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「このままだと2086年には皇統が途絶える」皇室研究家が危機感を持つ"絶望的な試算"

  • 2023.1.27

皇室も少子化と無縁ではない。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「専門家の試算でも、皇位継承者を男系男子に限定したままだと100年以内に皇統が途絶える可能性が高いと出ている。今の持続可能性のないルールにしがみついていると、皇位の継承も皇室の存続も行き詰まってしまう」という――。

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皇室は少子化と無縁なのか

岸田文雄首相は本年の年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。“異次元”というインパクトの強い表現を使ったことで大きな反響を呼んだ。去る1月23日に召集された第211回通常国会の施政方針演説でも、岸田首相は「出生率を反転させなければならない」と少子化への取り組みを強調した。しかし早くも、その実効性への疑問や財源への不安感などが浮かび上がっている。

ここでそうした議論に立ち入るつもりはないが、「少子化」が現在、わが国が抱える最も重大な課題の1つであることは、疑いがない。

では皇室は少子化とは無縁なのか、どうか。皇室の将来を見通す上で、この問題は度外視できない。そこでこの点の実情について振り返ってみたい。

日本全体よりも少子化が進んでいる

上皇陛下以降の世代において、ご結婚によって皇室にお入りになった女性方(皇后・上皇后・親王妃)の数(6人)を分母とし、実際にお生まれになったお子様方(親王・内親王・女王)の数(12人)を分子にして値を出すと、6分の12でちょうど“2”になる。

病気や事故の可能性を考慮すると、一般的に人口が減らない限界はほぼ2.1とされている。だから2というのは、皇室の維持・存続という観点からすれば、決して安心できる数字ではない。

しかも一般国民の場合、数値を押し下げているのは非婚率の高さだ。なので、ご生涯、独身を通された事例(1人)や、現時点で結婚平均年齢(男性=31.0歳、女性=29.4歳)より5歳以上、年齢が上で未婚の方(3人)も一応、分母に加える。すると、10分の12となって、“1.2”という数字になる。

これは国民の合計特殊出生率(令和3年[2021年]で1.30)よりも低い。ただし、こちらの数字は未婚の方々が結婚されれば、その分だけ改善することになる。それでもすでにご独身のまま亡くなられた方がおられるので1.7…以上にはならない。

いずれにしても、楽観できる数字ではない。こうした状況がにわかに好転することは考えにくい。むしろ、一般的な晩婚化の傾向を見据えると、皇室においても一層、少子化が進む可能性も織り込んでおくべきだろう。

次の世代の「男系男子」は1人だけ

それ以前に、上皇や天皇陛下の世代には、現在の皇室典範が皇位継承資格を認める「皇統に属する男系の男子」が複数おられた。上皇陛下の世代に“5人”、天皇陛下の世代には“2人”という状況だった。

ところが、次の世代では周知の通り、秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下ただ“1人だけ”となっている。「男系男子」限定というルールのもとで、短い期間に次世代を生み出す基盤そのものが“極小化”してしまった。

「旧宮家プラン」に憲法違反の指摘

その極小化による将来への不安を緩和する苦肉の策として、いわゆる旧宮家プランが提案されている。

旧宮家プランというのは、被占領下に皇籍離脱を余儀なくされた旧宮家(当時は11あったが、後継者がいないためにすでに廃絶した家が複数ある)の子孫に対象を限定して、当事者の合意を踏まえて養子縁組などによって特権的に皇族の身分を取得できる制度を新しく設けよう、という提案だ。

しかし、同プランは憲法が禁じている「門地(家柄・家格)による差別」に該当する疑いが、憲法学者で東京大学大学院教授の宍戸常寿氏などによって指摘されている。

憲法第14条第1項には次のような規定がある。

「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

戸籍に登録されている国民は皆、原則としてこの条文が適用される。いわゆる旧宮家の子孫ももちろん、国民としての権利と義務が等しく認められている以上、その適用対象だ。したがって、それらの人々“だけ”に限定して養子縁組による皇籍取得を“特権的”に認める制度は、まさに「門地による差別」に当たり、憲法上、許されない。

