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蚊に刺されやすい原因解明した高校生、コロンビア大からオックスフォードへ。家庭から受けた3つの影響とは?

  • 2023.1.16

数年前、蚊に刺されやすい妹が不憫で蚊の研究を始め、足裏の常在菌の種類が多いほど蚊に刺されやすいことを突き止めた高校2年生が話題になった。彼の名前は田上大喜さん。NHKの「ためしてガッテン!」などテレビ番組でも取り上げられたので、覚えている方も多いのではないだろうか。彼はその後、米コロンビア大学へ進学、2022年5月には同大学院で学士号と修士号を同時取得し、10月にはイギリスの名門、オックスフォード大学博士課程に進んだ。

その彼を最初にメディアで紹介したのが、サイエンスライターの緑慎也さんだ。緑さんが田上さんに興味を持ったのは2015年。週刊誌の記事でスーパー・サイエンス・スクール(SSH)を取材した時、当時1年生だった田上さんは、「一生に一度しか交尾をしないヒトスジシマカの雌に2時間で10回以上交尾を起こさせるには」というテーマで研究に取り組んでいた。

緑さんの新著『13歳からのサイエンス 理系の時代に必要な力をどうつけるか』(ポプラ社)では、5年ぶりに田上さんを取材している。その後も蚊の研究を進めた田上さん。肌の水分量が、蚊に刺されやすいかどうかを決めることも突き止めた。また、高1のころには妹と一緒に「摩擦係数の測定による『おむすびころりん』が実現可能であるかどうかの検証」にも取り組んでいる。とにかく「なぜ?」と思ったことを突き詰めて考える思考力と、実際に蚊を何千匹も飼育したり、おむすびを何回も転がしたりする行動力、粘り強さが並外れている。

田上さんは子どもの頃に「家族から受けた影響」として、絵本とそろばん、そして、リビング学習の3つを挙げている。実は、実験に協力した妹もコロンビア大学に進学したという。彼らがどんな家庭で、どんなふうに育ってきたのか、詳しくは本書で確かめてほしい。

「科学の方法」はどんなジャンルにも応用できる

本書ではほかにも、落ち葉に裏向きが多い理由を探ったファンタジー小説好きの高校生や、不登校を経て、世界初となる数学の証明に挑んだ高校生、高校時代に麹菌を研究し、東大理学部からコンサルタントに転じた会社員など、科学コンテストの受賞者8名が登場する。緑さんは、彼らの幼少期の経験まで遡り、好奇心の芽をどのように育て、科学的に考える力と、それを行動に移す力をどのように身につけていったのかを、ていねいに取材している。
また、ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんと、米テキサス大学オースティン校冠教授の鳥居啓子さんにもそれぞれ取材し、「理系の時代に必要な力をどうつけるか」を聞いている。

本書は、我が子に科学に興味を持ってほしい、科学的な見方を身につけてほしいと願う親御さんの参考になるに違いない。そして、科学の考え方を身につけていれば、理系だけでなく、あらゆる分野で活躍できることを教えてくれる。

緑さんは「あとがき」で、次のように述べている。

「仮説を立て、実験し、検証するのが科学の方法だ。それぞれの段階には様々な能力が求められる。仮説を立てるには、たとえば身の回りの出来事を注意深く観察して問いを見出し、問いを洗練させるため過去の文献を念入りに調べなければならない。実験では、仮説に白黒を付けられる条件を設定する構想力が、検証では、実験結果から導けないことは主張しない自制心が必要だ。
これらの能力を若いうちに身につけておけば将来、科学者になるときにはもちろん、そうでない場合にも役に立つ。スポーツ選手なら練習方法(仮説)を考え、練習して大会(実験)に出場し、その結果に応じて練習方法を改善(検証)する。ビジネスパースンならビジネスプラン(仮説)を立て、市場調査を経て製品・サービスを市場に投入(実験)し、その結果に応じて生産量の調整やマーケティング方法の変更(検証)に取り組む。いずれも科学の方法と基本は同じだ。
科学の方法は新たな発見をもたらす方法として発展してきた。どんなスポーツも、どんなビジネスも、他の人と同じことをやっても競争相手に勝つことはできない。だからこそ新しさが求められる分野で、科学の方法は特にその威力を発揮する。」

本書に登場する若者たちは、確かに子どもの頃から非凡な才能を持っていたのかもしれないが、周囲の大人のサポートと、好きなことを自由にやらせる姿勢など、好奇心を「つぶされない環境」に恵まれていたという共通点も見えてくる。凡庸な子どもなど、一人としていないのではないだろうか。子どもたち一人ひとりの「これ、おもしろい!」を伸ばす教育が求められている。

■緑慎也さんプロフィール
みどり・しんや/サイエンスライター。1976年、大阪生まれ、福岡育ち。出版社勤務を経て、フリーランスとして、週刊誌や月刊誌などにサイエンス記事を執筆。著書に『認知症の新しい常識』『消えた伝説のサル ベンツ』、共著に『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』など。

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