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1950年代に予見された「妻無用論」、半世紀で反転。無用だったのは......

  • 2023.1.13
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日本のフェミニズムの先駆者として知られる上野千鶴子さんが、フェミニズムの視点から文学を読み解く新著を発表した。2000年の著書『上野千鶴子が文学を社会学する』(朝日新聞社)の続編として、『上野千鶴子がもっと文学を社会学する』(朝日新聞出版)と題されている。

本書では、林真理子、川上未映子といった現代作家の作品から、柳田国男などの古典、ジブリ映画『魔女の宅急便』から江戸の春画まで、日本を中心にさまざまな文学・文化を、上野さんが独自の視点で読み解いている。

本書の冒頭で取り上げているのは、上野さんが初期の自著にも収録したという、生態学者・梅棹忠夫さんの「妻無用論」だ。1959年の評論だが、なんと現代の家庭のあり方を見事に言い当てているという。当時はまだ食事も衣服も、主婦が家庭内で作るのが当たり前だった。しかし梅棹さんは時代の潮目を敏感にキャッチし、こう書いていた。

「家庭ではお料理はいたしません、ということにしたら、たちまち主婦はらくになるではないか。(中略)すでに料理してあるもの、つまりレディー・メードの食品を買ってくればよい」
「着るものなんか、既製品を買ってくるか、あるいは専門家につくってもらうかすべきものである。(中略)これからの女は、どちらにせよ裁縫なんかできなくてもよいのである。既製品のなかから自分にあうものをみつけだすセンスさえもっていたら、それでじゅうぶんではないか」

事実、現代はできあいの総菜を食卓に持ち込んで食べる「中食(なかしょく)」が当たり前になり、衣服に至っては、自分の手で縫って着ているという人はほとんどいない。まさに梅棹さんが予見した通りの社会になった。

こういった発想から、梅棹さんは「妻(専業主婦)無用論」を唱えた。家事を省力化し、女性も何かほかの生産活動に参加するよう促したのだ。さらに、結婚が当たり前だった時代において「一生独身ですごすひとが、たくさんでてきたところで、おどろくにはあたらない」とも書き記している。

しかしこのあとの1960年代は、梅棹さんの予見に逆らって、「男はサラリーマン・女は専業主婦」という夫婦のあり方が広く固定化していく。「妻無用」に近い社会がおとずれたのは、2000年代以降のこと。晩婚化・非婚化が進んで、未婚女性が「負け犬」と呼ばれ、のちに「おひとりさま」ブームがやってくる。上野さんは、「妻無用論」から約50年の間に「事態は反転していた」と指摘する。

「負け犬」世代と「おひとりさま」とは、「妻無用」ではなく、「夫無用」を宣告した女たちだったからである。

文学が言い当てた社会、実際は違う道をたどった社会、そして文学の中に書き残された当時の社会。文学を社会学で読むと、新たな深みが見えてくる。

○目次より 一部抜粋
1 家族はどこからどこへ
食を切り口にした鮮やかな戦後女性史/どぶろくと女への二千年の愛と怒り
2 女はどう生きるのか
女ひとり寿司は最後の秘境/喪失のあとに おひとりさまになってから
3 男はどう生きるのか
なぜ魔女のキキは一三歳なのか?/モテたい男のカン違い
4 文学と社会学のあいだ
東アジア儒教圏の負け犬たち/母性賛美の罠 父の不在と母の過剰
5 色と恋
春画はひとりで観るもんじゃない/夜這いを実践した民俗学者
6 老いと介護
老い方に「技法」はあるか/「息子介護」に学ぶ もうひとつの男性学
7 思いを受け継ぐ
てっちゃんはNPOの先駆者だった/京おんなは稀代のネットワーカー

■上野千鶴子さんプロフィール
うえの・ちづこ/1948年生まれ。社会学者、東京大学名誉教授。専攻は、女性学・ジェンダー研究。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長、元日本学術会議会員(現在は連携会員)、アメリカ芸術科学アカデミー会員。日本のジェンダー研究のパイオニアであり、高齢社会と介護についても研究している。『近代家族の成立と終焉』『生き延びるための思想』(岩波書店)、『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』(法研)、『おひとりさまの最期』『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(朝日新聞出版)、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)など著書多数。

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