念のために付け加えておくと、皇統譜に登録されている皇室の方々は、憲法が定める「世襲」制(第2条)を支える存在として同条の適用外とすることを、憲法自体が認めている。皇室の方々は第14条よりも第2条が“優先的”に適用され、旧宮家子孫は国民として第14条が“そのまま”適用される、という関係だ。

また、男性皇族の結婚相手の国民女性が皇族の身分を取得する現在の制度では、その対象について「門地」による限定がないので、もちろん憲法には抵触しない。「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」であり、「主権の存する日本国民の総意に基く」とされる「天皇」をめぐる制度に憲法違反の疑いが生じることは、もちろんあってはならない。

有識者会議事務局も“ダメ出し”

これについては、内閣に設けられた皇族数の確保策を検討した有識者会議の事務局自身も問題性に気づいていたようだ。メディアにはほとんど黙殺されたが、同事務局が作成した「事務局における制度的、歴史的観点等からの調査・研究」(令和3年[2021年]11月30日)というレポートは、旧宮家からの養子縁組を認めるプランについて、抑制的な表現ながら以下のような疑問点を列挙していた(一部順序を変更した)。

養子縁組を恒久的に制度化し、例えば旧11宮家の男系男子に限って養子となることができると規定した場合には、旧11宮家の男系男子が他の国民と異なる立場にあるという見方を恒久化することにつながりかねない。これは、国民の間における平等感の観点から問題が大きいのではないか(32~33ページ) 一定の期間を限って制度化したとしても、法律の明文で規定する以上は、養子となり得る者として規定される国民と他の国民の間の平等感の問題はあるのではないか(32ページ)

個別の養子縁組の機会を捉えて養子縁組を可能とする立法を行う場合、養子縁組の成立に向けた様々な準備は、皇室典範により養子縁組が禁止されている状況の中で行わなければならないこととなる(33ページ) 権力分立や、国家に対する国民の自由・平等の確保という観点から、法律は一般性(不特定多数の人に対して、不特定多数の事案に適用されること)を有していなければならないとする考え方もあり、このような個別処分的立法は難しいとの考え方もあるのではないか(同ページ)

要するに養子縁組プランは、恒久制度でも期間限定でも個別対処でも、いずれも問題があるという指摘だ。これらは、事務局という立場上の制約の中でもぎりぎり示された“ダメ出し”と受け取るべきだろう。

専門家による絶望的な試算結果

以上によって、旧宮家プランが現実的な選択肢になり得ないことは、明らかだ。

そうすると、これまでの皇室典範における「男系男子」限定というルールを維持する限り、次の世代は悠仁殿下だけという事態を避けられない。それを前提に皇室の将来を予測すると、果たしてどのような未来図を描くことができるだろうか。

先頃、都市社会工学が専門で京都大学大学院准教授の川端祐一郎氏が、「男系男子」限定という条件下での皇位継承の持続可能性を探った興味深い試算を公表されている(『表現者クライテリオン』101号、令和4年[2022年]3月号)。

同氏は「結婚する確率は90%とし、結婚年齢の平均は30歳、第1子をもうける年齢の平均は32歳、平均寿命は81歳」という条件を前提に、スタート時点での「男系男子」が1人・3人・5人で、さらに平均したお子様の数が1.5人・2人・2.25人・2.5人というケースのさまざまな組み合わせについて、丁寧に試算された(それぞれ1万回ずつ数値シミュレーションを行われたという)。

しかし、先に見たようにスタート時点の「男系男子」は1人、お子様も1.2人プラスアルファというのが現実的な見立てだろう。そこで川端氏の試算から、スタート時点が1人で、お子様が1.5人の場合について取り上げる。

