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【取材】図書館で働きながらアイディア集めた!『LAMB/ラム』監督が「色味の秘話」も明かす

  • 2023.1.26
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子羊を自分たちの子どもとして育てた羊飼いの夫婦を題材にした禁断のネイチャー・スリラー映画『LAMB/ラム』で長編映画デビューしたヴァルディミール・ヨハンソン監督にインタビュー。映画へのこだわりと、羊への愛を感じる取材だった。映画はPrime Videoにて独占配信中。Blu-ray&DVDは3月3日(金)発売。(フロントロウ編集部)

※こちらの記事はネタバレを含みます。

図書館で働きながら構想を練った

制作において重要な役割を果たしたマテリアルや会話などはありますか?

ヨハンソン監督:まずは、ムードブックづくりから始めました。ストーリーのトーンや取り入れたい要素を探るために、アート作品や自然の写真などを色々集めて、自分で絵も描き入れました。羊飼いについての話にすることは決まっていて、アダもそのムードブックに登場しています。その後、ライターのSjón(ショーン)に紹介されたのですが、彼は民話や神話にとても詳しいんです。そこで、彼にムードブックを見せました。そのあとは週に一度、とても長い期間ミーティングをするようになり、これらの要素をすべて含んだストーリーを考え出そうとしました。あるイメージが気に入ったら、そのイメージに合うようなシーンを書こうとすることもありました。つまり、すべてはイメージから始まっているのです。

ムードブックの素材はどのようなところから集められたのですか?

ヨハンソン監督:あちこちです。私は図書館で働いていた時期があったのですが、その時はそこにあった資料をたくさん漁りましたね(笑)。ピンタレストを見たり、歯医者に置かれていた雑誌だったり。映画や音楽や本。インスピレーションはそこら中にありました。

画像: 図書館で働きながら構想を練った

羊飼いにこだわられた理由は何ですか?

ヨハンソン監督:祖父母が羊飼いで、彼らと多くの時間を過ごしたことと、長い間羊の周りにいたからです。

アダちゃんとラムマンはどちらが先に誕生したのですか?

ヨハンソン監督:ムードブックの中にはどちらも存在しているのですが、どちらが先だったか、はっきり覚えていないんですよね。でも、アダの方が重要だった気がします。

アダちゃんは、4頭の子羊と10人の子どもで作り出した

羊たちとの撮影は難しかったですか?

ヨハンソン監督:みんな『動物と子どもとは仕事をしない方が良い』とよく言いますね。しかし私は、ショートフィルムの時から動物や子どもを作品の中で扱ってきました。そしてこの作品は、クルー全員が田舎や牧場で過ごした経験があるという、素晴らしい環境だったのです。撮影しているうちに気づいたのですが、時間を与え、安心させ、自分は脅威ではないと感じさせれば良いのだと気づきました。正しく扱えば、最終的には、してほしいことをしてくれるのです。

画像1: アダちゃんは、4頭の子羊と10人の子どもで作り出した

アダちゃんは技術的にはどのように撮影されたのでしょうか?

ヨハンソン監督:撮影には子羊4頭を使いました。お産で母親を亡くしてしまった4頭を引き取ったのです。制作中には、この羊が成長するのを待つために撮影を一時休止することもありました。撮影のために20年くらい誰も住んでいない牧場を見つけて、そこを、撮影用に改装したのですが、そこに、私のきょうだいと彼の娘が、4頭の子羊と猫と一緒に2ヵ月くらい暮らしていたのです。たまに会いに行くと、おむつを着けた子羊が見られて面白かったですね。子羊たちは一緒にいる人に精神的になつく、本当に素晴らしい動物です。

そして、数ヵ月から5歳までの子どもを10人起用しました。あとは人形です。ほとんどのシーン、とくに第2章と第3章は、人間、人形、子羊の3通りでシーンを撮影する必要がありました。役者たちは本当に辛抱強く頑張ってくれました。同じシーンを何度も何度も演じなくてはいけませんでしたからね。そして最後にすべての映像を繋ぎ合わせる。そうやって作りました。ただ、動きが多すぎるシーンだけはスペシャル・エフェクトを使っています。

画像2: アダちゃんは、4頭の子羊と10人の子どもで作り出した

羊、人間、人形の3者を繋ぎ合わせるアダちゃんの撮影が最も難しかったと言えますか?

