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親の老化のサインに気づいたら…貯金通帳や生命保険より先に保管場所を確認すべき"超重要書類"

  • 2023.1.16
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元気に暮らしているように見える親だが、どのようなタイミングで介護の準備をしたらよいのだろうか。精神科医の井上智介さんは「まとまって親の生活の様子を見ることができる年末年始の帰省は、親の老化のサインに気付く良い機会。12のチェック項目を確認し、一つでも当てはまったら、すぐに行動に移してほしい」という――。

手すりにしっかりつかまり、慎重に階段をおりるシニア女性
※写真はイメージです
親の異変を見逃さない、12のチェック項目

年末年始の帰省は、親の加齢による変化を知る良い機会になります。ただ、意識しないで親と過ごしていても、なかなかこうした変化には気付きにくいものです。

身体や認知、精神面で加齢による衰えがあらわれはじめ、生活に不自由が生じるようになっても、住み慣れた家で暮らしていると、本人はなかなかその不自由さに気付きません。子ども世代が、できるだけ早く変化に気づき、対策を取ってほしいと思います。

では、子どもが気を付けるべき親の変化とは、どんなところでしょうか。親の様子を思い出し、次の12点に当てはまるものがないか、確認してみてください。

① 外出することが減り、週1回も出かけなくなった
② 階段を上り下りするときに、手すりをつかむようになった
③ 硬いものを食べなくなった。食べても食べにくそうにするようになった
④ 飲み物や汁ものを飲むときに、むせることが多い
⑤ 寝転んで過ごすことが増えた
⑥ これまで好きだったことに興味を示さなくなった
⑦ 今日の日付を間違えることが増えた
⑧ 季節はずれの服装をしている
⑨ 同じ話題を頻繁に繰り返すようになった
⑩ トイレや部屋の、電気のスイッチの切り忘れが多い
⑪ すぐに怒ったり、泣いたりなど、感情の起伏が激しくなった
⑫ 急ブレーキをするようになった、車にキズが増えたなど、車の運転に不安が出てきた

大きくは、①から⑤が身体に関わる変化、⑥から⑫が認知などに関わる変化です。ひとつでも該当する項目があれば、ぜひアクションを取ってください。どのようなアクションを取ればいいかについては、あとで詳しくご説明します。

ポイントは「変化」

見るべきポイントは「どう変わったか」です。たとえば①については、以前は毎日のように外出していた人が、週に1回しか外出しなくなった場合は、大きな変化ととらえた方がいいでしょう。これまでは手すりにつかまらずスムーズに階段の上り下りをしていた人が、必ず手すりをつかむようになる(②)のも同様です。

食べるときの様子も注意してみてください。硬いものを食べなくなったり、食べにくそうにしている様子があれば(③)、かむ力が衰えている可能性が高いですし、むせることが増えていたら(④)飲み込む力(嚥下えんげ)の低下がうかがわれます。

居間でくつろいでいる時など、前は座椅子やソファなどで座っていたのに、寝転んでテレビを見たりしているなど、横になることが増えた(⑤)という場合は、体を支える筋肉が落ちている可能性があります。

精神面の変化にも注意

これまで好きだったことに関心を示さなくなった(⑥)という変化も要注意です。たとえば毎年、大みそかには、NHKの紅白歌合戦を楽しみにしていたのに、「別にもういいわ」と関心を持たなくなるといったことなどがあるでしょう。

僕ら精神科医が認知症の診断をする際に参考にするのが⑦の、今日の日付をわかっているかどうかです。さらに一歩進んで、⑧のように、季節感がわからなくなることもあります。年末年始に買い物に行こう、初詣に行こうというときに、薄着で外出しようとするなどです。反対に、夏の暑いときに、冬のような厚着でいるのも要注意です。

年を重ねると、1回した話を、またしてしまうということはよくありますが、同じ話題を3時間おき、半日おきなど、短時間に何度も繰り返すようになっていないか(⑨)、気を付けてみてください。テレビやトイレ、部屋の電気のスイッチを切り忘れたりすること(⑩)には、物忘れの進行が表れます。

感情の起伏が激しくなる(⑪)というのも、認知症の兆候として挙げられます。以前はそんなことはなかったのに、急に泣いたり怒ったりと、感情のアップダウンが激しくなっていないか、親の様子を思い返してみてほしいとおもいます。

車の運転にも、老化のサインは出やすいので、親が普段車の運転をしているのであれば、できるだけ本人が運転する車の助手席に乗ってみてください(⑫)。急ブレーキを踏んだり、道に迷ったりすることが増えていないでしょうか。高速道路で、合流が苦手になったりしていないかどうかもチェックポイントです。親が運転する車に乗る機会がなかった場合は、車のキズが増えていないかを見るだけでも参考になります。

一つでも当てはまったら地域包括支援センターに連絡を

これらのチェック項目に一つでも該当した場合は、親が住む地域の「地域包括支援センター」に相談してください。

地域包括支援センターとは、一言でいうと「高齢者のためのお悩み相談窓口」です。全国5000カ所以上に設置されていて、ケアマネジャー、社会福祉士、保健師など、介護や医療、福祉のプロたちが大集合しています。担当エリアが決まっているので、実家がどこの包括支援センターの管轄なのか、ホームページで検索したり、役所に聞いたりして確認し、そこに連絡します。

