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隔てなく外部へとつながる空間構成。行列の絶えない人気カフェ「オガワコーヒー ラボラトリー 桜新町」:東京ケンチク物語 vol.38

  • 2023.1.7

世田谷の町に溶け込む、行列の絶えない人気カフェ。創業70年の京都の老舗がコーヒーの奥深さを教えてくれるこの場には、数多くの建築的アプローチが隠されています。

オガワコーヒー ラボラトリー 桜新町
OGAWA COFFEE LABORATORY SAKURASHINMACHI

背の低い建物が並ぶ光景が心落ち着く、世田谷区桜新町。駅前の通りから一本入ってすぐの場所にある「オガワコーヒー ラボラトリー 桜新町」の佇まいは、とても魅力的だ。巨大な回転窓が開け放たれて通りと店内を隔てるものがなく、さらにスタッフのいるカウンター内部が道路と同じ高さまで掘り下げられている。だから何の気なしに通りを歩いていると、楽しげに立ち働くエプロン姿のバリスタとじかに目が合って、ふいと店へ誘い込まれてしまうのだ。2020年のオープン以来、客足の絶えない人気店であるこちらは、1952年に京都に創業し、半世紀以上にわたってコーヒー豆の輸入・製造を手がけてきた「小川珈琲」による新業態。空間設計は「KUMU金沢」「TSUGU京都三条」など話題のホテルやショップなどのデザインを担当した気鋭のデザイナー、関祐介が行っている。定番だけで21種類以上のコーヒーがあり、フードやスイーツもコーヒーに合うメニューがそろう、コーヒーを多方向から堪能できる場所。いわばコーヒー文化そのものの発信拠点ともいえるカフェ。隔てなく外部へとつながる空間構成は、地道にコーヒーを届けてきた“小川珈琲”というブランドそのものの思いを表すようでもある。

白から淡いグレーをベースにした空間は、大きなコの字のカウンターの周囲にテーブル席をゆったりと配したシンプルな構成。インテリアを印象づけるのは、カウンター中央に立つ白い円柱だ。空間の雰囲気をつくる、巨木のようなこれは、コーヒー豆を保管する“蔵”。オーダーを受けてからコーヒー豆を取りに行き、一杯ずつ豆を挽いて提供するという丁寧なサービスを美しく演出している。各テーブルの脚やカウンター席の床部分に、京都の市電の敷石が使われていたり、カウンター席の足元に伝統的な日本建築と同じ貼り方で和紙が貼られていたりと、京都らしい要素がさり気なくちりばめられているのも大きな特徴。デザインが隅々まで行き届いているのに、絶妙なさじ加減で、いる人を緊張させすぎないのも好ましい。確かな知識や技術を持ちながら、カジュアルで品のよい店のもてなしそのものに呼応する建築空間だ。円柱の“蔵”の佇まいもあいまって、大樹の木陰にいるようなくつろいだ気持ちで、一杯のコーヒーに向き合わせてくれる。

GINZA2022年8月号掲載

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