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【解説】深い“原宿愛”で知られる米シンガーの「私は日本人」発言が物議のワケ

  • 2023.1.11

シンガーであるグウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言して物議を醸している。「Harajuku Girls」というシングルをリリースしたり、バックダンサーに日本人や日系アメリカ人を起用したり、キャリアを通じて日本愛をオープンにしてきたグウェンの発言が問題視されている理由とは?(フロントロウ編集部)

グウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言

ノー・ダウトのシンガーとしても知られるグウェン・ステファニーが米Allureとのインタビューで語った「私は日本人」という発言が議論の的となっている。

画像: グウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言

ご存知の方も多いと思うが、グウェンはキャリアを通じて日本への愛を公にしてきたシンガーで、ソロとしてデビューしてしばらくは、「原宿ガールズ」と名付けた日本人と日系アメリカ人のバックダンサーたちをステージに起用。同名のシングル「Harajuku Girls」もリリースしたほか、2008年には同名のフレグランスのラインも発表した。

グウェンはこれまでにも、原宿カルチャーからの影響を反映することが“文化の盗用”にあたるのではないかと議論の的となってきたのだが、今回、米Allureとのインタビューで自身が日本の文化から受けてきた影響についてコメント。アイルランド系の母とイタリア系の父のもとに生まれた、米カリフォルニア州アナハイム出身のグウェンは、日系企業のヤマハに勤めていた父親から聞く日本文化の話に魅了されてきたそう。

文化の盗用(Cultural Appropriation)
あるグループ特有の文化をそのグループに属さない人が流用して利用することで、主にマイノリティの文化を流用したときに起こりやすい議論。マイノリティのファッションや言語、音楽などが世界中で楽しまれるなかで、社会の中でマイノリティの差別がなくならないことは、矛盾しており間違っているという考えが背景にある。

18年にわたってカリフォルニアと日本を行き来していた父親から受けた影響について、グウェンは次のように振り返った。「私が受けた日本の影響はそこから来ていて、立派な伝統を持ちながらも、未来的で、芸術やディテール、規律にまで細心の注意を払うようなカルチャーに私は魅了されました」。

画像: 2004年にビルボード・ミュージック・アワードに出席したグウェン・ステファニーと「原宿ガールズ」たち。
2004年にビルボード・ミュージック・アワードに出席したグウェン・ステファニーと「原宿ガールズ」たち。

父親から聞いた、カラフルなヘアをしたスタイリッシュな日本の女性たちに憧れたというグウェンは、大人になって原宿を訪れた際に実際にそうしたカルチャーを目の当たりにし、こう思ったという。「『驚いた。私は日本人なんだ。知らなかった』と思いました」。

グウェン・ステファニーの「私は日本人」発言が問題視されるワケ

グウェンは「私は日本人」という発言について、日本文化の「大ファン」としての「純粋な気持ち」からくるものだとしているが、今回、これが“文化の盗用”ではないかと欧米で議論の的に。このインタビューを担当したフィリピン系アメリカ人のエディターであるジェサ・マリー・カラオ(Jesa Marie Calaor)氏は「ステファニーが悪意や傷つける意図を持ってこうした発言を行なったとは思わない。しかし、傷つける可能性を持つのが必ずしも敵対的な言葉とは限らない」と記して、グウェンの発言が問題をはらんでいる可能性を指摘した。

画像: 2016年に来日公演を行なったグウェン・ステファニー。
2016年に来日公演を行なったグウェン・ステファニー。

カラオ氏によれば、グウェンはインタビューを通して複数回「私は日本人」と発言したといい、さらには、自分には「(自分の生まれた郡である)オレンジカウンティの女の子の部分が少しと、日本人の女の子の部分が少しと、イギリス人の女の子の部分が少し」あるとも語ったほか、出身地であるアナハイムのラテンやヒスパニックのコミュニティからも影響を受けたとして、「そこの音楽や、女の子たちのメイクの仕方、服の着方、それが私のアイデンティティでした」とも語った。

グウェンはさらに続けている。「私はイタリアン・アメリカンで、アイリッシュであれ何のミックスであれ、それが私の出自なのです。私の周囲にいた人たちなのですから」。

他の文化からの影響を反映させることはcultural appreciation(文化の賞賛)かcultural appropriation(文化の盗用)かという議論は常に続いてきたが、ペンシルベニア大学のファリハ・I・カーン博士は米Allureに、それが盗用になるかは“商業化と不平等な力関係”が鍵になるとして、「あるグループが別のグループから歴史的に周縁化されていたり人種で分けられていたりした場合、力関係の問題が文化の盗用における中心となります」「支配的なグループは、周縁化されたグループの習慣や慣例を、元々の脈絡や意義なしで利用(もしくは盗用)する力を持っているのです」と説明した。

グウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言した理由

日系ではないグウェンが「私は日本人」と発言したのは文字通りの意味ではなく、ヒスパニックやラテンの文化も「アイデンティティ」になっているとした発言も含めて、自身がそれらの文化から影響を受けてきたという意味であり、グウェンは「もしも美しい何かのファンであることや、それをシェアすることで私が批判されるのであれば、それは正しいことではない気がします」と米Allureに語って、自身の発言を擁護している。

画像: グウェン・ステファニーが「私は日本人」と発言した理由

さらに、「あれは美しいクリエイティビティの瞬間でした。原宿カルチャーとアメリカのカルチャーによる卓球のラリーのような瞬間だったのです」と、自身の表現は原宿からの影響とアメリカからの影響をミックスしたものだったとして、「他のカルチャーにインスパイアされてもいいはずです。それが許されなければ、人々は分断されることになります。そうではありませんか?」と提起した。

グウェンは2021年にも日本文化に対する自身のスタンスについて同様の発言を行なっており、米Paperとのインタビューで「もし私たちが別のカルチャー同士を買ったり売ったり、取り入れ合うようなことをしていなければ、ここまでの美しさを手にすることができていなかったと思います」「私たちはお互いから学び、お互いにシェアし合い、協力しながら成長していくのです」と語っていた。

一方で、とりわけ新型コロナウイルスの発生後に、欧米では日系人を含むアジア系へのヘイトが増加したのも事実。米Allureのカラオ氏は、自身はアジア系として日常的にヘイト犯罪に巻き込まれる恐怖があるとした上で、「苦痛や恐怖にもなり得る物語の一部になることなく、この活気に満ちた創造的なコミュニティの一部になれる人のことを羨ましく思う」とも記している。

グウェンの表現や発言には日本カルチャーへの愛や賞賛する気持ちがあることは確かだが、本人が好意の意味でやっていても、その文化に属する人が直面する社会的な問題に目を向けない場合は文化の盗用と判断されてしまう場合がある。さらに今回に関しては、とくに、「日本の文化が好き」ではなくあえて「私は日本人」という言い回しにしたことに不快感を覚えている人が欧米では多いよう。Harajuku Girlsのようなファッションが好きだから日本人になれるのではなく、日本人は多様な歴史や文化を背景に持つ国民なのだ、という意見が聞かれている。SNS上では、今回の件が文化の盗用か賞賛かについて議論が飛び交っている。(フロントロウ編集部)

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