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「70歳で住宅ローン」はアリか…人生の成否を分ける"終の棲家"を手に入れるコツ

  • 2023.1.26
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「終の棲家」としてマンション購入や買い替えを検討する中高年が増えている。定年退職や年金生活が迫る状況下での買い方の“コツ”はあるものか。近著『60歳からのマンション学』が話題のマンショントレンド評論家の日下部理絵さんは「『中高年だから』『もう60歳だから』と理想の住まいをあきらめてしまう人も多いのですが、高齢社会の現代では、シニア世代に優しいさまざま選択肢も広がっています」という──。

ライフステージが変わるときは、住まいを見直す大チャンス

人生100年時代。これからの長い人生を有意義に過ごすために、60歳や70歳にさしかかるタイミングで住まいを見直す人は多い。とくに定年退職や退職金の支給、子どもの独り立ちなどのライフイベントがある「60歳前後」は、老後の住まいを考える“絶好のタイミング”である。

しかも、シニア世代にとって、マンション売却の大チャンス到来中だ。

いまはバブル期並みのマンション価格の高騰期。都内では2000年代の新築マンションが、当時の購入価格以上の金額で取り引きされることも珍しくない。

マンション価格が高騰を続けるこの時代において、物件を所有し、すでにローンをほぼ返済しているシニア世代は、それだけで大きな資産を持っているといえる。

親から子に住宅の贈与のイメージ
※写真はイメージです
シニア世代とファミリー世代の需給が一致

さらに、「立地を重視して自宅のダウンサイジング(狭い部屋に住み替えること)を希望するシニア世代」と、「在宅勤務が増えて、家族でゆったり過ごせるファミリーマンションを探している若い世代」とで、需要と供給がぴったり一致するケースも多いのだ。

実際、国土交通省の「令和3年度住宅市場動向調査報告書」によると、住宅を初めて取得する世帯は「30歳代」がもっとも多いが、2回目以上の取得となる二次取得世帯は「60歳以上」がもっとも多い、という結果が出ている。

「60歳前後で初めてマイホームを購入する人」も意外に多い

しかし、中高年のすべてがマイホームを所有しているとは限らない。

「いままで転勤が多く、住み替えのしやすさから賃貸住宅だった」「安価に借りられたため、ずっと社宅だった」「晩婚(あるいは再婚)で、終ついの棲家すみかを視野に購入検討中」などと、60歳前後になって初めてマイホームの購入を検討する人もいるだろう。

立地や広さ、間取りなど、さまざまな視点から検討したり、住宅ローンなどの資金計画をしたりと、やらないといけないことがたくさんある。60歳前後になっての初めての経験に、いったい何から手をつけたらいいのか、不安を抱く人も多いのではないか。

とりわけ予算に余裕がない場合は判断が難しい。手が届く価格帯の物件で妥協すべきなのか、頭金を貯めるより年齢を考えて1日でも早くローンを組んだほうがいいのか、そもそもあきらめるべきなのか……悩みは尽きないだろう。

国民年金の平均月額5万6252円、厚生年金は同14万4366円

まず中高年の収入源の1つである年金受給額を見てみたい。

令和2年度の年金の平均受給額を見ると、国民年金(基礎年金)で月額5万6252円、厚生年金で月額14万4366円とされる。

ずっと自営業だった人など、厚生年金の受給権を持たない人の平均月額は5万2752円と、さらに低い水準となっている。

【図表】国民年金・厚生年金保険受給権者の平均月額推移(令和2年度末現在)

退職金を得る人もいれば、再就職やシニア起業で収入のある人もいるだろう。また、人によってはある程度まとまった預貯金があるかもしれない。とはいえ、この年金月額では、生活費に回す分でいっぱいいっぱいで、とうていマイホームの購入資金にまで至らないことが多いであろう。

そんなとき、中高年でも住宅ローンは利用できるのだろうか。

70歳でも住宅ローンは借りられる

答えからいえば、中高年でも、購入や買い替えを検討する際に諸条件を満たせば住宅ローンを借りることは可能だ。

ただし、注意すべきは「借入時」と「完済時」の年齢制限である。金融機関ごとに住宅ローンの借入時と完済時のボーダーラインが定められており、主要金融機関の「借入時」の年齢条件は70歳前後という設定が多くみられる。

日下部理絵『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)
日下部理絵『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)

かつて借入時の年齢は「65歳未満」が主流だったが、近年では「70歳未満」「70歳の誕生日まで」などに引き上げた金融機関も多く、なかには「71歳未満」に設定されているなど、緩和されてきている。

また「完済時の年齢」においても、「80歳未満」「80歳の誕生日まで」など、80歳前後、なかには85歳未満という金融機関も出てきているのだ。

いずれにしても、中高年の住宅ローンには「年齢の壁」があることを意識しておきたい。金融機関の選定から、必要書類をそろえるなどの手続き、審査通過までには思いのほか時間を要する。数カ月かかることも見越して、早めに行動するのが吉といえる。

現金で足りない分をローンで

さらに近年では、融資可能額について、頭金を用意しなくても物件価格と同額(100%)まで借りられる「フルローン」を認める銀行も増えている。

ネット銀行のなかには、借り入れ時にかかる手数料なども融資する「オーバーローン」もある。年齢、年収、返済負担率などの審査はあるものの、ローンが借りやすい傾向にある。

