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パートナーと生きるということ メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.30

  • 2023.1.10

自分の気持ちばかりを押し付けるのではなく、相手を認め、リスペクトすることが大切です

木に刻まれた文字
いつか、誰かが刻んだ心。

仕事やプライベートで出会い、いつの間にか惹かれ合い、気づけば特別な存在となる「パートナー」。特に恋愛においては、結婚したい・したくない、生活を共にしたい、何でも話し合いたい、子どもがほしい・ほしくない…など、人によってパートナーシップにかかわる価値観はさまざま。だからこそ、なかなかパートナーシップを結べず、独りでいることに悩みや焦りを感じる人も。パートナーがいなくても幸せになることはできるけれど…この揺れ動く気持ち、吉川さんはわかりますか?

「パートナーがほしいと思う根底には、生物としては2つの本能がある気がします。その1つは、子孫を残すためですが、みんながみんな、子孫繁栄のことを考えてカップルになっているわけではないことは間違いありませんよね。でも、行き着く先がどこであれ、容姿や声、ニオイ、ムードなどに惹かれて近づいていった結果、互いに求め合うパートナーになるわけです」

赤い二つの花
花が二輪。

「その行動の元となるのが、 “寂しいから”“心地いいから一緒にいたい” というもう1つの本能だと思うのですが、意外とこういうときって、相手の気持ちはあまり考えないことが多いんじゃないかなと思います。ましてや、その先にあるかないかもわからない子どものことなんて、もっと考えないと思うんです。

『私はいろいろ考えている』と言う人もいるでしょう。でも、自分の気持ちである『好き』『一緒にいたい』『会いたい』というのが先走らないと何も始まらないわけだから、その気持ちを盛り上げる『“自分に対する気持ち”以外の相手のことはあまり入ってこない』というのは、パートナーシップが始まったばかりのときは普通なのかもしれません。

しかしパートナーシップとは、相手あってのこと。『思ったような反応をしてくれない』『仕事が忙しい』『自分の要望を聞いてくれない』など、自分の気持ちを押し付けていたのでは関係は長続きしません。いい関係でいるには、相手の立場や気持ちを考え、リスペクトすることが重要。そのためにはまず、自分を“知る”ことが大切だと思うんです」

自分も不完全な存在だと知ると、相手を許容できるし、リスペクトもでき、関係が続くはず

つまり…相手の気持ちになって考えるということでしょうか? それはなんとなくわかりますが、自分を“知る”とはどういうこと?

「人は誰でもエゴイスティックで、かつ意外と自分のことを知らないもの。例えば自分のことを思い返しても、パートナーがミスをしたと思ったら、その時点でたいてい『自分→正しい、相手→正しくない』の図ができてしまって、相手を責めたくなったり、正してあげようとしたり、ダメな人だと決めつけてしまったり。でも冷静に考えてみれば、自分だって同じなんです。パーフェクトな人間なんていませんから、誰でも何かしらミスをするし、どんなに努力してもできないことなんていっぱいある。なのに、自分のことは棚に上げ、相手のミスばかりに目がいき、そこを責めてしまったりする。それが積み重なると、相手をリスペクトすることもできなくなってしまい、結局パートナーシップは崩壊してしまう。

でも、そんなに相手ばかりが悪いのか? 自分は完璧なのか? そう振り返ってみる必要がある。時間はかかると思いますが、相手を否定するばかりでなく、“自分もできないことがいっぱいある”と気づけたら、正された側の気持ちもわかるし、お互いのリスペクトにつながるんじゃないかな。

こう言うと、『パートナーを得るのに、修行のように我慢しないといけないのか?』と感じる人もいるかもしれません。僕だって若いときに言われたら、そう思ったに違いないです(笑)。若いときって人生に前向きすぎるところがあって、“自分は完璧ではない、できないことがある”ということに気づきにくいから、相手にも簡単にマルバツをつけてしまう。でも、誰でもきっとそこから始まって、長くつき合い、関係を築くために、いろいろ考えさせられていくんじゃないかと思うんです。

自分がバツを付けた人を排除することばかりしていたら、自分もバツだろうな、ということが見えなくなってしまう。僕も含めて、なんだかんだ、人ってバツが多いですからね。

そもそも“ダメだ”なんて、人から言われたらたまらないですし、“正される”っていうのも心地よくないですよね。僕の基本は、“自分がやられたくないことはやりたくない”なんです。自分なりに一生懸命やっているのに、相手が思っている常識とは違っているがために、『そこは求めていない』なんて言われたら、やっぱりショック。こういうことって、人に対してやってはいけないことなんじゃないかな。

相手がどうしようもないポカをして責めたくなったとしても、その場の感情で物を言わない。瞬間のエモーションって実はすごく激しいから、結構取り返しのつかない言葉をぶつけてしまうことも多い。カーッと感情が高ぶることもあるけれど、そういうときはちょっと考えるんです。その場を離れ、トイレに行ったりして時間を置いたりしたほうがいい。

なんだかんだ言って、独りぼっちだと寂しいと言う人は多い。これって根源的なものだと思うのです。だからこそ、人や動物、生き物同士の関係が始まる。相手が愛おしいから、いつか、自分にとって都合よくさせることではなく、リスペクトすることが、関係を深めてくれると気づかされるんだと思います」

「誰かと一緒にいたい」という気持ちは自分の願望から始まっているから、なにかと自分本位になってしまいがち。パートナーシップについて悩んだら、まずはそのことを意識して、相手を受け入れようと思ってみる。そこから、パートナーとの新しい未来が見えてきそうですね。

パートナーと生きるということ メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.30 _3
1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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