1. トップ
  2. 恋愛
  3. 経済がよくわからない人も「5分で理解できるインフレの仕組み」と2023年の景気動向

経済がよくわからない人も「5分で理解できるインフレの仕組み」と2023年の景気動向

  • 2023.1.3

身の回りで値上げが相次いでいます。多くの読者にとって、これは初めての体験でしょう。今後の状況がどう動いても、自分で判断して対応できるよういま何が起きているか、なぜこうなったかをしっかり把握しておきましょう。

スーパーマーケットの食品、果物や野菜、より高い価格インフレとより高価な食品の概念
※写真はイメージです
Q1. 相次ぐ値上げ。これがインフレなの?

物価が上がり続ける状態をインフレといいます。反対に、物価が下がり続けるのがデフレです。

日本の消費者物価指数の動きを表したのが図1です。ここでは、値動きの激しい生鮮食品を除いた指数の対前年同月比を示しました。

7月の消費者物価指数は2.4%と、4カ月連続して2%を超えました。過去40年ほどの間で2%を超えた局面は、消費税の導入・増税の時期を中心に数回だけで、いずれも一時的なものに終わっています。

ただ、今回は消費税とは関係なく物価が上がってきています。特に、電気・ガスの料金や食品といった生活必需品が値上がりしているだけに、暮らしへの影響が心配です。

一方、海外の物価上昇は日本の比ではありません。特にアメリカの上昇率は一時9%を超え、5%超の物価上昇が1年以上続いています。欧米は今、インフレの真っただ中です。

何パーセントの物価上昇が何カ月続いたらインフレ、という定義があるわけではありません。日本の物価上昇は欧米ほどではないものの、今の状況は“インフレの入り口にさしかかったところ”といえるでしょう。

図1 消費税に関係なく消費者物価指数が急上昇
Q2. 急に物価が上がったのはなぜ?

身の回りで値上げが急に増えた原因は、商品の製造原価が上がったことです。

世界的なインフレで原材料の国際価格が上がり、コロナ禍やウクライナ侵攻の影響で輸送費も上がり、さらに、急激な円安が輸入価格上昇に追い打ちをかけています。エネルギー価格の上昇で電力やガスなど国内の製造経費も上がり、コスト上昇に耐えきれなくなった企業が相次いで値上げに踏み切りました。

長くデフレが続くなか、ずっと値上げを我慢していた企業が、この機に追随したケースもあるでしょう。

こうした原因によるインフレを「コストプッシュ型」といいます。

一方、海外では、コロナ禍が一段落して消費意欲が盛り上がり、需要の拡大が物価を押し上げています。こちらは景気上昇につながる「デマンドプル型」のインフレです。

日本ではコロナ禍がいっこうに収まらず、自粛ムードが続いています。この物価上昇で消費意欲にさらにブレーキがかかれば、景気回復はいっそう遠のくばかりです。

図2 インフレの2つのパターン
Q3. インフレはいいこと? 悪いこと?

物価が上がるのはちっとも嬉しくありませんが、インフレは決して悪いことではありません。

消費意欲が上がってモノが売れるデマンドプル型のインフレなら、企業に利益が出て給料が上がり、さらに消費意欲が上がる、という好循環が期待できます。物価が上がっても給料がもっと上がるなら、むしろ歓迎ともいえそうです。これが「よいインフレ」で、日本でも高度経済成長期はこの状況が続きました。

ただし、インフレにも「悪いインフレ」があります。それは、不景気のなかで物価上昇が続く「スタグフレーション」と呼ばれる状態です。

不景気で給料が下がっていくときに物価上昇が続けば、生活はどんどん苦しくなります。日本はこのままだと、そんな悪いインフレに突入する可能性があります。

私たちは長い間、デフレになじんできています。物価が下がるのは悪くない、と思うかもしれませんが、これはいわば経済の“ジリ貧”状態。将来のためには、デフレ脱却はどうしても必要な課題です。

図3 よいインフレと悪いインフレ
Q4. インフレで金利も上がる?