ヨハンソン監督:ある意味、そうと言えます。これがリスキーなアイディアであることは全員が分かっていました。完全なる失敗作になるギリギリのラインですからね。アダが上手くいかなければ、この話は滑稽なコメディです。しかし我々は(ビジュアル・エフェクトを担当した)Peter HjorthやFredrik Nordのような素晴らしいクルーと働くことができた。アダの出来には非常に満足しています。

画像3: アダちゃんは、4頭の子羊と10人の子どもで作り出した

アダちゃんの衣装はどうですか? 監督が細かく決められたのですか?

ヨハンソン監督:そうです。と言うか、衣装のいくつかは私や私のきょうだいのものなんですよ(笑)。制作をはじめたとき、カラーパレットを作ったんです。映画に登場するものは、そのカラーパレットにある色でないとダメと決めていた。(衣装も)そのパレットにない色が使われている場合は使用しませんでした。

カラーパレットの色に意味はあるのですか?

ヨハンソン監督:意味というよりは、その色がどのような感情を引き起こすかですね。緑、黒、白、青。これらは私にとって良い感情を引き起こしてくれる色です。理由は言葉で説明できることではなく、感じることなのです。

あのエンディング、作品中のタブー、考察について

ちょうど不自然さに慣れてあのファミリーにほのぼのしていた時に、ラストで急にその感情をひっくり返されました。最初からあのエンディングで心は決まっていたのですか?

ヨハンソン監督:あれは最初から決まっていました。ただ、受け取り方は観る人次第だと思っています。ちなみに、私のショートフィルムも似たようなトーンのエンディングが多いんですよ。

アダちゃんの存在やマリアとぺトゥールの関係など、この作品は色々なタブーに触れていますよね。他に、取り入れようと検討したものの無くしたものはあるのでしょうか?

ヨハンソン監督: プロデューサーと脚本について話すなかで、さまざまな問題(テーマ)について議論しました。議題にあがった問題のなかで、意図せずして結果的に映画の中に入り込んだものもあれば、変更したのに映画の中に結果的に残ったものもあります。

画像1: あのエンディング、作品中のタブー、考察について
画像2: あのエンディング、作品中のタブー、考察について

観客に“次に絶対に悪いことが起こる”と思わせて惹きつける暗示を非常にうまく使われていますが、これはどのように達成されたことなのでしょうか?

ヨハンソン監督:ポーランド出身の素晴らしいエディターであるAgnieszka Glinskaに編集を担当してもらいました。最初からスローシネマにしたいと決めていて、しごく普通のことが起きているのに、何かが起こるかもと思わせるようにしたいという意図がありました。これを意識して脚本が書かれたというのもありますね。

監督は、この映画の解釈は観客それぞれにゆだねるとされていますが、これまでに聞いた解釈の中で興味深かったものはありますか?

ヨハンソン監督:これ、実際に数えたのですが、映画を観たあとに肉を食べるのをやめたという人に10人会いました。今まで観たなかで最高のハッピーエンドだと言ったジャーナリストもいましたね。この映画が気に入らなくても…まぁ気に入ってくれていると嬉しいですが、どうであっても、それぞれが私が思いつかなかったような異なる解釈をしているのはとても嬉しく思います。

日本でのヒットと、気になる次作について

アダちゃんは随分前に来日して日本でPR活動していますが、日本での活躍をどう思われていますか?

ヨハンソン監督:なんて美しいことなんだろうと思って見守っていました。映画『アメリ』で描かれている、アメリの父親のノーム人形が世界を旅するシーンを思い出しましたね(笑)。日本の映画作りが大好きですし、非常に尊敬しているので、日本で映画が歓迎されたことはとても嬉しいです。私たちにとっては予想外の出来事でした。

画像: フロントロウ編集部との取材では「今後も女優としてやっていく」と宣言したアダちゃん。 front-row.jp
フロントロウ編集部との取材では「今後も女優としてやっていく」と宣言したアダちゃん。front-row.jp

お好きな日本の監督や作品はありますか?

ヨハンソン監督:『裸の島』(新藤兼人監督)や、雨月物語(溝口健二監督)、『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)などは好きですね。あと、北野武も好きです。

次作にはすでに取り掛かられているのですか?

ヨハンソン監督:はい、すでに制作は始まっています。何があるか分からないからいつも先に作品について話すのは怖いのですが、ひとつだけ教えられるとしたら、たくさん動物が出てくるということですかね(笑)。

<『LAMB/ラム』作品情報>
【配信】
Prime Videoにて独占配信中
【Blu-ray&DVD】
3月3日(金)発売
発売元:クロックワークス
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

(フロントロウ編集部)

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