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熱帯植物が生い茂り、小鳥が飛び交う。植物学者・パトリック・ブランの机と仕事場

  • 2023.1.12
植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場

変化し続ける緑と動物に囲まれた、唯一無二の机

金属の細い脚に薄い木の板を載せた仕事机を「水に浮かんでいるような軽さがとても気に入っている」とパトリック・ブラン。ここから周りを見渡せば、さまざまな熱帯植物が生い茂り、その間をカラフルな小鳥が飛び交っている。ガラスの床下に視線を移せば熱帯の魚が悠々と泳ぐ。これが「植物の壁」を世界中に出現させ、都市や建築の風景を塗り替えてきた稀代の植物学者の仕事場だ。

植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場
水槽上部の表面積は約45m。その水面の25%が空気に触れるよう、床の一部に通気性のある金属板を用い、2辺の縁を開けた。そこから響くかすかな水のせせらぎも、この仕事場の魅力。

十数年前に購入した家には、外に開けた窓や扉はない。中央に吹き抜けはあるが、4面を壁に囲まれた、ロフト付きの2階建てだ。が、これこそがパトリックが求めていた熱帯雨林の森を自宅に創るにふさわしい建築的環境だった。

深い森の上部から差し込む光を頼りに植物が繁茂するジャングル。そんな採光を再現し植物の壁を造った。そして生息する魚が養分を生み出す、豊かな温水が循環する巨大な水槽を仕事場の床下に構築した。

「水草が水を浄化し、魚のフンが植物を育て、魚の死骸を南米の亀が食べる。水辺に生きる多様な生命がほかを生かし、ほかに助けられて生きる。そんな生態系を作りたかった」と、パトリック。少年の頃から半世紀にわたり研究を重ねた末の、仕事場に不可欠なエコシステムの完成だった。

植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場
家の完成時に母から贈られた机。PC作業をしたり、「植物の壁」の植物分布を描いたりする。足元は年中ビーチサンダル。机上の必需品は、双眼鏡とカメラ。
植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場
植物の壁を背に、片方の壁面は2階の天井まで続く巨大な書棚。木箱を重ねた安価で丈夫な書棚は、耐水性に優れて水辺にも適するのだと彼は言う。
南国の小鳥
トロピカルな空間を謳歌する色鮮やかな南国の小鳥12種も。葉やコケ、枝などを材料に巣作りし産卵する。雑穀やマドレーヌを混ぜた手作りの餌を与える。
植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場にある水槽
床下に広がる大水槽。ガラス張りになったサイドから覗けば、まるで熱帯水族館。ガラス内側の藻は小魚がついばむので、水槽内の掃除もさほど必要なし。

机上には、PCと筆記用具、眼鏡。そして、いつでも植物や小鳥を眺められるようにと、双眼鏡と記録用のデジタルカメラを用意している。

「ここでは音楽はかけない。小鳥のさえずりがBGMだからね。仕事の息抜きは生き物たちを観察すること。あえて僕のデスクの難点は、と聞かれれば、小鳥のフンが時々降ってくることかな」

熱帯植物に囲まれて心静かに机に向かう彼をこの生命に満ちた仕事場そのものが包み、生態系の一員として受け入れているかのようだ。

植物学者、アーティスト・パトリック・ブラの仕事場
シダやツタ、コケなど世界の熱帯雨林に生息する植物200種以上が繁茂するパトリック・ブランの仕事場。熱帯魚や亀が生息する水槽の天井をガラス張りの床として、その上に机を配置。

profile

植物学者、アーティスト・パトリック・ブラン

Patrick Blanc(植物学者、アーティスト)

パトリック・ブラン/1953年生まれ。フランスCNRS(国立科学研究所)の熱帯雨林植物研究者として勤めたのち退職。発見した新種も多数。水槽内の環境作りと植物の共生に長年取り組み、壁面をさまざまな植物で覆う「植物の壁」を発明。これまでに世界各地で300件以上ものプロジェクトを手がけてきた。現在もインドのケンペゴウダ空港ほか多数のプロジェクトが進行中。

HP:https://www.verticalgardenpatrickblanc.com/

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