世界でインフレが続くなか、各国の中央銀行が続々と政策金利を引き上げています。もし日本でも金利が引き上げられれば、住宅ローン金利が上がるなど、家計に大きな影響が出てしまいます。

コロナ禍が始まった2020年3月、景気悪化を避けるため、世界各国は一斉に金利を引き下げました。金利が下がればお金を借りやすくなり、企業活動は活発になります。これで世界中にお金があふれたことが今回のインフレの背景にあります。

インフレが進んだことで、今度は各国が金利を引き上げ始めました。これは、過熱した景気を冷やし、物価上昇を抑えるのが狙いです。

一方、日本の政策金利は2016年からずっとマイナス0.1%で底ばいのまま。当時は消費者物価指数が2%を超えたら見直す予定でしたが、2%を超えてきた今も景気が回復する気配は見えず、超低金利のまま据え置かれています。

みんなの給料が上がり、確実な景気回復が見え始めない限り、政策金利が上昇することはなさそうです。

図4 金利を上下させる狙い
Q5. なぜこんなに円安になった?

ドル/円レートはこの3月から急速に円安が進み、9月には1ドル=140円台と、20年以上前の水準まで下がりました。これが物価上昇の一因になっています。

この円安の理由はシンプルで、アメリカの金利が上昇したからです。

投資資金は猛スピードで儲かるところに流れます。金利の低い円を売ったり、円で借りたりしてドルに投資すれば、それだけで金利差分がリスクなしで稼げます。

これまでは「有事の円高」という動きがありました。戦争などで世界情勢が不穏なときは、安全資産とみられた円が買われたのです。でも、今回はそうした動きがありません。この理由には、世界的にみればロシアは日本に近いため、日本が安全とみなされないことがあります。

さらに、日本の国力が低下していることも見逃せません。景気低迷からずっと抜け出せず、1人当たり名目GDPは2000年の世界2位から21年には28位まで下がりました(IMF調べ)。通貨は国力を示す鏡でもあるのです。

図5 今の円安はアメリカが金利を上げたため
Q6. 今後の暮らしはどうなる? 今すべきことは?

世界が激動するいま、今後の動きは流動的です。考えられる4つのパターンを図6に示しました。

1つめは、景気がささやかな回復に向かうコース。最も望ましい方向ですが、有効な景気対策が示されないなかでは期待薄でしょう。

2つめは、悪いインフレ(スタグフレーション)に陥るケース。断続的に物価が上がり、家計はジワジワ苦しくなります。現状では、この可能性が最も高いと考えられます。

3つめは、世界のマーケットが大幅下落し、世界同時不況が始まるケース。この可能性があることも頭に入れておきましょう。

4つめは、デフレが復活するケース。世界の変化が始まったいま、逆戻りの可能性は低いと考えます。

可能性の高い順に並べれば、2→3→1→4、になるでしょう。

今後の暮らしを守るうえで念頭に置きたいのは、食料もエネルギーも輸入に頼る日本では長期的な物価上昇は避けられない、ということです。有事のときはもちろん、世界の人口が増えて食料やエネルギーが不足するようになれば、生産国は他国に売ってくれなくなるはずです。

物価が上がれば、相対的にお金の価値が下がります。物価上昇以上に預金金利が上がらない限り、預貯金は目減りすることになります。

この対策として有効なのが投資です。海外資産に投資する投資信託を積み立て購入するといいでしょう。過度な投資は禁物です。何があっても対応できるよう、流動性のある預貯金をしっかり持っておくべきです。

もっと重要な対策は、収入を確保し、さらに増やす方法を探して実行すること。節約だけでは変化に対応できません。どんなときでも稼げる力を身につけることが、家計を守る最も有効な対策となるのです。

図6 今後のインフレ 4つのコース

ハイパーインフレの可能性は?
過度に物価が上がる状態がハイパーインフレ。国際会計基準では「3年間で累積インフレ率100%以上」が定義とされています。
日本でも第2次世界大戦後にハイパーインフレが起きました。原因には、軍事費用として膨大な額の国債を発行したことと、戦禍で生産に壊滅的被害を受けたことがあります。
現在の日本でハイパーインフレが起きる可能性は極めて低いといえます。むしろ、不安を煽る詐欺商法に注意すべきでしょう。

構成・図版=有山典子

深野 康彦(ふかの・やすひこ)
ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。クレジット会社を経て独立系FP会社に入社、96年に独立。30年以上の実績を持つ日本のFPの草分けの1人。さまざまなメディアやセミナーを通じて家計管理や資産運用、マクロ経済まで幅広く発信するとともに相談業務も行っている。生活者の立場に寄り添う解説とアドバイスにファンが多い。『55歳からはじめる 長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)など著書多数。

元記事で読む
の記事をもっとみる