そのため、高額ローンも通りやすいのだが、定年後も長く続く中高年以降の住宅ローンの返済は、無理をすると老後の生活に影響するばかりか、老後破産に陥る恐れもある。

しかも、60歳前後からの住宅ローンは、借入時と完済時の年齢制限から逆算すると、借りることができても借入期間は15~20年。物件価格の高騰もあり、全額をローンだけでまかなうのは、現実的ではない。現金+ローンの合わせ技になるのが通常であろう。

60歳前後の購入は、貯金や退職金などを充てたうえで、“足りない分をローンで補塡ほてんする”というのがおすすめである。

「リバースモーゲージ」「リースバック」という選択肢

物件価格や手持ち資金などによっては、一般的な住宅ローンを組むことが必ずしも最適な選択とはいかないこともあるだろう。そんなときに、「リバースモーゲージ」や「リバースモーゲージ型住宅ローン」「リースバック」という選択肢がある。

「リバースモーゲージ」とは、自宅(所有不動産)を担保に入れて生活資金を借りる融資の仕組みをいう。また、新たに買う新居を担保に入れて、毎月の返済は利息だけ、亡くなったときに不動産を処分して借入金を返済する「リバースモーゲージ型住宅ローン」もある。「亡くなったときに」と聞くと切ないが、相続問題とは無縁になるメリットもある。

一方、「リースバック」とは、自宅の所有者(売主)がリースバック事業者(買主)に自宅を売却する→買主は買い取り代金を売主に一括払いし、売主は自宅の所有権を買主に移転する→買主を貸主、売主を借主とした賃貸借契約を締結する、という仕組みだ。

売主はまとまった資金を得ることができ、かつ、そのまま住み続けられる。また、物件を自分で所有していないため、管理費等や固定資産税などの維持費が不要になる。引っ越しの手間暇もなければ、近隣に売却した事実を知られることも回避できるだろう。

なお、リバースモーゲージは、「60歳以上」や「70歳以上」などというように一定の年齢以上でなければ利用することはできないが、リースバックの利用に年齢制限はない。

リバースモーゲージとリースバックの注意点

ただし、リバースモーゲージは長生きすればするほど、最初に設定された融資限度額まで資金を使ってしまうリスクがある。

リースバックも、いざというときに配偶者や子どもなどに資産を残すことができない。また、売却価格は相場より低くなる傾向があり、毎月の賃料は相場より高くなる傾向にある。更新時に賃貸借契約を断られてしまうこともあるだろう。

リースバックは、持ち家比率の高いシニア世代で取扱件数が増加している。しかし、売却と賃貸借契約が同時に発生する煩雑さから、理解不足によるトラブルも起こっている。

利用する場合は、事業者の説明をよく聞き仕組みを理解すること、専門家などに相談して長期的な計画を立てることをおすすめしたい。

賃貸という選択肢

終の棲家として、新たに物件を購入するほか、持ち家から新たな持ち家に買い替える、現在の持ち家を売却して賃貸物件に住み替えるという選択肢もある。賃貸と分譲のどちらがいいかは住む人によって変わるが、賃貸のいいところは、身軽に住み替えができる点だ。

たとえば、終の棲家と思って入居したところ、近くに騒がしい住民がいて「住環境がよくない」と感じたとしたらどうだろう。賃貸ならば気軽に引っ越すことができる。また、天災などで建物がダメージを受けても、次の家に移りやすいことは大きな利点である。

「賃貸だと、自分のものにならないから……」と敬遠する方もいるが、見方によっては、家の相続問題とは無縁となり、メンテナンスの手間が掛からないので「気が楽だ」ともいえる。

一方、デメリットとしては、分譲マンションに比べ、専有部分や共用部分などが全体的にワンランク下がる可能性が考えられる。

これまでの生活とこれからの生活の間に立つ標識
※写真はイメージです
年齢で断られないUR賃貸

また一般的に、60歳以上になると賃貸物件は借りにくくなるといわれる。オーナーの意向と、保証人を代行する保証会社の審査が影響するためだ。

そこで、年齢で断られることがない都市再生機構(UR)で賃貸物件を探すのも手だ。

URは、本人確認のみで保証人や保証料は不要。家賃は高めだが、礼金・仲介手数料なし、更新料不要で、費用面での負担を抑えられる。

東京都内なら、URより割安な東京都住宅供給公社(JKK東京)もある。ほかにも高齢者向け優良賃貸住宅や、サービス付き高齢者向け住宅も増えている。

「もう60歳」ではなく、「まだ60歳」

「中高年だから」「もう60歳だから」などと、年齢を理由に理想の住まいをあきらめる必要はない。たしかに60歳は人生の分岐点かもしれないが、同時に通過点でしかないともいえる。「もう60歳」ではなく、「まだ60歳」。中高年にもたくさん選択肢があることを、ぜひ覚えておいてほしい。

住まいほど人生に密着したものはない。

どんな人の人生にも、その中心に家がある。家が理想的な状態であれば、心のよりどころになって、安心して外に行くこともできる。

住まいは人生の拠点であるとともに、幸せの象徴ともいえる。いくつになったとしても、「納得できる住まい」に出会い、よりよい人生を歩まれることを願ってやまない。

日下部 理絵(くさかべ・りえ)
住宅ジャーナリスト
第1回マンション管理士試験に合格。新築などマンショントレンドのほか、数多くの実務経験、調査から既存マンションの実態に精通する。著書に『マイホームは価値ある中古マンションを買いなさい!』(ダイヤモンド社)、『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)など多数。

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