「今、うちの親がこういう状態なんですけど」と相談すると、現状に合わせて最適解をはじき出してくれます。必要に応じて、ケアマネジャーなどの担当者が家に来て、本人の状態を確認し、どうしたらいいかアドバイスしてくれます。介護サービスを受けるための介護認定の申請の方法を教えてくれたりもしますし、親と離れて住んでいる場合には、代理で申請をしてくれます。手すりをつけたり段差をなくしたりといった家のバリアフリーを考えるときにも、相談に乗ってもらえます。

すぐに介護や医療の介入が必要でないと判断された場合でも、センターでは管轄のエリアにどういう高齢者がいるのかを把握する役割があるので、担当者が定期的に様子を確認し、何かあれば子どもに連絡をくれるようになります。

「単なる老化」と放置しない

①から⑤のような身体の衰えについては「単なる老化だ」「自然なことだから」と、大ごとにとらえずそのままにしてしまいがちです。しかし、少しの違和感を見過ごさず、早めに地域包括支援センターに連絡しましょう。

⑥から⑫の認知に関わる変化については「認知症なのではないか」と驚いて、慌てて動き出す人が多いです。本人抜きで、子ども世代だけで精神科に相談に来られることもあるのですが、残念ながら、本人抜きで病院に来られても、私たち精神科医にできることはありません。本人以外の家族の話を聞いただけでは、診断ができないからです。

ですから心配なことがあったら、まずは地域包括支援センターに連絡しましょう。そのほうが二度手間になりません。どの病院に連れていったらいいか相談することもできますし、受診する際に親が抵抗した場合でも、担当の人がうまく説明して同行してくれたりすることもあります。

早ければ早いほどいい理由

確かに体は衰えていて、手すりはつかんでいるけれど一人で階段の上り下りはできる。物忘れはあるけれど、すべて忘れているわけではないし、コミュニケーションはとれる。「まだ介護が必要なほどではないだろう」と、地域包括支援センターに連絡することを躊躇する人は多いです。でも、まだ元気にみえるうち、早いタイミングで親が住む地域の専門家たち(つまり地域包括支援センター)の手を借りることが大切です。

なぜなら医療も介護も、早ければ早いほどいいからです。病気が進行してから病院に来られても、医者ができることが限られてしまうように、介護も、体や認知の衰えが進行してしまってからでは、支援を受けるのがどんどん困難になってきます。

介護はどうしても、ケアマネジャーや介護士など、外部の「他人」の手が必要になるのですが、高齢者は年を取れば取るほど、家族以外の人が家に入ってくることに抵抗を示すようになるからです。「親を見捨てるのか」と強い拒否反応を示すことも少なくありませんし、そうすると子どもの方も、打つ手がなくなり追い詰められてしまいます。

ですから、親ができるだけ元気で、まだ身体的にも精神的にも余裕のあるうちから、地域包括支援センターの専門家に入ってもらってコミュニケーションすることに慣れておく。親も、他人が家の中に入ってくることに慣れておく。そして、地域包括支援センターの人たちに、親のことをよく知ってもらうことで、お互いが気持ちよく必要な支援を受けられるようになります。

子どもは親の異変を見逃しやすい

子どもの方は、若くて元気な頃の親の姿を覚えているので、どうしても、親の衰えを認めたくない、気付きたくない、許せないという気持ちから、親を見ていて気付いた老化のサインや「違和感」を見ないふりをして、早いタイミングで相談することをためらってしまいます。そして「ちゃんとしてくれ」「頑張ったらできるだろう」と、励ますばかりになってしまうのです。

しかし、「まだ大丈夫」と思っていても、包括支援センターの担当者が確認したら、バリアフリーの措置が必要だったり、支援や介護が必要だったりということがあります。子どもの方が、親の異変を見逃しやすいという傾向があるのです。これは、離れて住んでいる親子に限りません。近くに住んでいたり、同居している場合も同じです。

介護保険証のありかを知っておく

最近は、いざというときのために、実家のどこに貯金通帳、生命保険の証書、家の権利書などの貴重品がしまってあるか、帰省したときに確認しているという人もいると思います。その時に併せて確認してほしいのが、親の「介護保険被保険者証(介護保険証)」のありかです。

介護保険証は、介護認定を受けたりするときに必要になるものです。しかし、65歳で自治体から送られてくるので、70代や80代になって実際に必要になったときには、「10年以上も前に送られてきたので、どこにしまったかわからない」と、行方不明になっていることが多いようです。もし紛失していることがわかったら、再発行の手続きまでしておくと、いざというときに慌てずに済みます。

要支援・要介護認定の申請は、包括支援センターの担当者に代理で行ってもらうことができます。介護保険証がどこにあるかがわかれば、担当の方に「あの引き出しにあります」と伝えて申請してもらえます。

財布を開けて中身を確認しているシニア女性
※写真はイメージです

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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