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丁寧に紡いだ文章で、あの頃の自分と向き合う。

  • 2022.12.28

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』

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三國万里子著新潮社刊¥1,650

三國さんの文章には一文字一文字丁寧に愛が織り込まれているから、読んでいると「誰かに丁寧に大切に思ってもらっている」ような気持ちになる。それは三國さんが「恩寵」と形容したような時間だ。

その恩寵の眼差しは、仕事にも、アンティークの腕時計やぬいぐるみにも、子どもや家族にも、そしてご自身にも向けられる。中学生になって、外の世界と折り合いがつかなくなった時のお話も、23歳の時、東京から出て行った時のお話も。大人になった今の三國さんが、当時の自分を抱きしめているかのようだ。「あの時、どんなきもちだった?うんうん、そうだったね」。大人の三國さんが傾聴している。文章に当時の三國さんの気持ちと、大人の三國さんの気持ちが溶け合って、血とパステルカラーと光の美しいマーブル模様が描かれているのだ。

子ども時代日記に書いた「鈍感になってまで生きる意味なんて、あるかな」という言葉にはこう返事をする。「生きてみないとわからないことばかりだったし、知らないことを知ることによって強くなった。それを鈍感と呼ぶなら呼んでもいい。でもそのおかげで今は人としっかり関わりたいと思えるし、ヒリヒリを押さえ込んで、意志の力で少しは周りの状況を変えていける。だからわたしはこれからも生きて、世界の中に入っていきたいと思う」。この、誠実さが本当に凄いと思うのだ。今、私は「あの頃の辛かった自分」に誠実だろうか。

読み終え、私は姉のぬいぐるみのことを思い出していた。感受性とこだわりが強い姉が大切にしていた「キャッキャ」という猫のぬいぐるみだ。私はキャッキャが羨ましくて仕方なくて、同じ種類のぬいぐるみを買ってもらったけれど、キャッキャの特別さは何一つ変わらなかった。あれは、姉がかけた愛情分特別だったのだなと、この本を通して思う。キャッキャは今も姉の家ですやすや眠っている、もう30歳以上、随分長寿猫だ。

文:犬山紙子/エッセイスト2011年作家デビュー。著書に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社新書)など。メディアで活躍するほか、児童虐待防止チーム「こどものいのちはこどものもの」を発足。

*「フィガロジャポン」2023年1月号より抜粋

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