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画期的なサウンドシステムも登場! 宇川直宏「頭蓋骨の中がクラブのフロアになる」

  • 2023.1.2

今や、求められるのは音質だけじゃない。より立体的に、音の世界に浸れる時代へ。新しい時代の音楽体験について、現代美術家、映像作家、VJの宇川直宏さんにお話を伺いました。

メタバースやXRを駆使して音楽はさらに臨場感たっぷりに。

コロナ禍によって大人数で集まることがタブー視され、ライブやフェスの開催手段を変えざるを得なくなってしまった音楽シーン。オーディエンスを入れてライブを行うのが難しくなる中、急速に拡大していったのが配信サービスだ。電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」が有料ライブ配信のサービスを開始したことも大きな反響を呼び、有料で配信を観ることや、視聴時に投げ銭をすることが広く浸透していった。

「ここ数年は、日本中のライブハウスやクラブから“配信のノウハウを教えてほしい”という連絡が来ましたよ。僕らもできるだけ力になりたいから、『DOMMUNE』で蓄積してきた配信システムの知識を託してサポートしてきました。エンターテインメントが一気にサイバースペースに押し寄せてきて、現実から避難しているような状態が長らく続いていましたが、今はウィズコロナ時代に差し掛かり、少しずつ付き合い方がわかってきたような。オンラインの中で生まれた流行がいったん落ち着き、フィジカルの価値が見直されつつあると感じます。ライブストリーミングが日常化したからこそ、“お金を払うなら身体体験として感じたい”という欲求が高まっているのではないでしょうか」

ライブ配信の普及に伴い、より良質な映像と音を届けるためにさまざまなテクノロジーが誕生したが、もちろん観る側の環境も重要。大画面のテレビや高音質なスピーカーなど、自宅での視聴を楽しむためのデバイスがいっそう注目を集めた。

「坂本龍一さんや山下達郎さんが配信ライブを行い話題となった『MUSIC/SLASH』は、高解像度・高音質の動画を届けられるプロミュージシャン向けの配信サービス。これを堪能するためには、自宅の視聴覚環境にもこだわりたいですよね。個人ユースのオーディオとして比較的手に入れやすいであろうヘッドホンも、ここ数年でかなり進化しています。なかでも感動したのが〈ソニー〉の『360 Reality Audio』認定ヘッドホン。専用のスマホアプリで自分の耳を撮影して送信すると、そのデータや使用するヘッドホン固有の音響特性をもとに最適化を行い、より立体的で臨場感のある音の体験を作ってくれるんです。例えるならば、頭蓋骨の中がクラブのフロアになるような感覚。これは、ここ数年で最も画期的なサウンドシステムと言っても過言ではないかもしれません」

このような立体音響技術は、音楽だけでなくゲームにおいても活用の幅が広がっている。例えば、ゲーム内のどの位置にいるかによって聞こえる音が変化したり、移動することで音との距離も遠ざかったり。その技術を応用して、メタバースと「360 Reality Audio」を組み合わせれば、日本にいながら海外の音楽フェスを臨場感たっぷりに楽しめる日も近そうだ。

「マスク着用義務やソーシャルディスタンシングが緩和された今、実在する空間を模倣してミラーワールドを作るより、現実世界を拡張した仮想空間を生み出そうという動きが強まってきています。先日、デジタルアートコレクティブ『METADIMENSIONS』が渋谷の街にARアートピースをちりばめて話題となっていました。これは、リアルな都市の上にデジタルレイヤーを重ねて、そこにコンテンツを展開するというもの。このARの仕組みを使えば、渋谷のスクランブル交差点を舞台に、普通に見ると単なるストリートだけど、スマホを通して見るとライブが行われている、という拡張構造が実現するわけです。移動するたびに違う映像と音が脳内に届く。そんな新しい音楽の楽しみ方が実現するのではと期待が膨らみますね」

新しい時代の音楽体験を盛り上げる注目コンテンツ

「MUSIC/SLASH」

いつ、どこにいても上質なライブ配信を楽しめる。

業界最高レベルの音質を実現した配信プラットフォーム。動画には視聴制限が設けられ、違法コピーからアーティストを守るためにデジタル著作権管理機能を搭載。複数ステージから同時配信されるコンテンツを自由に切り替えて視聴できるマルチ・タイムテーブル配信機能も発表されている。「ミュージシャンも認める高音質はさすがです」

「360 Reality Audio」

全方位から音が鳴る感覚はまさに“体感する音楽”。

ボーカルやコーラス、楽器などの音源一つ一つに位置情報を付け、球状の空間に配置。生演奏に囲まれているかのような、〈ソニー〉の技術による立体的な音楽体験。対応の音楽ストリーミングサービスを通じて、体験可能。「アーティスト側も没入感をどう表現するかを意識して音楽を設計するので、昔からある曲でも聞こえ方がまったく違います」

「METADIMENSIONS」

いつもの場所が、まったく違う光景に! 別のレイヤーを生み出す技術。

空間をNFTで売買可能にする世界初のプロジェクトとして発足。都市を活用したXRコンテンツを展開し、リアルの体験価値を高める取り組み。2022年10月には、渋谷スクランブル交差点をXR化した「渋谷スクランブルレイヤー」が話題に。「移動する先々でさまざまなNFTに出合えるのが面白い。他のジャンルにも活用できそうな予感!」

「emorip」

音楽だけでなく、ガイド音声まで。街に根付くカルチャーをより深く知れる。

位置情報と連動し、その場所に合った音声コンテンツや音楽を届けるアプリ。徒歩に適した街歩き版のほか、車などの移動にも対応。アプリの一般リリースは、2023年春を予定。宇川さんが渋谷を舞台に選曲と解説を担当した「渋谷オルタナティブカルチャーの源流」のように、土地によってナビゲーターが異なるのも楽しみなポイント。

うかわ・なおひろ 現代美術家、映像作家、VJ。映像やグラフィックデザイン、文筆業や大学教授など、幅広い領域で活動する。2010年に日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル「DOMMUNE」を開局。

※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。取材、文・大場桃果

(by anan編集部)

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