、『わたしの心を強くする「ひとり時間」のつくり方』(佼成出版社)他多数。

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