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「私は丁寧にできない、ごめんね」なんて言っちゃダメ! やりたくないことを頑張る必要はない。「タベコト」連載中・日登美さんインタビュー【後編】

  • 2022.12.28

親が子どもに付きまとうのは、ドイツでは恥ずかしいこと

――ドイツに暮らしていて、食の他にも日本の親は頑張りすぎているな、と思ったことはありますか?

子どものしつけですね。日本の子どもはきちんとしすぎている!と感じます。うちの子は自由ですけど、ドイツでは当たり前なんですよ。公共の場で歩き回る子もたくさんいますし、親が手をつないであげることも少ないです。電車にわーっと乗ってきて、あとは自己責任。ダメなことをしたら、その場でまわりの大人に叱られるだけです。

そういう「自己責任」の文化で育っているから、遅刻しても同情されません。遠足のときに遅刻したら、置いていかれますよ。みんなに「それはおまえが悪いからしょうがない」と言われるだけです。そういうことの積み重ねで、ああ、ちゃんとしなくちゃいけないのは自分だって、気づいていくんです。

9歳の息子さんと一時帰国した日登美さん。「ほら、うちの子自由でしょ」と見守りながらインタビューを受けてくださいました。

日本では、親がしつけておくべきという期待があるじゃないですか。基本的にドイツはそれがなくて、昔の日本みたいに、子どもがいたずらして悪いことをしていたら、他の大人が放っておかないです。逆に親が子どもにつきまとって「ああ、そんなことしちゃダメよ」なんてずっと言っていたら、「ヘリコプターペアレンツ」と言われてしまいます。ドイツではそれは恥ずかしいことなんですよ。

子どもが周りの人に怒られたとき、その人とのコミュニケーションの中で学ぶことって大事ですよね。親がなんでもやってしまうのは過保護。みんなが見ている中で、子どもは自由にやるっていうのが当然。そういうふうに育ってきたから、もう、悪いんですよ~ドイツの子どもは(笑)。日本だったら、子どもだから大人の言うことを聞かないといけない、口答えしちゃいけない、と思われるでしょう? そうじゃなくて、一人一人がリスペクトされるべき存在であり、子どもの意見も尊重されます。

子どものためじゃなく自分が心地よいからやる

――「お母さんはこうあるべき」という考え方も、日本とはだいぶ違うようですね。

ドイツは、女性が自分のことを大事にするし、「私は私」という考え方が強いところが、一番日本と違うのかなと思います。私がお茶をいれてあげたり、丁寧にお弁当を作ってあげるのは、女性だからではなく、私がしたいからしていることなのですが、ドイツの女性は「なんで私がお茶なんていれなくちゃいけないの!?」というスタンスが強すぎるんですよ。お茶なんていれてあげたら、逆に叩かれる風土です。でも、それもちょっと違うかなって。役割を期待されてるからやるのではなく、自分にとって心地いいことだけを、取捨選択すればいいと思っています。

――自分が「心地よい」と思うポイントは、どのように選べばいいですか?

「心地よい」って自分を知るってことなんですよ。クレヨンハウスの落合恵子さんの言葉で「大事なのは何かになるではなく、私が私になっていく」というのがあって、それそれ!って思いました。それがいまのお母さんには大事なんじゃないかな。たとえば、インスタできれいなお弁当やきれいな暮らしを見て、テンションが上がる人もいれば、落ち込む人もいるでしょう。でも落ち込む必要なんてないんですよ。いいじゃない、おうちがボロボロでもあなたが幸せなら。自分がやりたいことやればいいし、できないこともあっていい。私だって同じです。

見えているところだけに注目して、「私はこんな丁寧にできない、ごめんね」なんて言っちゃダメですよ。「ごめんね」なんて、ないない! ドイツ人なんて、全然謝らないですよ(笑)! 自分の気持ちを置き去りにしてまで、やりたくないのに頑張ることない、という意味を込めて、連載では「脱・丁寧な暮らし」というのを打ち出していました。

仕事をすることが子どもにも好影響

――モデルのお仕事も再開されたそうですね。仕事を始められていかがですか?

モデルは、たまたま海外で次女がモデルの仕事を始めたとき、「あなたもやったら?」と声をかけてもらうことがあって、やり始めたらおもしろかったんです。子どもが生まれてエコや子育てに気持ちがいったときに、消費という側面があるファッションは、自分の気持ちと折り合わないところがあって、自然と遠のいていました。でもいまは、ひとつのカルチャーの表現として、ファッションの現場に立ち会えることが嬉しいです。今の方が気持ちとしてニュートラルに仕事ができていますね。

コロナになって、ドイツでは一時期、オペラなどの暮らしに根付いていた文化的な娯楽がなくなりました。そのとき、体を維持するものだけじゃ、人間は生きていけないんだってみんな気づいたんですね。美しい音楽を聞くことや、好きな洋服を着ることなど、文化が命を潤す栄養になるものなんだって。私もファッションは消費だけでなく、ひとつの芸術なんだなと感じるようになりました。モデルをすることで、そのクリエイティブな活動に関われることが楽しいです。

私の子どもたちもモデルをしていて、仕事を通していい影響があるなと感じています。特に双子の子どもたちは、人種の問題や先生との関係性など、学校で違和感を感じることがありました。そんなとき撮影の依頼があって「やってみたら?」と行かせたら、「すごくよかったよ。みんながみんなをリスペクトしていて、学校と全然違った!」と喜んでいました。ファッションの現場にいる人たちは、年代もジェンダーも幅広いので、対等に1人の人間としてみてくれたことが嬉しかったんだと思います。マイノリティで苦しんでいた分、ああ、こういう大人と出会わせることは、この子たちにとってすごく意味があるなと思いました。

撮影合間にアトリエ内の台所でスタッフみんなとランチを囲む。そんな様子も連載では紹介しています。

また、いろんな側面を持つ人たちなので、深い話ができることが多いです。現場で難民の話やウクライナ戦争の話などもするんですよ。私が現場に立つことで、そういうソーシャルな場でどういう風にふるまうのかを、子どもに見せることができるのも良かったなと思います。モデルという仕事を通して、子どもに人とのつきあい方とか、ものの考え方などを教えてあげられることが嬉しいです。それに実際モデルに復帰してみて、やっぱり自分はこの仕事が好きなんだなと感じます。

――自分も輝けるし、子育てにもいい影響がある職場っていいですね。

そうですね。この仕事をしていてよかったと思いました。日本と違って、体調を崩したら休みやすいのも特長かもしれません。ドイツでは、医者に行って「あなたは今日休んでください」って言われたら、どんな重役だったとしても休まなきゃいけないんです。私も仕事を始めるとき、「仕事が入っているのに、いきなりコロナになっちゃったらどうするんですか?」と聞いたら、「医者の出す証明書持ってきてもらえばいいですよ」って。だって生き物だから、ぐらいの感覚で話されました。日本は解熱してまで会社に出勤するけれど、こちらは無理をしないってスタンスなんですよ。ちょっとぐらい無理してほしいって思うこともあるくらいですけどね(笑)。

インタビュー/日下淳子 撮影/花田梢 協力/クレヨンハウス

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