すると、100年未満しか持続できない可能性が“61.4%”で、最後の男系男子が亡くなり、男系に限定した皇統が途絶える可能性が最も高い年は2086年という計算結果になっている。

これは、スタート時点の男系男子について、一般的に「90年代後半から00年代後半にお生まれになった現皇族及び旧宮家の男系男子を想定している」ため、具体的に悠仁殿下を想定した場合よりも少し前倒しされた結果になっている。しかし、その点は差し引いても、極めて厳しい結果であることは揺るがない(200年未満の可能性は90.2%!)。

新生児
※写真はイメージです
「甘め」の仮定でも2代目から危険水域

また私の周辺でも、独自に皇位継承をめぐる「期待値」計算を行っている。その結果によると、スタート時点で1人だった場合、将来どの世代も必ず結婚されて、代々欠かさず“2人”のお子様に恵まれるという、かなり甘めの仮定でも「継承可能性」の数値は以下の通り。

2代目→75%
3代目→56%
4代目→42%
5代目→32%

楽観的な前提でも不安を拭えない数字になる。お生まれになるお子様が“1人”という現状により近い条件だと、次のような結果になる。

2代目→50%
3代目→25%
4代目→13%
5代目→6%

早々と2代目から危険水域に入ってしまう。「次の世代の男系男子が1人だけ」という皇室の現実の険しさについて、改めて気づかされる。

「男系男子」ルールには持続可能性がない

もともと、正妻以外の女性(側室)から生まれた非嫡出子・非嫡系子孫による皇位継承という選択肢が除外されるという、(明治の皇室典範がまったく予想していなかった)皇室の歴史上、かつて前例がない局面に入った時点で、皇位継承資格を「男系男子」に限定するというミスマッチなルールに持続可能性がないことは分かり切っていた。そのルールにいつまでもしがみついていれば、皇位の継承も皇室の存続も行き詰まる他ない。したがって、「男系男子」限定というルールの見直しは避けられない。

それを怠ると、悠仁殿下のご結婚相手が必ず健康な男子を1人以上生むこと以外に、皇室存続の可能性は望めなくなる(もしそれがかなっても上記の通り薄氷を踏むような危うさから逃れられないが)。そんな想像を絶する重圧下では、畏れ多いが悠仁殿下のご結婚自体が至難になりかねない。

ルールを変えれば「安泰」になる

一方、皇統に属する女子・女系については、最高法規である日本国憲法が「世襲=天皇の血統による継承」に含まれるとして認めている(内閣法制局・執務資料『憲法関係答弁例集(2)』参照)。そこで持続可能性を期待しがたく、下位法である皇室典範のルールにすぎない「男系男子」限定を解除し、女子・女系による継承も可能にした場合はどうなるか。スタート時点が同じ1人で、お子様が1人と仮定しても「期待値」計算の結果は以下の通り。

2代目→100%
3代目→100%
4代目→100%
5代目→100%

男女ともに継承資格があるので当然の結果ながら、まさに安泰。

しかも、女子の継承資格を認める場合、悠仁殿下と同世代の内親王が2人おられるので、それらの方々も加えるとスタート時点の人数は3人となる。内廷プラス2宮家という形だ。

その場合、“直系優先”の原則に照らして内廷を担われるのは、皇女でいらっしゃる敬宮としのみや(愛子内親王)殿下になろう。こうした形なら、皇室の将来がより磐石になるのは改めて言うまでもない。もし途中でお子様を授からなかったり、ご独身を通されるようなケースが時にあったとしても、それを乗り越えて行ける可能性が開かれる。

日本人は皇室の存続を望むのか、それとも望まないのか。もし存続を望むのであれば、明治の皇室典範に由来し、側室制度を前提とした「男系男子」限定ルールを、前提条件の根本的な変更に合わせて、しっかり見直す以外に方法はないはずだ。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」

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