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セルフビルドで変化し続ける、鳥取の広大な森の住まい

  • 2023.1.29
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完全セルフビルドの家

確固たる理想なんてない。家も暮らしも、日々、変わる

鳥取は大山の麓、6,000坪の森の中に住んでいる。東京から家族3人で鳥取に来たのは2012年。鳥取には大輔さんの実家があり、「実家から送られてくる野菜がおいしかったから、いっそ引っ越しちゃおうか」と思い立ち、まずは大輔さんが幼い頃に暮らした村の古民家に移り住んだ。この場所と出会ったのは、1年ほど後のこと。せっかくだから、もっと自由で広い場所に小屋でも建てようか、ということになり、不動産屋に紹介されたのがこの「森」だった。

ヒュッテの南側外観
自生のナラの木に囲われるように立つ、ヒュッテの南側外観。ガラス店から譲り受けた不揃いの窓のパッチワークが可愛らしい。ロングテーブルを備えたデッキは全長約10m。
完全セルフビルドの家
鳥取県西伯郡、伯耆町の森の中。2013年からここに住む谷本大輔さん、オライビさんの家は家族の手による完全セルフビルド。現在はHUT SBALCO design(以降ヒュッテ)と呼ばれている家族の集会所のほか、敷地内に、住居棟や音楽小屋などが点在する。
ヒュッテ内部のキッチン
ヒュッテ内部。正面のキッチンがこの家の始まりで増改築を繰り返すこと5年。カウンターを新たに造り付けこの春から息子の空南くんの〈ANAN coffee〉としても営業している。

「電気も水道も通ってなくて、敷かれているはずの町道すらどこにあるかわからないくらい鬱蒼としていました。でも、ここは小さな木造住宅なら確認申請なしで建てられる土地で、自分で家を建てたことはなかったけど、なんでだろう、不安はなく、決めちゃったんですよね」と大輔さんは振り返る。

最初は古民家から車で通いながら森を切り拓き、「そのうち、行き来にかかる時間がもったいなくなって」森の一角にティピを建て、キャンプ同然の暮らしが始まった。

「もともとアウトドア派だったわけでもなく、なぜそんなことができたのかって、よく聞かれるけど、季節は夏で、森の中は気持ちよくて、ただただ、楽しかったんですよね」とオライビさんは笑う。

まずキッチンを造り、雨風がしのげる屋根を架け、最低限のインフラを整えつつ、半年後、ヒュッテと名づけられた家のベースが完成する。そこに友人知人が遊びに来るようになり、プライベートな空間の必要に迫られて、今、シェルターと呼ばれている住居棟が出来上がる。

2015年に建てた住居棟
2015年に建てた住居棟。建物の構造は、かつて使っていた北欧メーカーのテントを参考にしている。ドアはインドの手彫り。冬も暖かく過ごせるよう、中央に薪ストーブがある。
住居棟の内部の寝室
住居棟の内部。奥行き約10m、70㎡ほどの一室空間で、間仕切りはなく、低いキャビネットの向こうに寝室コーナーがある。衣類はベッド横のハンガーパイプに収まる分だけ。
セルフビルドの空南邸
ヒュッテを挟んで住居棟の反対側に立つ空南邸。建坪は小さいが天井を高くとりロフトも設けた。基礎は大輔さんの、建て方は友人の手も借りたが、基本は15歳のセルフビルド。
空南邸の内部
空南邸の内部。インフラを通していないので、水は汲んできたものをタンクに入れて使用。照明は灯油ランタン。わずかな生活道具だけで、驚くほどコンパクトに暮らしている。

「手作業で建てるから部材は扱いやすい大きさの、ホームセンターでも手に入るごくごく普通のものです。設計図なしの目分量、構造は同じでも、同じ形にはならなくて、壁の傾斜が強くなったり屋根が高くなったりする」と大輔さん。実際に、シェルターの次に建てた音楽小屋は、思いのほか、背が高くなった。壁はそれまでの合板をやめ、無垢の垂木材にするなど、建てるたび、少しずつ、進化もしてきた。

ヒュッテ内部
ヒュッテ内部。無垢の柱までが初期の頃の家の大きさで、写真手前のスペースは、かつて土間だった。イベントや友人知人との食事会など、突発的なイベントの開催に合わせて、柔軟に、増築・改築を行ってきた。
壁の傾斜を活用したキッチン
壁の傾斜を活用した食器棚が使いやすそうな住居棟のキッチン。ラグはアフガニスタンの古いキャメルバッグ。床は杉の破風板。キッチンカウンターは廃校になった小学校の元工作台に脚を付けた。

そして昨年、小学生の頃から家づくりに参加してきた空南くんも、5歳にして「自分の家」を建てた。かかった日数はたった9日間。インフラはあえて、通していない。これと決めたら貫く性格で、コーヒーに魅せられ、春からヒュッテで〈ANAN coffee〉もスタートさせた。オライビさんは言う。

窓辺に木の机を置いた住居棟
住居棟の窓辺に置いた木の机は、東京から持ってきた数少ない家具の一つ。ものに対する執着が少なく、できるだけシンプルに暮らしたいというのが家族共通の願いだった。
いくつもの打楽器が並ぶ音楽小屋内部
いくつもの打楽器が並ぶ音楽小屋内部。音楽家であるオライビさんの活動拠点だ。打楽器やカリンバ、そして言葉に頼らない深く温かな声で奏でる彼女の音楽は、森によく似合う。
ヒュッテのデッキ側に増築した、空南くんの焙煎ルーム
ヒュッテのデッキ側に増築した、空南くんの焙煎ルーム。焙煎の基本は、丹波篠山の〈DNFコーヒースタジオ〉で教わったが、その後は独学。三河の黒七輪を使い、炭火で焙煎する。
左が住居棟、右が音楽小屋
敷地内を通る町道から、ゲートを正面に左に住居棟、右に音楽小屋を見る。かつて大山の別荘地として開発されかけた土地で、結局手つかずのまま、40年近く放置され、森に還った。

「この森に来たのも突然だったけど、状況はいつも突然、変わる。それに合わせて家も、暮らし方も変わってきたし、これからもきっと、行き当たりばったり。移住やセルフビルドという言葉が並ぶと、確固たる理想の暮らしを追い求めているんですね、なんて言われることもあるけど、そんなの思ってもみなかったし、理想というのも、日々、変わっていく。その変化を受け止めてくれる場所が、私にとって住まいなんだと思います」

profile

谷本大輔、OLAibi

谷本大輔(SBALCO design)/OLAibi(音楽家)

たにもと・だいすけ/オライビ/写真右から、オライビさん、大輔さん、息子の空南くん、〈ANAN coffee〉を共に営む碩さん。オライビさんは音楽家として国内外で活動。ソロアルバム『みみはわす』を2017年リリース。大輔さんは〈SBALCO design〉主宰。https://hut-sbalco-design.tumblr.com/

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